彼岸過迄 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010113

感想・レビュー・書評

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  • いわゆる「後期」の、最初の作品です。

    以前の新潮文庫(だったかな?)の裏表紙の紹介に、「漱石の自己との血みどろの戦いは、ここから始まった」みたいに書かれていましたが…日本文学における「巨星」漱石の、絶対に揺るがない、その「美しさ」、「深さ」みたいなものに、打ちのめされたのを、記憶してます。若い頃の、幸せな、記憶です。

  • 主人公は知で動くタイプ

  • 【何気なき,由々しき事事】定職に就かず,何か心に面白きことはないかと日がな考えながら過ごす敬太郎。そんな男の元に現れては去っていく人々の語るところから,世の中を透かし見て得るに至った思いを著した小説作品です。著者は,日本近代を代表する作家の夏目漱石。

    いくつかのエピソードと言っても良い話が収められているのですが,自分が特に興味深く読んだのは「須永の話」。煎じ詰めれば男女の恋仲の話なのですが,須永という人物が女性に叶わぬ恋をしているのではなく,叶わない恋に苛まれている自分を恋しく思っているのではないかと穿って(?)読み取ってしまいました。

    〜要するに人世に対して彼の有する最近の知識感情は悉く鼓膜の働らきから来ている。森本に始まって松本に終る幾席からの長話は,最初広く薄く彼を動かしつつ漸々深く狭く彼を動かすに至って突如として已んだ。けれども彼は遂にその中に這入れなかったのである。其所が彼に物足らない所で,同時に彼の仕合せな所である。〜

    久しく手にとっていなかった間に小説の読み方が自分の中でずいぶんと変化しているような☆5つ

  • 語り手が変わっていく独特のスタイル。
    語り手であり聞き手にもまわる主人公がいますが、ストーリーやテーマの中心になるのは、その友人だと思います。

    夏目漱石好きなだなあ、と私が感じるポイントが存分に表れています。人間の内面が本当によく描かれています。そしてそのいちいちに、そういう気持ちわかるよ、と言ってしまいそうになるのです。

    この時代は美しい。
    個人の内面が、他者あるいは世間にいまほど影響されることはなかったでしょう。それだからこそ、内面を変容させることは困難で、彼らのように自分でどうにかするしかなかった。そこに苦しさと美しさがあるように、私には思えました。

  • 後期三部作の一つ目。主人公の敬太郎がいろんな人の話を聞いていく話。

    もう面白かった‼︎ 最初のほうは「何じゃこりゃ…」といった感じで、なかなか読み進められず、夏目漱石のせっかくの作品なのに好きじゃないわと周りにも言っていたくらい、もう義務感でじりじり読み進めてたんだけど、須永くんとか千代子ちゃんとかの話が出てきたあたりで止まらなくなっちゃって、最終的には読んで大満足の作品になった。須永くんの、なんか内気な一人で考えて一人でうじうじして一人で怒って一人で完結しちゃうとこなんかは自分にもこういうとこあるよなあ…と自分を振り返らずにはいられなかったし、須永くんと千代ちゃんがまとまらないのには切なくなったし、松本のおじさんが捉えどころなさそうなのに須永くん思いですっごいいい人でかっこよかったし、須永くんの口を通して出てきた夫婦評にやられちゃって、もうどうしよう。

    本ってこういう出会いがあるからいいよね。読めてほんとよかった。

  • 心の内側を描いた傑作
    三四郎達より須永はだいぶ自分のことをわかっているし、敬太郎としての読者にそれを話してくれる。

  • 2017.12

  • 文学作品の重みを抹殺しない軽妙洒脱な文体で流石夏目漱石だと感動した。
    100年前以上に書かれたにも拘らず全く古臭い
    男女の複雑な関係が細密に描かれていて、思わず読者を惹き込むのが上手い。
    連作短編集なので時々視点が変化する為、時系列を推測するのが少々難しい。

  • 前半で一年前に詰まってしまい、色々と思うところあってまた読んでみた。

    恋なのか情なのか、分からない。そんな人たちのお話し。
    考え過ぎると人間ってのは前に進む勇気がなくなってしまうのかもしれない。
    勿論それは一つの正解だと思う、人の道に正解も不正解もないんだろうけど。
    でもどこにも行けなくなってしまったら人はどこに落ち着けばいいのだろう。落ち着く必要ってなんなんだろう。

  • 漱石後期の一作目。
    短編が集まって長編が構成されている手法が用いられている。
    本著でも漱石節を堪能することができる。それは繊細な心の内面の描写そして卓越した文章力。

    短編を集めた構成となっていることから、テーマは男女関係、親子関係、高等遊民、資本家等々、多岐に亘る。
    これを贅沢とみるか消化不良とみるか読者で分かれるところだろうか。

    以下引用~
    ・「純粋な感情程美しいものはない。美しいもの程強い者はない」
    ・彼(市蔵)は社会を考える種に使うけれども、僕は社会の考えにこっちから乗り移って行くだけである。そこに彼の長所があり、かねて彼の不幸が潜んでいる。そこに僕の短所があり又僕の幸福が宿っている。

著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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