船に乗れ! 2 独奏 (小学館文庫 ふ 10-8)

著者 :
  • 小学館
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094063011

作品紹介・あらすじ

衝撃の展開に目が離せない、急展開の第二部

音大附属高校の二年生に進学した津島サトルは、ヴァイオリンの練習に励む南枝里子の姿に触発され、チェロで芸大を目指す決意をする。同級生たちが優秀な新一年生たちに焦りを覚えるなか、サトルは祖父から、ドイツ・ハイデルベルグで二か月間チェロを学んでくるという機会を与えられる。
ショックを隠し切れない南だったが、出発前には「ドイツで楽譜を買ってきて」と笑顔で送り出されたサトル。しかし意気揚々と帰国した彼は、思わぬ事態に巻き込まれていく――。
若さゆえの自我の暴走が、オペラやオーケストラの名曲と共に切なく描かれる。一気読み必至の第二巻!

感想・レビュー・書評

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  •  後半はキツかった。
     前半は絶好調だった。
     南さんとお付きあいを始め、毎日音楽や演奏について熱く語りあい、「二人で一緒に芸大に行ってデュオを組む」という夢も語り合う。
     演奏のほうでも二人とも学校のオーケストラの第二バイオリンとチェロのそれぞれトップを任され、パートを引っ張っていく存在に。さらにサトルはフルートの貴公子伊藤君から、文化祭でバッハのフルート・ソナタの伴奏を頼まれ、美人のピアノ講師、北島先生からもイベントでのデュオの相手を頼まれる。個人レッスンの曲もどんどんレベルが上がり、毎日が忙しくて、楽しくてたまらない。
     そして、極めつけはドイツ・ハイデルベルクへの短期留学。サトルが知らないうちに親族のうちで着々と準備が進められ、「夏休みにハイデルベルクに行ってこい」と突然、お祖父様から言われる。向こうには伯父夫婦がいて、面倒を見てくれ、チェロの先生も斡旋してくれていて、言うことのない留学。恵まれたお坊っちゃん。
     しかし、ハイデルベルクのチェロの先生に言われたことは「君は、暫く音楽を演奏してはいけない。音階だけを練習しなさい。」「君のチェロの弦は鳴っていたが、楽器は鳴っていない」。
    大きな挫折。

     帰国すると、周りからは「音が変わった」と褒められるが、そんなことは耳に入らないくらい悲しい出来事が続く。自分が悪いのかどうかも分からない。理不尽で耐えられない出来事。そして、ムシャクシャして虚ろな心のまま罪を犯す。と言っても、警察に捕まるような犯罪ではない。傍目からは分からない、自分だけがずっと十字架を背負っていかなければならないような罪だ。
     前半はあんなに牧歌的で楽しい青春時代だったのに、急に大人にさせられたようだ。
     音楽あり、哲学ありの高校生活。こんなことを経て、サトルのチェロはサトルだけの本当の音楽を奏でることが出来るようになるのであろうか?俳優さんが自分の人生の波乱万丈を肥しにしているみたいに?
     第3巻が楽しみである。

  • この本の曲のテーマはレ・プレリュード。
    リストはピアニストとして優秀だったかもですけど
    正直オーケストラ作家としてはもひとつ。

    洗足 レプレ youtube ぐらいでヒットします。youtubeの指揮は現田さん。
    本ではずっとデフォルメしてひどく書かれていますが
    舞台となっている洗足の演奏はずっと素敵です。

    ハイデルベルグまで教えてもらいに行ったチェリストが先生から
     Das ist cello.
    と言われ弾いた先生の音階が次元の全く違うものなので正直打ちのめされますよね。
    教えられていたものが実は「私の常識=世界の非常識」というあるあるネタ。
    更には「音を出している‡音楽をしている」というダメ出し。
    音楽家にとっては全否定ですけど本質的。ま、それを乗り越えるのが音楽家だけど。

    それはさておき、正直、この終わり方は困る。
    「船に乗れ!3」を読まなくては気が気でならない。

  • さまざまな要素を含む第二部だから、感想を綴るのはとても難しい。
    我が世の春を歌う恋人たちが希望に満ちた未来を夢見る冒頭から、二人がそれぞれ償いきれない罪を犯して魂の地獄へと落ちていく、その落差はあまりに大きい。

