- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101131573
感想・レビュー・書評
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最近、なぜかちょっと古い日本語に飢えている。
近頃よく見るつるんとした日本語ではなく、いかにも手で書いたというふうなちょっとごつごつした日本語を。
しかし1962年に書かれたにしては北杜夫の文章はとても読みやすい部類ではないだろうか。勝手な想像だが。
じつは本書は最初のほうを少し読んだまま何年も放り出してあった。が、なんとなく手に取って読み出したら今回は止まらなくなって一気に読んだ。
こんなに面白い本をどうして中途で放り出したのか、過去の自分を問いただしたい。
著者が尊敬するトーマス・マンの『ブッデンブローク家の人々』にならって書いた年代記だそうだが、私はしきりに映画の『ゴッドファーザー』を思い出した。
山形に生まれ、東京は青山に精神病院を構えた院長の精神科医、楡基一郎がドン・コルレオーネ。
基一郎はどこかいかがわしいがカリスマ性があり、その愛想の良さとはったりで病を治してしまうこともある。それなりに職員や患者たちから慕われている。
彼はとにかく能力を利用できる者を病院に集め、自身の病院を繁栄させることに忙しい。代議士にまでなった。
それで、「脳病院」にはさまざまな人たちが暮らしている。
みなが個性的で、どこからが正常で、どこからが患者なのかもわからない。入院費を払わずにずっと病院に暮らしている患者もいる。何をしているのかわからない奇食者もいる。
このカオスがとても魅力的。さまざまな人間カタログがユーモラスに描かれる。
そうしたカオスだからこそ幸福だった時代が描かれる。
本書はじつは義母の推薦なのだが、義母もまた本書にあるような賑やかな子供時代を経験したようだ。私は、血縁のある人ない人が入り混じった暮らしというものをすでに知らない。だからちょっと憧れもする。
さて、ページを繰るにつれて楡家に翳りが射し始める。賑やかだっただけに、不意の没落が胸にこたえる。
楡基一郎の死もまた、ドン・コルレオーネの死とちょっと似ている。
第2部を読み始めたところだが、これから楡家がどうなっていくのか、ドキドキしている。とても不穏である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
明治から大正・昭和と楡家の人たちが織りなす人間模様と世の中の変化。
そこに映し出される庶民の暮らしに、紛れもない日本社会の真実が浮かび上がる。
【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
https://opc.kinjo-u.ac.jp/ -
楡家とその周囲の慣わしは時代と共に変わりゆくが、伝統にこだわり、あるいは恨み、憂うことも各人によって情態を異にする。互いに共有できない繋がりの薄弱さは、すでに共同体の崩壊を示唆するものであり、あくまでも維持するのは張りぼて化した “しきたり” への意地である。その執念が民族の怖さへと通じる。そこにユーモアを加味するところが本作の魅力である。
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一代で脳病院を築いた楡基一郎とその一族の記録だ。大正、昭和の時代と共に紡がれる楡家の物語。個性豊かな面々のその生き様が活写されている。
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井上ひさしの大名作『吉里吉里人』にも通ずる大群像劇。
時代のうねりの中で当主・楡基一郎を筆頭に楡家、関係者の人生の盛衰がドラスティックに描かれる。
ユーモアは控え目だが、作品の渦巻のようなパワーに当てられる。 -
2022I129 913.6/Ki/1
配架場所:C1 -
登場人物の紹介が延々と続いてなかなか物語が始まらないなーと思っていたら、どうやら様々な登場人物のエピソードを淡々と語っていく中で少しずつ物語は進んでいき、そこに面白さを見いだすタイプの小説なのだなーと気がついた。大正から昭和へ。精神病院の患者さんたちと桃子のエピソードがいきいきとしていて楽しい。
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読み進むにつれて辛い展開になっていく
更に辛い未来が待っているだけに -
請求記号 913.6-KIT(上野文庫)
https://opac.iuhw.ac.jp/Otawara/opac/Holding_list?rgtn=1M027045
強烈な個性とバイタリティで東京青山に精神病院を作った主人公の一家の関東大震災、第二次世界大戦を経た苦難の歴史を描いた大作です。トーマス・マン「ブッテンブローグ家の人々」をモデルにしたとされていますが、雰囲気は似ています。一族の栄枯盛衰を描く作品では前半は男性中心、後半は女性中心になる傾向があるのはなぜなのでしょうか?