アウシュヴィッツの図書係

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087734874

感想・レビュー・書評

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  • アウシュヴィッツ関連の話は避けて来たけど、怖いからと言う理由で真実から目を背ける事は果たして良いのかなと感じ始めて、この本はとっつきやすいかと思い、読んでみた。
    でもやっぱり辛かった。私はいつ終わるか分かっているけど、終わりが見えない中のこの生活は絶望感しかない。それでも本は人の心を癒してくれる。人の心を束縛する事は出来ない。
    被害者加害者全ての人から戦争は夢や希望を奪っていく。ドイツの女性看守も元々は美容師を目指していたのに、今は毎日人殺しをしていると言うくだりは切なかった。
    最後はハッピーエンドでホッと。しかもいまだご存命なのはすごい。強烈な体験をした後でも、人はそれを乗り越えて幸せになれる。主人公が芯が強くて明るいので、救われた。

  • アウシュヴィッツ=ビルケナウ(アウシュヴィッツ第二強制収容所)のBⅡb家族収容所。そこには、青年フレディ・ヒルシュが密かに運営する学校があり、蔵書たった8冊の秘密図書館も併設されていた。

    ヒルシュから図書係に任命された14歳の少女ディタ。一切の図書が禁止された収容所において、看守らに見つからないよう蔵書を隠し持ち、日々先生らに貸し出すのはとても危険な役目なのだが、勝ち気なディタは、その役割を命がけで果たそうと決心する。

    ボロボロになった本を慈しみ、丁寧に修繕するディタ、本の世界に入り込むことで悲しい出来事に耐えていくディタ、死の恐怖と飢え、過酷な労働と伝染病蔓延という極限状態の中希望を失わず生き抜いたディタの逞しい姿に、ただただ感動した。

    本書は、実話を基にしたフィクションということなので、多少の脚色はあるものの描かれていることは基本的に史実。救いのない収容所の悲惨な日常には読んでいてやるせなさが募るが、ナチスによるこうしたユダヤ人迫害の史実にはきちんと向き合う必要があると思った。ミュンヘン郊外のダッハウを訪れた時には、ここまでリアルにイメージすることはできなかったな。

    H・G・ウェルズの『世界史概観』、アレクサンドル・デュマの『モンテクリスト伯』、ヤロスラフ・ハシェクの『兵士シュヴェイクの冒険』、読んでみたくなった。

  •  恥ずかしい話だが、私はこれまで『アウシュビッツ』や『ナチス』といった言葉はなんとなくは知っていたが、きちんと理解していなかった。
     この本を読むにあたって、背景を掴まないことにはしっかりと内容が入ってこないので、自分なりに調べてみた。すると、そこには目を背けたくなるような恐ろしい現実があった。常に死が目の前にある現実。

     そんな現実の中で、本書に登場する少女ディタ。彼女は小さな図書館の図書係をしている。蔵書は8冊。その8冊を監視に見つからないように管理している。見つかれば容赦ない仕打ちが待っている。もしかしたら殺されるかもしれない恐怖に向かい合いながら、心の栄養を提供していた。
     ここの図書館では、この8冊の本以外に『生きた本』がある。それは、先生たちが語ってくれる物語だ。
     明日死ぬかもしれない状況で、こうした本たちはどれほど心の救いになったことだろう。

     本書にはあまりにも悲惨な現実が綴られている。しかし、読者が暗くならずに向き合えるのは、ディタの真っ直ぐで前向きな姿勢が希望を感じさせてくれるからだろう。

    それにしても、今から約75年前の世界でこのような残虐なことが起こっていたとは信じられない。そこでは、およそ東京の人口くらいの人が殺されている。ただ殺されるだけではなく、重労働を強いられ、1日にパンのかけらと水っぽいスープを与えられるだけの生活。寝るのもシラミだらけの布団と、上から排尿やらが垂れてくるベッドに知らない者同士で重なり合うように寝る。殺されるまでもなく、病気や過労死、栄養失調などによる死も多い。人間が、同じ人間にそのような生活を強いる。ただ、ユダヤ人というだけで。

