- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101034058
感想・レビュー・書評
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個人的名作です。
番頭さんや女中と、お客様のやり取りに風情があり味わい深い作品です。
小説全体から旅情が溢れだし、旅好きでお酒好きな私としては場面毎の風景が頭の中で浮かんできました 笑
コロナ禍のいまだからこそ家で旅行気分に浸れる小説かと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
やっぱり井伏鱒二ですね。番頭の身の回りに起こったこと、訪れた客のこと、お色気な展開に発展しそうで特に何もなかったこと。感情の起伏は乏しく、一歩引いたところから見た光景をただただ書き記したもの。落ち着いて読めます。最高でした。
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今は少し懐かしいものとなってしまった駅前旅館。私たちの世代からすると、古き良き時代の旅館、というイメージです。
そんな上野駅ちかくの旅館の番頭がこの物語の語り部。
この主人公の番頭、めちゃくちゃ女たらしの助平みたいな行動ばかりしていながら、じつはちょっと肝心なところでヘタレ。でもそのキャラがいい。何より、幼い頃からずっと宿屋と親しみがあるだけあって、宿屋の規律不文律がすべてしっかりと身に付いている。そういう、けじめがきちんとあるところが、お客や同業者になめられず敬意をもって接してもらえるゆえんなのだと思う。
この番頭を中心とする「慰安旅行会」のメンツがなかなかの個性派揃いで面白い。このメンバーが集まるとたいていろくなことがない…というよくある話の典型は、昔からあったものなんですね。 -
昭和、戦後のわい雑さ、ワイワイガヤガヤ感。
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2018年9月7日読了。昭和の時代、どこでも見られた「駅前旅館」の番頭をつとめる生野が語る、番頭の仕事や挟持、他旅館との交流や女性への想いなど。井伏鱒二といえば「黒い雨」など重厚な社会派、というイメージがあったがこのように軽妙で面白い小説の書き手であったとは知らなかった!旅館業者だけに通じる隠語の数々や乗客を見極めるテクニックなど、その道のプロならではのトリビアの数々も面白い。最初のとっつきにくささえクリアすれば、昭和の文学には非常に面白い作品がいくらもあるのだなー。
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駅前旅館の番頭が身の上話&その界隈を思い出すように語るスタイルとなっており、これが飄々としているというか、人間関係が感情的にもつれる旅館内抗争を俯瞰的に見つつ情緒的に描く様は、東海林さだおぽくもありますが、それ以上にレイ・デイヴィスに近い気がします。なぜなら少市民生活を語る本人もどこかうだつが上がらない風情を出しているからですかね。
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タイムスリップした感じの読書体験が楽しい。
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とうとう我が愛する森繁久彌が逝ってしまいました。96歳で老衰といいますから大往生ですね。
小さい頃から日本の古い映画も大好きでよく見ていましたが、ことに駅前シリーズ24本は、私にとっては寅さんや釣りバカ以上に親しみ深いものとして記憶の底にあります。
駅前シリーズの森繁久彌と伴淳三郎とフランキー堺は、喜劇というものがどんなにすばらしいものかということを、骨の髄まで私に教えてくれた人たちでした。
正直言って、その後、中学生で漫才に目覚め、高校で落語に開眼しと、お笑いの世界の拡張は著しいものがありましたが、これ以上のものにお目にかかったことがありません。
あっ、それと、この本ですが、たまたま高校生の時に、原作が気になって手に入れてみると、それまで、どうも感じでは獅子文六っぽいと思っていたのが、意外や意外、なんと大作家・井伏鱒二ではありませんか、随分おどろいて、なんだか拍子抜けした覚えがあります。
モリシゲは、私にとって最高の喜劇役者だったのですが、本人はシリアスな俳優を指向して、『夫婦善哉』や『警察日記』を境に、喜劇役者の名を返上してしまった感があります。
あ、思い出しました、あと源氏鶏太原作の『三等重役』というサラリーマンものも面白かった記憶があります。
ただ私は残念ながら、世評高い『屋根の上のバイオリン弾き』は、見苦しくて滑稽なだけだと思って、まったく評価しません。もっとも、あまたの有名無名の日本のミュージカルを見てきましたが、キャッツも宝塚もすべて失格、いまだ日本のミュージカル現われず、という気でいるのですからどうしようもありません。
ともかく、モリシゲさん、お疲れさまでした、喜劇をどうもありがとう。