- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101121154
感想・レビュー・書評
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蟻地獄系ホラーかな?
まあおそらく現代社会の比喩なのであろう。どれほど凡庸な生活を送っているつもりでも、転落の穴は意外と近くにあるものである、という…そして、はじめこそどんなにそこからの逃亡を図っても、いつでも出られるとなれば存外安閑に過ごしてしまうものである、と。あるいは、考えてみればこの現代日本の社会でさえ、日々の問題に対処し暮らしていくために場当たり的に働いているに過ぎないのではないか…といったところなのか。
まあそれはそうであるけども…うーむ、やはり個人的には主人公には初志貫徹してほしいという意識がある。
まあ言ったら異世界に連れてこられて、最初は必死で帰ろうと努力するけどその世界に慣れ親しい人や自らの成果が受け入れられるようになってくると案外楽しく安住しちゃうタイプの話だと考えたらいいのかもしらん。
しかし、やはりこの女性のことが理解できない…。いくら自分の家や共同体を維持するためとはいえ、どこからきて何者かもわからない男と…?ええ……?わからん…時代の問題なのか……?まあこの部落自体からして特殊な考え方してるし、あるいはこういった特殊な閉鎖社会を想定する一種のSFと考えたほうがいいのか…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とんでもない表現力。
私たちの生きてる世界は砂の中よりマシなものだ。女は満足した愚者であり、不満足なソクラテスである私たちにより啓蒙される必要がある。
しかし、私たちの目に見えている自由な選択肢というものは、果たして本物なのか。手を伸ばしても届かないのではないか。あるいは手を伸ばした途端、蜃気楼のように消えてしまうのではないか。
そんなことを恐れて、遠巻きに見つめたまま手を伸ばさずに生きていく。 -
男が最初は頑なに抵抗していた生活も、徐々に満足していくところが、人間だなぁという感じがした。
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なるほど、これが安部公房かと。
なんとまあ、人の狂気というものを丁寧に描く。 -
文体も内容も構成も褪せていない小説。あらすじをざっくり見て、ミザリー的な話なのかと思っていたけれど、本当に恐ろしいのは砂漠にいる女ではなく周囲にいる人々の存在(=社会のメタファーなんだろうか)だった。『ロリータ』みたいに冒頭に結末を明かす話だけれど、最終的な主人公の行動は妙にうなずけてしまう。上手いと思った。勅使河原宏の映画版もぜひ観たい。
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砂という1/8mmの鉱物が支配する人間に不寛容な世界。蟻地獄に囚われた虫ケラのようにもがく男。
映像が脳裏に浮かび、男の苦痛が自分ごとのように感じられる描写力の凄まじさ。
男は逃走を試みる中で自問する。果たして人間らしい生活とは何か?自由とは何か?
世界中でベストセラーになるだけのことはある。骨太な衝撃作。 -
この本を読んでいる間ずっと息がつまるような閉塞感を感じていた。砂の大穴という、人間が生活するにはおよそ適さない場所に男は奇妙にも招かれる。そこに期限も分からず閉じ込められるなんてなんて恐ろしいことか。だが男は脱出を何度も試みた最後そんな生活にも些かの満足を得るようになる。思い返せば、虫と砂を求めてこんな辺境にやってきたのも、教師をしていた生活に煩わしさを感じていたからではなかったか。義務からの逃避と自由への渇望を繰り返す男の姿は人間の根源的な何かを映していた。
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自分もこの本を読んで凄く面白かったので、この映画のビデオを昨日借りて見ました。1964年製作の映画ですが、原作のリアリティがそのまま表現され...自分もこの本を読んで凄く面白かったので、この映画のビデオを昨日借りて見ました。1964年製作の映画ですが、原作のリアリティがそのまま表現されていてとても見応えがありました。2018/10/29
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映画観たのですか…‼︎原作ではなかなかイメージできないようなところあるから映画観るのもいいですよね〜‼︎映画観たのですか…‼︎原作ではなかなかイメージできないようなところあるから映画観るのもいいですよね〜‼︎2018/10/29
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吸い込まれていった、砂だけに。
現実ではあり得るはずがなく、下手したら自分でも作れるような設定にここまで緊張感を表現できたのは素晴らしいと思った。女や部落の者たちの態度、劣悪な環境、そして理不尽な仕事、全てに憤りを感じた一方で働けば水がもらえるという洗脳によってだんだんと考え方を変えられていくのが自分でも目に見え、悔しささえ感じてしまった。
「住めば都」これだけでは表しきれないような、生き方を考えさせられる作品だと思う。 -
喉が渇く。口の中がざらつく。
冬の乾いた空気に包まれているはずなのに、じっとりとまとわりつく湿度の高い、熱を含んだ空気を感じる。
読みながら、自分が主人公に置きかえられたように体感してしまう、凄みをもった作品でした。
主人公の身に起こった出来事は非日常的であるにも関わらず、不条理に焦り、憤り、抵抗する男の姿にはリアリティがあります。
結末を見るまではもやもやとした気持ち悪さを抱え続けていそうで、ときに不快感すら感じつつも読むことを止められませんでした。
そして物語の結末、非日常の砂の世界が男を介して私たちの日常に重なる、という感覚を一番強く感じました。
薄ら寒さと倦怠感に包まれて読了。