千羽鶴 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001234

感想・レビュー・書評

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  • 誰もが心の中に複数の感情を抱えている。つらい仕事の最中であっても、多くの人は何かしらの喜びを見出して気を紛らわすだろうし、あるいは逆に、どんなに楽しく過ごしていたとしても、ふとした瞬間に急に虚しくなってしまうこともあるだろう。喜怒哀楽はつねに隣り合わせ、表裏一体なのである。本作において、太田夫人は菊治との行為の最中、かつて関係をもった菊治の父のことを忘れられないように見える。一方で菊治も、最終的にはゆき子と結ばれるが、いつまでも文子のことが忘れられない。ちか子や文子の感情も、それぞれ単純な憧憬とか怨恨とか、とてもひとことでは表せないようなものだ。一般的に恋愛小説というと、とかく恋愛一辺倒になりがちであるが、冒頭に書いたように、人間の感情はそれほど単純ではない。「ケンカするほど仲が良い」とはよくいったものだが、それこそケンカもするし、デートでイチャイチャして、誰の眼からみてもラヴラヴとしか思えないようなまさにその瞬間に、急に冷めたような感情を抱いてしまうこともあるだろう。『千羽鶴』で描かれている人間模様はまさにそのようなもので、ある意味ではベタな純愛小説よりもよほど「正しい」恋愛の姿を描いているといえるだろう。

  • 一を書いて十を伝える作家。何故だかわからないが、書かれてもいない登場人物の気持ちがどんどん流れ込んでくる。川端は日本一文が上手い作家だ。

  • 菊治の父親の不倫相手の未亡人と一夜を過ごしてしまったことが後をひいている。そして、娘の文子につながっていく。

  • 男女の仲ってこんなに自由でこんなにやるせないんだ。

  • 川端康成が1949年から1951年に発表した断章をまとめた"千羽鶴"と、1953年から1954年に発表した断章をまとめた"波千鳥"を収録。"波千鳥"は、取材ノートが盗難にあったため、執筆が断念されてます。主人公の菊治を中心に、色々な因縁の深い女性との関係を描いた作品ですが、心の動きやちょっとした変化を茶器や風呂敷、匂いや光などで表現していて、直接的な表現じゃないのが、逆に官能的な感じで、日本語の力をあらためて感じました。あの後、菊治とゆき子は離婚、最後は菊治が文子を見つけて心中する予定だったとか…。

  • 様々な振る舞いをする女性、それは嫉妬であり、または無垢であり、そして情念。
    自分には、母のために許せない菊治の想いが裏にはあったように見えて、結局菊治は、生きている人を限定すれば誰も憎んでなどおらず、太田夫人のくだりにも通ずるところがあると感じました。
    全体を通して、菊治の感情がさして揺れていないことからも、意識自体は全く登場してこない"菊治の母"に向いていたのではないかと(ただ川端康成氏が器のことを書きたかったという気持ちも大変わかりますし、正直そっちのほうが合点がつきやすいです)。

    どう解釈しても、実に耽美で素晴らしいと思います。
    今まで川端康成というと敷居が高いかなと感じ、敬遠しておりまして…、本書が初めてになり他のはわかりませんが、本書、千羽鶴については大変とっつきやすく、また読みたいと思わせてくれる、そんな一冊になりました。

  • 艶っぽいあれこれが目にはつくけれどそこじゃない。目と耳と肌、自分自身で感じた事・確かめた事以外決して信じてはならない、と改めて教えられるお話し。

  • 茶器を媒介にして情人の触感と匂いを思い出すというストーリー。
    死んだ元不倫相手のその息子と茶会で偶然出会い関係をもつ中年未亡人女性を志野茶碗を媒介にして背徳感と死の予感を描く。おそらく志野茶碗の"名器"は未亡人のそれに掛けてるよね。

    昼ドラのようようなドロドロの展開があるのかと思いきやそうでもなく、あるいは淫靡さや嫌らしさもなく、ただただ世俗を超えた美しさ(妖美?)を表現したところが川端康成だな、といったところ。

  • 母から娘へ、つながってゆく女というものを考えさせられます

  • 傑作だと思います。著者が現実を大きく超えた異世界、白昼夢を漂うような女性の姿を描きながら、あくまで現実との対比として描くことで異常性を際立たせている。ごく日本的な世界観のなかで清と濁、美と醜の表現がすばらしいです。

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著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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