マンゴスチンの恋人

著者 :
  • 小学館
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感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093863087

感想・レビュー・書評

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  •  どこかみんな悪を持っていて、それでいて主人公一人ひとりがすべてを知ることもなく、見事に構築された物語だと思う。
     この一冊を通してのカギとなる主人公は誰だろう。まずは笙子だろう。女子高生とセックスし、オーナーともセックスし、女子高生がいる高校教師とも寝ている。男とも寝まくっている。笙子という存在は、たぶん作者は実際に観たことがあるのではないか。ボクも観たことがあるのである。しかも、妊娠するところまで同じである。もし笙子がいた場合、香水はどんなものか、あててみたい。僕は思うに、刺激臭に近い、ワキガみたいな香水ではないか。甘いとか、バニラとかではなく、この香水で男が近づくものなの? という感じの、燻した料理のようなもの。燻製の煙のような感じ。このリアルな笙子を、人間模様で交差させることにより、見事に立体化している。
     透明感のあるリズムと、登場人物のクロスオーバー。どれもスキのない濃密な一編になっている。
     確かに、妙に説明が多いヒガンバナの記憶はややひっかかるかもしれない。だが、この章で出てきたシーンが素晴らしかった。

    ・・・P250
     笙子は顔を上げ、私と目を合わせた。
    「私、子供が欲しかったの。子供を産んだら離婚して、梢と一緒に育てたいと思ってた。本当は梢の元に戻りたくて、ここで会いに来てくれるのを待ってた。そう言ったら、信じる?」
     笙子は真っ直ぐに私の目を覗き込んでくる。
     子供が欲しいと四年前に言われていたら、私はどうしていただろう。とても愛した人が子供を産み、自分の元に帰ってくるのを待っただろうか。真剣に考えようとしている自分にうんざりして、私は目を閉じて小さく顔を振った。
    「信じない。あんたは嘘吐きだから」
    ・・・

     この場面はハイライトだ。

     出てくるキャラはえげつない。援助交際、脅迫、レズビアンセックス、乳房がでてくる悩み、ヤリチンと高校生妊娠。盛りだくさんの中を、登場人物の真っ直ぐさと会話で突き抜けていく。読者は現状を飲み込みながら、前に進んでいくのだが、飲み込んで消化をさせる暇を与えない。
     ヤリチンキャラは、ヤリチンのまま何も変わらないし、笙子は笙子のままだ。主人公のチョイスの仕方が素晴らしい。笙子やヤリチンを主人公にして、妙に「実はあの悪の行動はこういう理由があった」としてしまったら、言い訳臭くなって面白くなくなる。ヤリチンと笙子は徹底して悪のままだから、それはそれでスカッとして面白いのだ。
     複雑な感情を見事に物語を目いっぱい使って表現しきっているので、驚いた。凄い。

  • いい。すごくいい。テーマはセクシャルマイノリティ。でも、それだけじゃない。綺麗な話でも汚い話でもない。夢中になって読んだ。うまく言えない。
    異性愛者であれば手に入れられたもの。手放すことにした女としての幸せ。とてもひきつけられる。悩む、迷う、醜い心を曝け出され、友情が生まれ、愛に気付く。幼い恋と、懐かしい哀愁と、彼岸花とマンゴスチンの香り。まるで柔らかな布に包まれたような。一場面を切り取ったような。どこかで誰かが空の月を見上げているような。世界のどこにいても、見ている月は同じ、そんな小説。
    柔らかな果実。望んでも手に入らないもの。渇望する。眠れない。叫びたくなる。なんだろう。上手に諦めることもできなくて、かといって綺麗な思い出に昇華なんてできない。望むものを持っている子、妬ましい、羨ましい、欲しい、満足できない。欲しいと思っていることさえ言えない者もいる。

    本から目が離せなくなったのは最終話だけど、印象に残っているのは援交女子の話。幸せになんてなれない。2万円は彼女につけられた値段。そばにいたいと思った人に拒絶される。はじめから手に入れている子が妬ましい。だから努力する、手に入れる。だって、分かるもの。天然の美貌を持っている者の傍にいて、どうしろというのか。崇めればいいのか?羨ましいのか?どろどろしたものを隠して必死になって美を求める。それは、そんなに悪いことなのか。いいや、違う。羨ましいのだ。自分ができないから妬ましいのだ。溜め込んでいる気持ちを開放なんて到底できずに、なまじ頭が回転するだけに嘘をついて、傍にいるのは辛い。でもいたい。痛い。矛盾する。
    社会を恨むことができる程子供ではなくて。達観はできない。好きだから。はじめの一話がいとおしい。好きって気持ちは、あとからあとからあふれ出てくるものだから。

