倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010021

感想・レビュー・書評

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  • 漱石は悪くない。ただ僕の集中力と読解力が不足しており、ほとんどページをめくっているのか読んでいるのかわからない感じになり、唯一真面目に読んだのは「解説」という有様。もはや漱石の筆ですらない。自分の実力不足を切に感じた。

  • 倫敦に行くのならば読まねばなるまい。
    そんな考えの元のチョイス作品の一つ、


    いやはや予想だにしなかった。
    あまたと日本作家がいるものだが、まさか夏目漱石に読みにくい作品があるなんて私は思いもしなかった。
    「親切丁寧・夏目漱石」
    が私の中の漱石のイメージである。
    それが裏切られてしまった。


    もともと物語がどうのこうの、という意味でこれを読み始めたのではない。
    倫敦に行った文人=夏目漱石のチョイスである。
    だから「倫敦塔」「カーライル博物館」は現地の見聞録として楽しめたのだが、それ以外の物語でかなりうんざりしてしまった。
    特に「幻影の盾」。
    なんとも追いかけづらいのだ。
    話がぽんぽんと訳のわからない方向に流れて、あべこべすぎる。というわけではないのだが、読みにくく何となくめんどくさい感じで描かれている。
    なぜなのか、わからんさ。
    ただ、読みにくいというよりは、とっつきにくいといった方がいいのかもしれない。
    基本的に私は美文調というものが苦手なのである。
    そのためものすごく時間を消耗してしまった。
    そしてその割にはあまり内容が心に残らなかった一冊である。



    印象的であった短編としては「趣味の遺伝」だろう。
    冒頭の描写、これはやはり舌を巻くものがある。
    以下引用してみる。

     ”陽気のせいで神も気違になる。
      「人を屠(ほふ)りて餓えたる犬を救え」と雲の裡より叫ぶ声が、逆しまに日本海を撼かして満洲の果まで響き渡った時、日人と露人ははっと応えて百里に余る一大屠場を朔北(さくほく)の野に開いた。
      すると渺々(びょうびょう)たる平原の尽くる下より、眼にあまる狗(ごうく)の群が、腥(なまぐさ)き風を横に截(き)り縦に裂いて、四つ足の銃丸を一度に打ち出したように飛んで来た。
      狂える神が小躍りして「血を啜れ」と云うを合図に、ぺらぺらと吐く炎の舌は暗き大地を照らして咽喉を越す血潮の湧き返る音が聞えた。
      今度は黒雲の端を踏み鳴らして「肉を食え」と神が号(さけ)ぶと「肉を食え! 肉を食え!」と犬共も一度に咆え立てる。
    やがてめりめりと腕を食い切る、深い口をあけて耳の根まで胴にかぶりつく。
      一つの脛を啣(くわ)えて左右から引き合う。
      ようやくの事肉は大半平げたと思うと、また羃々(べきべき)たる雲を貫ぬいて恐しい神の声がした。
      「肉の後には骨をしゃぶれ」と云う。
      すわこそ骨だ。犬の歯は肉よりも骨を噛むに適している。狂う神の作った犬には狂った道具が具わっている。
      今日の振舞を予期して工夫してくれた歯じゃ。鳴らせ鳴らせと牙を鳴らして骨にかかる。
      ある者は摧いて髄を吸い、ある者は砕いて地に塗(まみ)る。
      歯の立たぬ者は横にこいて牙を磨ぐ。”



    何という混沌。
    びっくりした。
    漱石にそんな慣れ親しんではいないが、さらっと描写をしてくる作家である認識ぐらいはある。
    さらりとしているが、けして淡泊なのではなくて、受け入れやすい美しさを描く。
    的確なのである、そして灰汁がない。
    そんな漱石がこんな風に描くとはおもわなんだ。
    この人が「蜘蛛の糸」のように地獄を描写をした物語を描いたらそれはそれはおもしろいのではないだろうか。
    私は漱石の著作を全部を読んでいないのでそんな気配を探すのも一興である。
    「趣味の遺伝」は全体としても不思議な描き方で描かれている。
    主人公である私がとても強い。
    帰還兵を迎えたお祭り騒ぎの中で旧友である浩さんにそっくりな人物を目撃し、その姿に彼の墓を参った先である女とのすれ違い、そこに恋物語をうまく鋳造する。
    わかりやすい彼の分析を通した物語は、何とも予想通りのままのそれであるという。
    物語としては十分な流れなのだが、その後の主人公と彼女の面会。
    なんと、そこをはしょってきた。
    それも理由が、”自分は作家ではないから”という理由で、
    なんてこったい。
    ここを描いて箔をつけるかと思ったらそれには興味はねぇ、とばかりにさらりとかわされた。
    驚いた、しかしながらこの小説の主題は「趣味の遺伝」である。
    なるほどわかちゃいるが、さらりとこんなことされるとちょっと参ってしまう。
    うむむ、なかなかのとんちと頑固が垣間見えるかな。




    共感性のある小説、というのではなくて平素の遊び心あふれる夏目漱石なのだろうな。
    文学の知識が深い人にとってはこの後の漱石の数々の著作に向かう様々な要素を拾い集めることができるようだが、私のような一般人にはそこまでの力は残念ながら備わってはいない。
    意外な一面。
    優しいだけではない、夏目漱石。


  • 漱石の最初期の作品集。アーサー王伝説を漱石流解釈で再構築した「幻影の盾」のような作品は、文体が古臭すぎて読み辛かった。随筆と小説の中間のような「琴のそら音」がこの中では完成度が高い。

著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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