- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101050188
感想・レビュー・書評
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バラエティ色豊かな短編集。最初期〜中期にわたる作品がバランスよく配置されている。
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最も敬愛する文豪の短編集。
『花ざかりの森・憂国』も良かったけど本書も素晴らしかった。
美しく研ぎ澄まされた日本語の洪水。
一文一文ごとに唸りながら読まざるをえない。
どの短編も印象に残って鮮明に思い出されるな。
一編ごとの簡単なレビューでも。
『煙草』:戦後の混乱期に描いた少年の精神的飛躍。誘惑に揺れる青春期の描写が秀逸。
『春子』:最後の一節の巧みな表現に感服。
『サーカス』:人間の闇の部分を描いた作品。全体から伝わる禍々しい感じ。
『翼』:どこか幻想的で寓話っぽい。
『離宮の松』:ただただ悲劇。奇怪な行動でも納得させられてしまうのが凄い。
『クロスワードパズル』:珍しくサスペンス調で楽しく読めた。
『真夏の死』:表題作。感情描写の巧みさに畏敬の念すら覚える。今まで読んだ短編の中でも指折りの作品。実話ベース。
『花火』:これもなかなかミステリアス。
『貴顕』:淡々とした文体にゆるやかな悲劇が描かれる。美とその盛衰がモチーフの作品。
『葡萄パン』:石原慎太郎や村上龍を思わせるアプレゲール。最近特に好きだわこういうの・・・。
『雨の中の噴水』:コントの中にも鋭い表現が見え隠れしてる。 -
初期短編。今年は三島作品の初期によく登場する少年の青々しさにはまってる。
相変わらずの緻密な描写はいくら読んでも飽きない。
ぴょこりとあらぬ方向にお辞儀をして逃げた、って場面なんてとても好き。
個人的には短編がにがてなので、どうしても「ああもう終わり」とおもうけれど、短編好きなひとにはおすすめ。 -
ねちっこく精緻な文章が、とても心地いい。
表題作は力作。こんな空虚な気持ち、この追体験でしか味わったことがない。 -
良かった!
暗いけどそれが良い、そんな短篇ばかりだった。 -
三島由紀夫は表現がとても繊細で五感に訴えてくる。普通特に気に止めないような細かい事を繊細に表現していて、それが情景を美化させて読み進めるのがたのしい。ドビュッシーの芸術と通じるものがあると感じる。
解説は本人によるもので、メチエが云々と言ってはいるが、「旧作を読み返しておどろかされるのは、少年時代、幼年時代の思い出、その追憶の感覚的事実、幾多の小さなエピソードの記憶等が、少なくとも二十代の終わり近くまでは実によく保たれていたということである。それらを一切失わせたのは一つには年齢と、一つには社会生活の繁忙とであろう。きめこまやかな過去の感覚的記憶を玩弄していられるには、肉体的不健康が必要であり…」とも言っている。僕自信、「煙草」はとてもいい作品だと思う。
「翼」は辛い戦争時代を生きていたピュアな少年少女の話。恋の話というよりは、むしろその空想力の豊かさが魅力的だった。そしてその空想が純粋でいいなあと思った。
「真夏の死」は、自分の境遇と重ねて女性というものはこういうものなんだなあと思ったりした。女性というものは、自分が受けた衝撃に対してこう反応しなくてはならないというものが無意識的にあるのだろうか。それを守らないといけないと思い込み、それが周りを振り回す事になったり…それにしても三島由紀夫はなんでこんな女性の心理をよくわかっているのだろうか。
「貴顕」は主人公の思考・哲学に入り込み、芸術とはなんたるか、世界をどう見ていたかということを楽しめた。
「雨の中の噴水」は、これもまた純粋な少年少女の話。でも「煙草」や「翼」とは違い、メチエが向上したせいか、逆に冷めてるような筆致だった。 -
A海岸は伊豆半島の南端に近く、まだ俗化されない好個の海水浴場である。海底の凹凸が多く、波がやや荒いほかは、水の清らかさも遠浅であることも海水浴に適している。ここが湘南の海岸ほど胤禛をきわめていないのは、ひとえに交通の不便な点に懸っている。そこへ行くには、伊東から乗合自動車で二時間を要した。
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個人的には『煙草』『サーカス』『花火』が好きだった。
次点で『翼』の雰囲気も良かった。
梗概
著者自薦による第二短編集。伊豆今井浜で実際に起こった水難事故を下敷きに、過酷な宿命とそれを克服した後にやってくる虚しさの意味を作品化した『真夏の死』をはじめ、文壇へのデビュー作ともいうべき『煙草』、レスビア二ズム小説の先駆的な作品『春子』、戦後の少年少女の風俗に取材した作品等、短編小説の方法論と技術的実験に充ちた11編を、著者自身の解説を付して収める。 -
大切な人が命を落としたとき、残された人はどのような感情を持ち、そしてその感情は移ろってゆくのか?短編『真夏の死』のテーマ。 「感情」なんて俗な表現を使うのはちょっと申し訳ない気がしますが、僕の語彙ではそんなものです。 「死」というものは、人々は意識的に考えないようにしてるけど、三島氏の作品は「死」と向き合ったものが多いように感じる。