- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101016016
作品紹介・あらすじ
落ちぶれた愛人の源七とも自由に逢えず、自暴自棄の日を送る銘酒屋のお力を通して、社会の底辺で悶える女を描いた『にごりえ』。今を盛りの遊女を姉に持つ14歳の美登利と、ゆくゆくは僧侶になる定めの信如との思春期の淡く密かな恋を描いた『たけくらべ』。他に『十三夜』『大つごもり』等、明治文壇を彩る天才女流作家一葉の、人生への哀歓と美しい夢を織り込んだ短編全8編を収録する。
感想・レビュー・書評
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一葉が漱石・鴎外に比べて(たぶん)読まれていないのは、その文体がハードルだからだろう。かくいう私も、一葉は本書が初めて。長時間移動する機会ができたので(つまり、他に読むものがないので投げ出せない)、挑戦してみた。
案の定、細部まで追うのには苦労したが、短編なのでとりあえず最後まで読み切る。で、また重要な箇所を読み返すと、だんだん理解が深まった。ネット上にはあらすじ紹介もあるので、後でそれで確認することもできる。
肝心の内容だが、文体の美しさや女性を描いたことの意義は言うまでもなく、展開の巧みさを感じた。なので、先ずは予備知識なしに読む方が、読後の印象は深まると思う。所収作のなかでは「十三夜」が比較的読みやすく、かつ名作なので、これを先に読むのがよいかもしれない。
一葉が残した小説は22編だそうだ。本書は本文250ページ・計8編だけだが、これだけで3分の1以上ということになる。夭折が惜しまれる。 -
「たけくらべ」がとてもよかったです。
最初はまったく意味がつかめなかったので、現代語訳や朗読動画を駆使して読みきりました。
発展途上の明治社会を生きる子供たち。
自由奔放にしているけど、その実まったく自由じゃない彼ら。
それに気づいてしまった美登利の哀しみが切なく、
無邪気な正太もいつか気づくと思うと、やっぱり切ない。
「乳と卵」はおもいっきり これのオマージュだったのですね。
巻子に緑子。
夏子は一葉のペンネームでもあるらしい?
もう一つの表題作「にごりえ」は、文章のリズムが最高でした。 -
少し読みやすめの古典だったー!
恐らくニュアンスわかってない。
森鴎外は読めたのにな…明治の女流文学ってこうなのか?
これしか読んでいないのでわからない。
良いシーンとか絵になりそうな情緒はわかるんだけど、細かなところがね。
句点がなく1章まるまる1文で終わっちゃうところなんかもあったが、文章の節回しは完璧。さすが古典。
裕福な男子が哲学だヨーロッパだと遥かな未来を見据えているのと同じ時代に、貧しい女性は見え透いた未来に一歩ずつ落ちていくだけ。
生まれと境遇が切り離せず、涙を飲んで生きるしかない。
今の日本社会もきついが、この時代も苦しい。
いつの時代に生まれれば幸せだったんだろう。
お金さえあればどの時代でも関係ないのかもしれない。
一瞬で消えた士族の誇りも捨てきれず、お金がなく苦しみぬいて亡くなった彼女を、5000円札に決めたのは誰だろう。目にする度、彼女の無念が脳裏を過ぎる。同時にその筆で稼いだ逞しさも。もう少しの間よろしくね。 -
昭和52年4月10日 六十五刷
「樋口一葉展ーわが詩は人のいのちとなりぬべき」鑑賞記念再読
流石にこの年代の文庫本の活字が小さい事に辟易して、最新刷を購入しようかと思ったが、疲れ眼用目薬を購入して踏ん張り読了。
24歳で肺結核で亡くなった一葉が困窮の中生み出した作品。とはいえ、父親生前はほどほどの生活をしていた様で、学校教育こそ小学校で終わるが、俳句・書道など習い事が可能な時代もあったようだ。
走り書き程度でも、とても美しい字体。豊富に残る作品原稿も素晴らしい。豊富な資料は一葉の妹さんの保管力によるところ。
文体は雅俗折衷体と言うらしく、読み慣れるまで多少違和感はある。慣れると女性らしいかな文字文学の流れを感じる。但し、読点は有るが一文が長い。半ページぐらいは普通。
社会的地位の低い女性の悲哀だけでなく、従順なる強さを描いていると思う。反比例する様に登場する男性の多くに弱さや理不尽さを含ませる。
「たけくらべ」には源氏物語からの引用もあり、残っている資料からも、かなりの努力家であったようだ。そして、その文才も亡くなる前から多くの文士達が認めるところだった。亡くなる前から、一葉が賞賛を受けていた事は慰めにはなるが、もっと多くの作品を残せただろうに。早世は残念。 -
★3.5 「たけくらべ」
文章が美しく、話はせつない。
でも美登利が遊女になる以外の道はないということが頭では分かってはいても、現代の感覚ではいまひとつしっくり理解出来ない。わたしたちは恵まれているんだな。 -
思っていた以上に、人間のレパートリーが多くて驚きました。貧しさに苦しむ庶民の短編しかないのかと勝手に思っていました。それぞれの短編で、もっと色々な種類の複雑な惑いが見事に人間関係の中に投影されていて、文語体なのも気にならないほどでした。
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貧にまみれた切々とした話だが、不思議に読後に寒々としたものはない。人情が書かれているからだろうか。句読点が少なく、カギかっこもないので読みにくいが、次第に慣れる。音読するとわかりやすい。今はあまり使われないわかりにくい言葉には注解ついているのでありがたい。
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独特の文体➕江戸言葉と奮闘しながら読みましたが、結果、樋口一葉の大ファンに。鉛筆で句読点と鍵カッコをつけながら、分からない単語は辞書でひいて、何だか外国語の本を読むような作業。意外と楽しかった。各話とも日本らしい、余韻を残す終わり方が良かった。
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2021年 32冊目
これほど美しい文学を今まで読まずにいたことは自分にとって大きな過ちでした。文語体なので主語がなく場面の切り替わりが急なので多少まごつきますが、現代文でこの繊細な筆致を堪能することはできなかったでしょう。
・たけくらべ
フィリップ・アリエスの「子どもの誕生」のように、当時の日本も子どもって観念はなかったんじゃ。年端をいかないうちから奉公に出て、居住地区間の争いがあり、当然のように運命を受け入れる。あどけない子どもたちと思いきや、初潮を迎え遊女の将来を悟ったり出家したりの登場人物の境遇、心情を推測するのが難しかったです。
最後の1ページ、慈愛と悲壮と諦観がちりばめられたこんな美しい文章があったのかと感動しました。
・にごりえ
情死する男がどうしようもなくて情けない。。お力さんは最期何を思ったのかしら。濁水の中を生き、自分は幸せになれないわと諦めの女性だったけど、心中であれ一方的に殺されたのであれ死の間際彼女の命は一番輝いたのではないかなと。
・十三夜
「当時の貧困ってロクな人生送れないな」と二作読んで感じたあとのラスト作品。お関さんは美登里や力と違って資産もそこそこな家の人妻だし、両親も健在…けれど彼女の孤独感や悲哀は先の女性に負けず劣らず。DV夫から逃げ出したものの子ども可愛さに心鬼にし、流れに棹さす生き方しかできない当時の女性たちのうらめしさ。