    津島サトルは、南枝里子が行くからという理由で、高校受験の折には一度は不合格となった芸大を再び目指すことになる。
    去年と同じく、オーケストラの練習も始まり、伊藤と文化祭で合奏することになり、更に北島先生には生演奏の仕事を持ちかけられるなど、サトルは多忙であった。

    更に、祖父の勧めで、ドイツに二カ月の留学に行くことになる。
    チェロを学ぶためだ。
    彼はそこで…気取った書き方をすれば、
    『世界の大きさと自分の小ささ』を知ることになる。
    そして、メッツナー先生の最後のレッスンで、音楽に対する認識も変わることとなった。
    大きな成長だった。

    しかし、その裏で進行する、不気味な旋律。

    これまでいろいろな作品を読んで来たが、主人公の相手役というものは、とことん、彼を苦悩させるために存在するものだと思い知った。
    彼を苦しめれば苦しめるほど、彼女は大きな存在になる。
    そして、その点で南は素晴らしくいい仕事をした。

    思えば、彼女はそういう性格だった。
    彼女の不幸は身から出た錆である。
    そして、自分が不幸になる事によって、サトルをも同じ淵に引きずりこむ。
    彼女の行動は陳腐で、ありきたりな転落である。
    なのに、どうしてこの小説は、こんなにも格調高いのだろうか。

    金窪先生の「最後の授業」も印象的。

    そして、佐伯先生を語る時だけは必ず敬語で通しているのも、何か、気になる。

  • 読み始め…16.7.14
    読み終わり…16.7.15

    高校二年の夏。同級生たちが優秀な新入生たちに焦りを覚えるなか、サトルは音楽家である祖父からの薦めでドイツで学ぶ機会を得ますが――

    中だるみの高ニ。誰でにも、どこにでもあるものですね。。男子にも女子にも。

    ドイツでの学びにはドイツ語もわからないまま自分をどう表現し、先生にはどんなふうに思われているのかをわからずにいるもどかしさと恥ずかしさに落ち込む様子が痛いほど伝わってきます。著者さんご自身の体験されたことを元にしたストーリーであることが伺えるいくつかの場面のなかの一つのようで心情がリアルでした。
    場面は違っても、似たような経験のある読み手にもできれば思い出したくない澱んだ空気のなかに呼び戻されて苦い匂いを嗅がされているようで....。

    だけどあの子はいけないよ、サトル。Ⅰの出会いのときからだめだめ...とどうしても賛成してあげられない自分がいました。親目線だからなのでしょうか....。

  • まだ3巻を読んでいないので、最終的にはどうなるのかは分かりませんが、南さんは結局、音楽家ではなかったのではないでしょうか。
    音楽を愛することと、音楽家であることは似て異なることで、彼女は後者ではないのでは?という印象を強く受けました。主人公も、然り。今の所、後者にあてはまりそうな高校生といえば、伊藤くんくらいか……。

    1巻の、メンデルスゾーンのリハーサルのときから感じていた、南さんに対する不信感。それが最悪の形で実現されたというか。やっぱりな、という残酷な納得が強かったです。彼女の軽薄なミス(本人は真面目なのでしょうけど)のせいで起こる、二次災害の方がよほど被害が甚大であったように思います。

    ドイツでのレッスンでの感情は、半分理解できました。たぶん、音楽家を目指しているなら、一度ならず何度も何度も経験する感覚だろうな、と思います。そして、その感覚の描写はさすが、チェロ経験者と思いましたが、でも、たったあれだけで折れてしまうことが、主人公が音楽家でない所以なのでは?と思ってしまいます。

    ただの青春小説の苦悩として読めば、もっと共感できるのだと思うのですが、いかんせん、クラシック音楽に向き合う身としては、歯がゆいというか。君には、その資格はないんじゃないのか?と話しかけたい気持ちに、何度もなりました。