    これは、ノンフィクションに少しだけ肉付けされて出来上がった小説である。この小説を読んだ方は、必ずあとがきまで読んでいただきたい。もう一つの物語に愕然とし、涙することになるだろう。
    この小説を世に送り出し、英雄であるフレディ・ヒルシュの名誉を守った著者に精一杯の拍手を送りたい。

  • アウシュヴィッツで図書係だった少女の話を基にした小説。

    当時の過酷な生活は、想像しても仕切れないものだなと改めて思う。理不尽な死がこんなに近いことなんてない。

    『ごく当たり前の生活が、滑り台を滑るように地に落ちていった。』

    『英雄的行為の大きさを評価し、名誉や勲章を与えるのは簡単だ。けれど、あきらめるという勇気は誰がわかってくれるのだろうか。』

    戦争のもつ力の大きさと、それに抗えない無力感を感じることが出来る上の表現と、目に見えないものの繊細さと美しさを再考させてくれる下の文章に心奪われた。

  • 面白いとか面白くないとかじゃない。圧倒的な史実の前にただ言葉を失う。
    アウシュヴィッツの悲劇は知ってるつもりではいたが、収容所にもいろいろあり、次から次へと移送され、戦況が収束するにつれてユダヤの囚人たちの状況は過酷になる。
    大戦中の戦災は各国によって様々だと思うが、ナチス統制下のユダヤ人の被害ほど人間性を破壊されるものはないと思う。
    徐々に正常な判断力を失い、それは逆に幸せを感じる感度、いや「まだましだ」と感じるレベルを下げてゆく…。
    チェコ系ユダヤ人の少女ディタの使命は、家族収容所内の学校に設けられた「図書館」の蔵書8冊をナチス親衛隊の魔の手から守り抜くこと。どんな劣悪な状況下にあっても、本を通じて得る知識、想像力は奪われない。
    彼女のもう一つの希望は、収容所内のユダヤ人リーダー、ヒルシュ。彼女の心の中の英雄であり続けたヒルシュは移送を前に謎の死を遂げる。だが餓死寸前の最後まで、ディタは彼の無実を疑わない。
    こんな状況の中では、それでも信じる心を失わないこと、そしてただ生き抜くこと自体が唯一の勝利なのだ。
    だがこの狂気の時代では、ナチ側の人間でさえ戦争に翻弄される被害者なのだと思った。
    この史実を知るためだけでも多くの人に読んで頂きたい一冊。
    2018/01

  • 自分がもうすぐ死ぬかもしれないっていう時に
    私は読書できるか自信がない。
    でも
    最後の最後まで読書できる人でいたい。
    精神を穏やかに保つためには、
    やはり読書しかないのかもしれない。

  • アウシュヴィッツには行ったことがあった。この本の主人公であるディタが収容所に送られるほんの少し前の年齢くらいのときに。当時のことはもうよく覚えてないけど、メガネと髪の束と暗い収容所の空気だけをよく覚えてる。
    アウシュヴィッツの物語を読む度見る度に、ここで生き延びようとした人たちの生命力に驚きを覚える。運命による抑圧をどうにか跳ね飛ばそうとするその気力に、人間の底力を感じて、毎回涙が止まらなくなる。一方で、運命によって退けられてしまった人たちへの共感と悲しみも。自分はここにいれられてどちらの側に行くだろう。右と左にわけられるだろう。子供がこんなところに入れられて、果たして1日でも正気でいられるだろうか。子供のために体を売れるだろうか。
    戦争の愚かしさをこうやって目の当たりにする度に、今でも世界で続けられている同じようなことに絶望する。戦争によって人間性を奪われるすべての人たちに悲しみを覚える。どうやったらやめられるんだろう。どうして人は忘れるんだろう。
    せめて自分はどうにかして愚かしい人間であることを忘れずに、せめて足を踏み外さないように、生きていければなと思うばかり。

