- Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087754421
感想・レビュー・書評
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声に出して読む、それは必要に迫られてやったことなのだけど、それが彼らにとって大きくプラスに働いているように思う。
黙読するよりも、言葉の、文章の流れが掴みやすい。
そして、ずっと言葉を聞いて過ごしてきた登さんは、それにとても敏感だったのだろう。
たくさん読み、たくさん聞き、そして研究して書く。
体の中に蓄積された言葉が、新たな作品となって紡ぎだされる。
でも、それが単なる再構成ではないものになるには、もう一段階超えなきゃいけない壁があるのですね。
図書館と、そして司書をたくさん活用してくれてありがとうございました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読みはじめから絶対に面白いと確信して鼻息荒く読みはじめました。最初の勢いが失速し始めたあたりで不安がこみ上げるも何とか佳作と判断できる範囲内に着地していると思います。
ヤンキーといじめられっこ中学生が共作で小説家デビューを目指す。この舞台設定で面白くなかったら殴るという決意のもとに読み始めました。古今東西の名著を読み、分析して練り上げた物語を文章で形にしていく。実に地味で実にワクワクします。
巻頭でヤンキーが数十年後に亡くなり、その手紙が届くところから始まるので一抹の切なさを抱えながらの読書になります。そうか、いじめられっこが単独で小説家になるんだなと思いながら読むわけです。
そして出会いの時に戻り、ヤンキーは生まれつき文字を判別できない疾患を持っています。しかし物語を生み出す力が並外れている為、どんどんアイディアが産まれます。しかしそれを形にする為には技術がいる。その為に古今東西の名著の分析が始まるわけです。それほど本を読まない人にとってはメンドクサイ展開かも知れませんが、読書を愛する人は少々の穴も許せるくらい心引き込まれます。
表紙の漫画チックな表紙から考えると結構ビターです。全体的に陰った日暮れの美しさが漂っていて僕は好き。でもそんなに評価されなくても驚かないです。 -
不良に騙されて駄菓子屋で万引きを行った中学生、入江一真。あっさりヤクザ風の店員、田口登に捕まり、万引きを見逃すから、毎日小説を朗読しに家に来るよう言われる。といのも、登は小説家になりたいが、ディスレクアシアで文字が読めない。二人の交流と小説のレッスンが行われていく物語。
登のざっくりとした小説の内容要約は読んでいて面白い。けっこう楽しく読めた。小説を書く苦しみをなんとなく感じた。 -
漫画家の表紙がよく似あう、入りこみやすい設定と読みやすい文章だった。この作家のデビューが話題になっていたとき、気になったのだけれど手に取らずにいた。ラストの主人公のデビュー作はそれを連想させるし、こういうことが本当にあったら素敵だなと思わせてくれる。青春小説は喪失の物語だと思うので、その点でも満足。何かに本気で打ちこんでいる人が読んだら楽しめるのではないだろうか。
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おもしろい小説とは何がうまいのか、つまらない小説は何が悪いのか、その研究の仕方が独特。薦められた名作を片っ端から吸収していくのがすごい。小説の面白さを二人で共感できるのもすごいし楽しかったろう。残念な展開になってしまったが、とても濃い時間をすごしたのは羨ましい。
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文字が読めない書けないヤンキーの田口と、賢いけどこの先の未来に希望を持てない中二男子の一真。
一真は駄菓子屋での万引きを見逃す代わりに、田口に小説を朗読することになる。
小説家になりたいという田口。そんなことは無理だろうと思いつつも、言われるまま「小説家になりたい時にオススメの本」を図書館で借りて読んで聞かせる。
どんな本が面白いのか? どうして面白くないのか?
そもそもの読書がなぜ面白いのか、という根本的な問いをストレートに投げてくる。だって彼らは青少年だから。
インチキではない小説を書き始め、表現に悩む。あー本当に小説って面白いなと実感した。
自分の好きな小説のパターンとか、何を重視するかを考えたくなる。
活字中毒はもちろん、ふだんあまり本を読まない人へのガイドブックとしても面白いのかも。 -
なんというか、「小説」とはこーゆーものなのかと。
何気なく読んでるけど、作者の思惑や読ませ方など当たり前だけど練りに練られた物を読んでるのだなぁと。
もっとお気軽な内容かと思っていたので、骨太な内容に面食らいつつ、明るく前向きな雰囲気なのに、ちらちらと不穏な空気というかざわざわとさせられ、後にこう収束していくのかと納得。 -
集英社という出版社や表紙のイラストによって、「バクマン」の小説版かもね…とイメージしつつページを手繰りました。そう、アイドルになる美少女が出て来たりして、コミックのようにバンバン読めて、ハラハラドキドキする展開は予想通りでしたが、でも一気読みして感じたのは、この小説の主人公はキャラの立った彼らじゃなくて、作中に登場する過去の名作たち、なのだということ。この本の最後に記されている「主な登場作品」は、きっと作者の心に刻まれた小説たちであろうし、田口登も入江一真もその小説を紹介するための狂言回しなのだ、と気づいた時、「青少年のための小説入門」というタイトルの意味がストレートに刺さりました。そういう意味では教育センター図書館の司書の「柳沢」さんと「本条」さんがこの小説で果たしている役割は絶大!いい本勧めています!でも、筒井康隆、サリンジャーはともかくとして谷崎潤一郎とか柴田翔とか渋い、渋すぎる…いま文学離れみたいなことが決まり文句のように言われ続ける中、「柳沢さん」「本条さん」ならぬ「久保寺さん」のブックガイド、ティーンじゃなくても読みたくなりました。そして「小説とは何か?」という「久保寺さん」の答えもここに。スキャンダルでノーベル文学賞のない2018年は、「青少年のための小説入門」を生んだ年にもなりました。