    最終巻で、みんながどういった決断をするのかは気になるので読み進めますが、この巻だけを取り出せば、好きにはなれない一冊でした。

  • 誰しもが持つ、あの時のあの選択。

    (以下抜粋)
    ○先生はそれを、抽象的なはげましの言葉なんかじゃなく、親指の位置で、十六分音符で、つまりはひとつひとつの鍛錬でもって、僕に伝えていたのだ。(P.120)

  • 読了時、前半のプチ留学のことなんかスッカリ忘れてしまうくらい、後半のインパクトに唖然となりました。

    サトルの留学の話以降、南との関係がギクシャクして不在時にどんなことが起こるか、いくつかの予想がありました。結果としてその中の一つが当たっていたわけですが、予想できていたとはいえ南にはガッカリ。

    渡独前のやりとりや手紙の内容はなんだったの?と言いたくなるような結果に、一巻や前半の好印象がそのまま嫌悪感に。

    人によっては、そんな寂しい思いをさせたサトルを責めるかもしれないけど、昨今のゲスでファンキーな人たちの騒がれぶりを見ていると、それは正しくないように思うのです。

    もしかしたら相手の男が女をたぶらかすことに長けたヤツで、南のプライドの高さを上手く突いた結果かもしれないけど、そんなのは二巻読了段階では憶測でしかないし、そんな男が簡単に妊娠させるようなことはしないと思うわけです。

    そんな南にだけでなく、唯一サトルを救ってくれた金窪先生を追いやる原因を作ったサトル本人にもイラッとしました。そして、「おじいさま」に取り入ろうとそんなサトルにまんまと乗せられた久遠とかいうアホババァも、いなくなればいいのにと腹が立ちます。

    一巻でのめり込んでいた分、この後味の悪さはかなり応えました。三巻でなんとかしてもらえなかったら、しばらくこの作者の本は読みたくない気分です。

  • 吐きそう…。津島の津島たる所以はここであったか…。もしかしてまだあったりする?こわいよー。

    途中まで熱い青春小説を読んでいたのに中盤超えたあたりから罪の話…太宰…罪の告白…

    なんでも書けるという藤谷治恐るべし…
    もう3巻読むしか無い。

  • まさかの展開に驚きだった。一生懸命に生きているのに、それが故に犯す過ち。それは若さゆえとは言い切れない、人間なら誰しもが起こしうる過ちなのかもしれない。サトルの絶望も、南の嫉妬と行動も。金窪先生という友人であり師を陥れてしまった過ちも。人生というリセットできない環境で、サトルは今後なにを思いどう行動するのか。今これを書いているサトルはどういう状況なのか。音楽的な内容は何一つわからない。タイトルの船に乗れという言葉と、今の物語がどうつながっていくのか、心の動きに注目しながら次の巻へと進んでいきたい。

  • 2016.10.18 読了

    藤谷治の青春音楽小説3部作。文庫3巻から成る本作の第2部を読了。本巻の副題は『独奏』。第1部では芸大付属高に落ち、三流音楽高校である新生学園付属高に入学し失意にいたサトルが”いい音楽をちゃんと演奏できる仲間”と出逢い、合奏と協奏に向け奮闘した。しかし、第2部では一転、ドイツへの短期留学が引き金となり歯車が狂い始める。”チェロを弾くこと”の先にある”演奏”は見えず、南との関係はサトルにはどうしようもなく修復不可能に。南を失い、サトルは取り返しのつかない過ちを犯す。起・承・転まできた。結末はどうなる。

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著者プロフィール

1963年、東京都生まれ。2003年、『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』(小学館)でデビュー。2014年、『世界でいちばん美しい』(小学館)で織田作之助賞を受賞。主な作品に『おがたQ、という女』(小学館)、『下北沢』(リトルモア/ポプラ文庫)、『いつか棺桶はやってくる』(小学館)、『船に乗れ!』(ジャイブ/ポプラ文庫)、『我が異邦』(新潮社)、『燃えよ、あんず』(小学館)など多数。エッセイ集に『小説は君のためにある』(ちくまプリマ―新書)など。

「2021年 『睦家四姉妹図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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