  • これが実話ベースというのが怖すぎる…ナチスの作品に触れるたび、人間ってこんなに簡単に残酷に人を殺せるんだって恐ろしくなる。著者がジャーナリストなだけに、毒ガス室での殺戮の様子や、バラックでの病に苦しんだ様子が刻々と記録されていて、とても心が痛んだ。でも、希望だったのは、たった8冊でも、理解ができない言語で書いてあっても、本は人々に希望や現実からの逃避を与えられるということ。読書にはそんな大いなる可能性があるということ。そして、ディタの志と使命感、決して諦めぬ心、そして知恵や登場するキャラクターの優しさにとても心が救われた。ナチス側の人物も実在する人物たちで、その後どうなったか、が語られるのも良い。克明な記録として、後世に受け継ぎたい逸品。

    p.35 それは君が勇敢だからだ。勇気がある人間とそれを知らない人間は違う。恐れを知らない人間は軽率だ。結果を考えず危険に飛び込む。危険を自覚しない人間は周りを危ない目に合わせる可能性がある。そういう人間は僕のチームにはいらない。僕が必要とするのは、震えても1歩も引かない人間だ。何を危険にさらしているか自覚しながら、それでも前に進む人間だ。

    p.44 アウシュビッツは罪のない人を殺すだけでなく、良心を殺す場所でもあった。

    p.54 子供ですって?とんでもないわ。子供時代がないのに、何が子供よ。

    p.57 ナチスが音もなく更新してきた1939年3月、全てが始まった。突然全てが崩壊したわけではない。しかし、ディタの周りの世界は崩れていった。最初は少しずつ、次第に加速しながら。配給手帳が配られ、いろんなことが禁止された。カフェので入り、他の市民と同じ時間帯に買い物に行くこと、ラジオの所有、映画館や劇場に行くこと、りんごの購入…。その後、ユダヤ人の子供は学校から追放され、公園で遊ぶことも禁止された。それは子供時代を取り上げるに等しかった。

    p.59 ささやかな思い出だが、ファーストキスは決して忘れない。あの後後の嬉しさを思い出すとウキウキとした気持ちになり、戦争と言う砂漠の中でも、喜びを感じることができた。大人は決して手に入らない幸せを求めて必死にあがくが、子供はその手の中に幸せを見出せる。

    p.87 子供たちもその方がよく聞いてくれるのですよ。頭のおかしいの年寄りの言うことなどだれも耳を貸さないけど、それが本に書いてある事なら…別です。本の中には、それを書いた人の知恵が詰まっています。本を消して記憶を失わない。

    p.104 ディタは12回目の誕生日のために自分で考えていることがあった。夜、母さんが彼女の部屋におやすみを言いに来た時、リサはもう一つの音をだおねだりした。お金はかからないからと断り、12歳になったのだから大人の本を何か読ませてほしいと頼んだのだ。

    p.171 エディタ…。まるで彼が悪いことをしたみたいに言うのね。ただ女ではなく男に惹かれるだけのことでしょう。それが、そんなに悪いことかしら?

    学校では病気だって教えられました。

    本当の病気は、人を許すこともできない、心の狭い考え方だわ。

    p.236 アウシュビッツの夜がふける。暗闇の中、列車が到着し続け、途方に暮れて木の葉のように震える罪のない人々を置き去りにしていく。そして煙突の赤みがかった強い光が、休むことなく炉を燃やし続けていることを物語る。家族収容所に入れられている者たちはシラミだらけのわらぶとんに横になり、恐怖と闘いながら眠ろうとする。一晩一晩を生き抜くことが小さな勝利だ。

    p.283 ディタが本を閉じると、子供たちは立ち上がり、またバラックの中を騒々しく走り回り始めた。消えていた命の灯がまた灯った。ディタは何度も糸で縫い直されたその古い本を撫でた。そしてフレディー・ヒルシュは自分のことを誇りに思ってくれるだろうと幸せな気持ちになった。「いつも前に進み続けること、あきらめないこと」と言うヒルシュとの約束を果たしたのだ。

