悲しみの歌 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123141

感想・レビュー・書評

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  • 本作は「海と毒薬」 の続編に位置づけられているらしい。確かに、共通する勝呂という人物、勝呂の抱える罪の意識など共通する部分は多い。
    本作には、人体実験にかかわった若き医者のその後の人生が書かれている。そこには、前作では書かれることがなかった罰について触れられている。
    しかし、本作は「海と毒薬」の続編であって、続編ではない。この作品を通じて遠藤氏は生きる悲しみを丹念に描いている。
    作中では、新聞記者である折戸が勝呂の過去を知り、それを悪として追求していく。その記事によって彼は社内外から評価され、有頂天になる。そこには迷いや、葛藤は一ミリもないのである。



    例の飲み屋で彼は氷の音のカラカラと鳴るオンザロックをもらい、その音をたのしみながら自分のために一人、祝杯をあげた。
    自分はこれからも部長やデスクをアッといわせる記事を書いていこう。そして社会の不正と闘うのだ。
    あのスチュワーデスと交際して、もし二人が理解しあえたら結婚したい。折戸の人生には何の迷いもなかった。
    それはハイウエイのように一直線に真直ぐにのびていた。彼には人間の悲しみなどは一向にわからなかった。うすよごれた人間の悲しみ。
    ごみ箱で野良猫が食べものをあさり、病室ではまた老人が痛みにたえかねて声をあげ、勝呂がそれを慰めながら、モルヒネしか打てぬ苦しさを噛みしめているような、
    人間の悲しみを彼は知らなかった。




    彼の悲しみを理解するのは、無類のお人よしであるおかしな外国人ガストンだけなのである。遠藤氏は彼の中に、神のような人間を創り出したかったのかもしれない。
    ただ、小説の中に出てくる神の様な人間は常に純真無垢で弱々しい。この薄汚れた人間社会で、神なるものとはそこまで弱々しく頼りなきものということなのかもしれない。




    勝呂は二本目のアンプルを切って注射針をその中に入れた。貧しい、あわれな病人たちを救うために彼は、医者になった筈だった。しかし、その彼が今日までしたことのなかには、
    生まれたばかりの生命を消すことも含まれていた。それだけではなく、彼は生きた捕虜を手術室で殺す手伝いさえしたのだった・・・・
    なぜか知らぬが、嗤いが咽喉からこみあげてきた。自分の殺した死体と二人っきりで、祭りの日曜日、この医院のなかでじっと腰かけている。
    五十数年の人生のあと、自分がたどりついたものは、結局、これだったのだと勝呂は可笑しかったのだ。

  • 海と毒薬の後日譚
    裁判で有罪判決を受け服役し刑期を満了した人は・・・
    表街道を歩いちゃいけないの?
    裏街道しか歩いちゃだめなの?

  • 文学部にいったキッカケ2。

  • 人を裁くとは。人を裁かなければならない人たちにはせめて、「自分は裁くことができる人間なのか」「人が人を裁けるのか」日々、葛藤してほしい。
    悲しく、理不尽な世の中だけど、それでも私たちは生きている。生きていけるのは、みんな悲しい思いを抱えているからこその優しさも持ち合わせているからだと思う。

  • 正義をいくら語ってもそこに人の気持ちを汲み取ることができなければそれは単なる言葉遊びにすぎないんだ。今まで日常で感じてた腑に落ちない点ってこれだったんだ。

  • 読みやすい。いいお話。悲しい。

  • 初めて読んだ遠藤周作の本が「海と毒薬」。遠藤周作の作品の中で一番好きな人物が「ガストンさん」。そんな私が読まないはずのない本。最初から最後まで悲しかった。人はどうしてこんなに悲しいのか。

  • 続きだぜ。読めばいい。

  • 『海と毒薬』から20〜30年後が舞台の続編。易しい文体でも内容は結構重い。戦争は終わったけれども、実は一人ひとりの内面には個人ではどうしようもない悲しいものが潜んでいる、というような。

  • よむよむ第28回

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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