  • セクシャルマイノリティを描く、青春小説。
    マンゴスチンの恋人
    テンナンショウの告白
    ブラックサレナの守人
    ヒガンバナの記憶

    テンナンショウの告白が一番好きかな。容姿も環境も違う故に教室では話もしない、でも気兼ねなく楽しい時間が過ごせる関係性の二人って設定が好きなのかも。

    セクシャルマイノリティについて、なるべく理解したいと思っている。
    性的嗜好が違うだけで、人格が大きく違うわけじゃない。でも、その『だけ』が、結構大きなひっかかりだったりする。ヒガンバナを読んだ直後は、その点に思いがいく。
    はしかみたいに同性愛に『罹る』人もいれば、どうしても逃れられず認めるしかない人もいるし、突然自らの性を変えられてしまう人だっている。 ……でも私は、それを分かっていても猶こだわってしまうほど好きになれる人がいることが、ただ羨ましい。
    容姿にコンプレックスがあって積極的になれない人、性格にコンプレックスがあって他人に踏み込めない人、性嗜好が違うから想いを伝えられない人、……自分の行動次第で解決できるコンプレックスもあるけれど、他人と関係を結ぼうとしたら、ままならない問題は誰にだってある。

    同性愛結婚が、認められればいいと願っている。私は異性愛者だけど、結婚はできないのではないかと思う程度には喪女だから。二人で実りがなくたって、独りで花さえ咲かないよりずっといいと思う。子供を産めるか産めないかなんて、一番大事なことではない。

  • 共学公立校を舞台に、セクシャルマイノリティを扱った連作短編青春小説。生物の授業の「生物界の性は多様」という言葉に揺れ動く高校生たちの姿が描かれている。かなり好き。 マンゴスチン…花粉を持たない花を咲かせて実を付ける単為生殖。雌だけで繁殖できる。テンナンショウ属…栄養状態によって性転換する。若くて小さいうちは雄である程度大きくなると雌になる。クロユリ…雄花と両性花が咲く。彼岸花…花は咲いても実を付けない。
    カバー装画が小玉ユキさんだが、彼女の漫画で読んでみたいと思った。
    「マンゴスチンの恋人」「テンナンショウの告白」「ブラックサレナの守人」「ヒガンバナの記憶」

  • 借りた時に「女の子が好きな女の子の話」と聞いて読めるかどうか不安だったが、予想より読みやすく、おもしろく感じた。
    描写が繊細で、たとえ話も分かりやすい。
    GLだけでなく、色んな要素が絡み合い、本編でも出てくるセクシャルマイノリティについて、おおまかにではあるが理解できた。
    内容は、生易しくない、少し厳しいお話ではあったのだが、ただ甘ったるいだけよりは「人生なんてそんなもんだ」と共感しやすくなったのではないだろうか。
    彼女たちのこれからに光あれ。

    ところで表紙のキリコちゃん。
    ブレスレットは、クローバーの方ですよね!

  • セクシャルマイノリティを題材とした、青春物語。
    高校生の揺れる気持ちが書かれている。

    表紙に惹かれ読んだが
    なかなか濃い短編集だった。

  • 高校生のセクシャルマイノリティがテーマの連作短編。
    爽やかだけど甘酸っぱいだけじゃない青春が丁寧で瑞々しい言葉で綴られています。
    テンナンショウの告白が一番好きかな。
    ミモも雪村もすごいかわいい。
    あとロイカ好きのくだりのところ、すごい気持ちがわかってキューンとした。

    ヒガンバナの記憶で、板東が雪村が泣いてたことに気付いていたくだりで、なんか胸が切なくなりました。

  • セクシャルマイノリティをテーマとした小説
    おっさんが電車の中で読むにはちょっとて感じでしたが
    中々面白かったです。

  • 表紙などから「軽く読む」感じでいて…
    確かに読みやすかったのですが、
    内容は結構シビアでした。

    若さや女のずるさなど1冊で色々と感じられて
    久々にキュンとしましたね(笑)

  • ダヴィンチのプラチナ本として紹介されていたので手に取った。著者の略歴には、ダヴィンチ文学賞読者賞受賞とあった。

    前後して読んだ本の登場人物が「りり子」だったせいか、原田ひ香の作品と印象がダブった。

    性に関するマイノリティの問題を伏線にして、同じ高校に在籍する何人かの思いを紹介する。美貌の実森とめだたない雪村の間にうまれた友情がさわやかだった。

遠野りりこの作品

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