    p.312 ナチスは私たちから何から何まで取り上げたけど、希望を奪うことはできない。それは私たちのものよ。連合国軍の爆撃の音も前より大きくなってるわ。戦争は永遠に続くわけじゃない。平和が来たときの準備もしなくちゃ。子供たちはしっかり勉強しておかねばね。だって、廃墟になった国や世界を立て直すのはあなたたち若者なんだから。

    p.335 周囲には武装したナチスもいなければサイレンの音も命令の声も聞こえない机の上で、パンのかけらをかじるこの自由な瞬間は、誰にも奪えない。

    p.368 並べられた本が小さな列になった。奥ゆかしい古参兵のパレードだ。この何ヶ月か、何百人もの子供たちが世界中を旅行し、歴史に触れ、数学を勉強するのを助けてくれた本たち。フィクションの世界に誘い込み、子供たちの人生を何倍にも広げてくれた。本の数冊の古ぼけた本にしては上出来だ。

    p.370 強くて前に進もうとすると、勇気がいるでしょう。でも強くない人は、何をやるにも平気なんだから、偉くも何ともないわ。

    p.392 数時間前まで生きていた人間が、まるでゴミのように穴に投げ入れられる。作業員のハンカチは腐臭に耐えるためではなく、顔を隠すためではないかとディタは思った。人間をゴミとして処理するのを恥じているのだ。

    p.412 ディタは振り返って笑顔を向けるが、立ち止まる事は無い。英語なのも、自分には読めないものなのもわかっている。でも構わない。母さんが眠っている間、空きベッドに座って本の匂いをかぎ、ページをパラパラめくって上の音を楽しむのだ。背表紙をもう一度撫でて、表紙ののり付けの厚みを感じる。そこに書いてある作者の英語の名前もエキゾチックだ。再び本を手に取ると、人生がまた始まるような気がする。誰かが蹴散らしたジグソーパズルのピースが少しずつ元に戻る。

    p.418 オータは微笑む。生き生きとした、ちょっといたずらっぽい目が、君が生きていて嬉しい、また会えて嬉しいよ、とディタに語りかけている。ディタをまた、なぜかしら微笑んだ。その微笑みは人と人を結ぶと、それが強い絆になる。彼の朗らかさが出たの心も明るくする。

    作中で出てきた本たち
    ・『兵士シュヴェイクの冒険』
    ・『幾何学の基礎』
    ・『世界史概観』
    ・『ロシア語文法』
    ・『精神分析入門』
    ・『モンテ・クリスト伯』
    ・『ニルスのふしぎな旅』
    ・『ユダヤ人の歴史』
    ・野村路子『テレジン収容所の小さな画家たち詩人たち』
    ・『ポーランドのボクサー』
    ・オータ・D・クラウス『塗られた壁』
    ・ルディ・ローゼン『私は許せない』

  • 「最初のマッチの引用文は、どういう意味?」という質問を受け、気になって読んでみることにした。

    普通に読むと、「闇のひどさが明確になる」という後ろ向きなことなのかな。
    マッチ一本ではあまりに頼りない、というような。

    でもなんとか明るさを見出だそうとする読み方をすることが、読者として救われる態度のような気がした。

  • アウシュビッツ収容所で図書係となるディタ、
    家族、収容所の人々の実話も含めた物語。
    少なからずとも誰もが知るうる
    アウシュビッツでの出来事は、
    人間の尊厳をいとも簡単に消し去ってしまう。
    子供時代を戦争によって奪われたディタは
    常に自分を見失わないように、
    細い足で8冊のボロボロの本を
    胸に抱え泥濘みの地に立つ。
    明日、死ぬかもしれない恐怖に囚われながらも、
    本が持つ力を糧に生きていく。
    簡単な言葉では言い表したくないが、
    美しく力強い話だ。
    「ベルリンは晴れているか」もだったが、
    本という存在は
    人間の存在でもあるのかもしれない。

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