横濱王

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 76
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093864183

作品紹介・あらすじ

文化を愛する実業家にして、「無私」の男

昭和13年、青年実業家の瀬田修司は横濱に降り立った。関東大震災から復興した横濱は、ジャズが流れモガ・モボが闊歩する華やかな文化あふれる国際都市。折しも日中戦争が始まり、軍需景気にあやかりたい瀬田は、横濱一の大富豪である原三渓からの出資を得ようと、三渓について調べ始める。
実業家としての三渓は、富岡製糸場のオーナーであり「生糸王」の異名を持っていた。その一方で、関東大震災では私財をなげうって被災者たちの救済にあたった。また、稀代の数寄者としても名を馳せ、茶の湯に通じ、「西の桂離宮、東の三渓園」と言われる名園を築いた文化人。前田青邨や小林古径など、日本画家たちの育成を支援……と、いくら調べても交渉材料となるような醜聞の一つも見つからず、瀬田は苛立つ。
やがて「電力王」として知られる実業家、松永安左ヱ門に会った瀬田は、松永の仲介で三渓に会うことが叶う。
三渓園の茶室を訪れた瀬田は、そこで原三渓と出会ったことで、少しずつ考え方を変えていく。
実は少年時代、瀬田にとっては忘れえぬある記憶があった……。

感想・レビュー・書評

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  • 原三溪は実在の人物だけれど、まわりの人が語る美しい断片ばかりで、具体的な苦労や葛藤があまりえがかれず、確固とした実在感にはやや欠ける。
    原三溪の生涯ではなく、彼について調べる中で変わっていく、瀬田の生き方がメインという気がした。
    横浜の風景を通して、震災後の復興や、戦争が近づいてくる時代の雰囲気を感じた。

  • 大正から昭和にかけての横浜を舞台にした小説。主人公の青年実業家の調査を通して、横浜一の富豪であった原三渓の人物像を浮き彫りにしている。運命的な出会いや、震災からの復興、芸術に対する情熱など、原三渓の魅力がわかる。蓮の花やホタルを見に行っている三渓園だが、原三渓の事を知った後では、感じ方が違うかもしれない。当時の横浜の様子もよく描かれている。

  • 原三渓という人物を初めて知ったが、実業家にして漢詩や書画、茶をたしなむ文化人、そして前田青邨などの日本画家のパトロンとして幅広く活躍したという。このような人がいたというだけで誇らしくなった。

  • 原三渓自身の話かと思って読み始めたら様子が違った。
    第三者の目を通した原三渓の話だった。

  • 2016.12.5

  • 別の主人公を立ててはいるが、三溪園で知られる原三溪の生涯をなぞる物語。

    別の人物を立てることで物語に幅と深みを持たそうとしたのかも知れないが、あまり成功していない。

  • ★2016年3月19日読了『横濱王』永井紗耶子著 評価B+
     初めて読む永井氏の作品。横浜本牧にある三渓園を作った有名な原家の二代目、婿養子の原富太郎通称原三渓を語った物語。表題の横濱王とは、その原三渓のこと。
    直接、本人が語る形を取らず、いかにも胡散臭い中国帰りの這い上がって来た自称実業家の瀬田を通して原三渓を描く。

    私は、原三渓について、その生涯を詳しく知らないので、物語がどこまで事実を書いているのかは分からない。少なくとも物語に出てきた話が事実だとすれば、さすが戦前の大実業家、人間の器が現代とは比べ物にならない大きさである。
    物語としては、間接的にメインテーマの人物を描いたために、やや中途半端になった感は否めないが、新しい手法で描こうとしたトライアルに敬意を評したい。

     瀬田は、一旗上げるために、原の伝手・融資を求めて、原三渓周辺の関係者、電力の鬼といわれた松永安左エ門、日本画家の前田青邨、お手伝いだった中村志乃、三渓が一時ひいきにしていた芸姑の神崎福、などに原三渓の人となりを聞く。しかし、瀬田が聞けば聞くほど、その高潔な身の処し方、立ち居振る舞い、発言には、一分の隙もない。さらには、関東大震災時には、私財をなげうって、横浜復興のために原家が傾いたほどであったことも分かってくる。 幼少期に親を失い、震災で妹を失い、金の苦労を重ねて来た瀬田には、どうにも理解を超えた人物であったことが分かる。それでも、瀬田は松永安左衛門の厚意で、とうとう原三渓その人に面会する。そして、自分の思いをぶつけるが、結局、自分が何も周りを見ていないことを思い知らされる。そして、『己の王になりなさい。ただ、胸の内に静かに問い、貴方は貴方の為すべきことを為せばいい』とアドバイスをもらう。
    結局、瀬田は原から融資を受けることは諦めて、自らの為すべきことは何か、人生の処し方を考えながら、大戦を乗り越えていくことになる。

  • 2016年1月29日読了。戦後の横浜で財を成した「横濱王」原三渓、彼からの出資を取り付けるべく情報収集に動く瀬田だが・・・。「永遠の0」のように、三渓の周囲の人々のインタビューを繰り返すうちに当人の輪郭が少しずつ見えてきて最後に、というお話だが、インタビューされている当人が記憶に基づいて語っているはずがいつの間にか「筆者による事実註」のようになってしまっていて、読んでいて腑に落ちない感覚がぬぐえず気になる。簡単そうに見えて難しい小説スタイルなのだろうな。最後に分かる原三渓の姿も、「こんなすごい男がいた。本当にすごい」という内容で、もっと当人に感情移入できるような描写・エピソードや弱さ、動機などを知りたかったところ。「三渓園」って、今でもあるのね。(無料開放はされていないようだが)

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著者プロフィール

1977年神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経て、フリーランスライターとなり、新聞、雑誌などで幅広く活躍。2010年、「絡繰り心中」で第11回小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。2021年、『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』で第40回新田次郎文学賞、第10回本屋が選ぶ時代小説大賞、第3回細谷賞を受賞。他に『大奥づとめ』『福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得』『帝都東京華族少女』『横濱王』『広岡浅子という生き方』などがある。

「2023年 『とわの文様』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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