一の糸 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (551ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101132082

感想・レビュー・書評

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  • 有吉佐和子さん、やっぱり好きだなぁ。
    けど、私は文楽が好きなうえ、沖縄の三線だけれど三味線を弾くのでよかったけど、一般の人はどうなんかなぁ?伝わるんかなぁ?
    芸に或る程度の尊敬を払えるタイプの人でないと、この本は辛いでしょうね。

    有吉さんの何が上手って、ただの芸事の本に終わらず、年とって分かる実の母親の強さ、しなやかさ、結婚をするということの意味、少し前の世代の女性の大変さ、男の静かな友情と呼ぶには軽薄に感じる感情の交流など、様々なテーマを懐深く内包し、かつどのテーマも浅はかになっていないところ。

    文楽もまた、何がすごいって、演奏中に死亡した三味線や太夫と相三味線の仲たがいなどが現実に起きた世界であると云う事。ぽっと出の芸能を解さない政治家の補助金カットに負けず、守り抜きたい関西の大切な芸能なのである。

    有吉さんが文楽から依頼されて書いた「雪狐々姿湖」も見てみたい。

  • なんて力強い主人公。

    最初はよくわからず、ノロノロと読んでいましたが、途中から一気読みです。
    この時代の女性は強いのかしら。

  • こういう女性の一代記もの、とくに明治〜昭和初期の激動の時代の話は好み。夫婦の姿が理解しがたいけど最終的にはうらやましい。

  • 文楽の世界を舞台にした愛に生きた女性の一代記であり、
    芸道一筋に命を賭けた男の物語です。

    タイトルの一の糸と言うのは三味線の3本ある弦の中で一番太くて強い糸なのですが、
    「三の糸が切れたら二の糸で代わって弾ける。
     二の糸が切れても一の糸で二の音を出せる。
     そやけども、一の糸が切れたときには、
    三味線はその場で舌噛んで死ななならんのやで。」
    文中で値段の張る一の糸を贅沢に使う徳兵衛に
    糸を惜しんだ茜が言われるセリフです。

    この本で有吉さんが書きたかったのは
    一途な茜であり、芸道にストイックに邁進する徳兵衛なのでしょうが、
    芯になっているのは、ここかなと思いました。

    茜、徳兵衛、世喜、宇壺大夫みなが一の糸なのでしょう。

    これは文楽という男の世界を舞台にした、
    愛の物語であり、家族の物語であり、
    名人たちがしのぎを削る芸道の物語であると同時に戦いの物語のようでした。

    文楽には全くなじみのない者でも面白く感動出来る作品だと思います。
    これが40年も前の作品だと言うのに全く古びず感動して読める事に感動します。
    覚悟をもった人たちは美しいですね。

  • 久しぶりに有吉佐和子さん。

    造り酒屋の一人娘である茜は、甘やかされて育つ。
    ある日父親と共に出掛けた文楽で、露沢清太郎の弾く三味線の音色に心を奪われる。

    こうはじまる物語で、茜の清太郎への想いと芸一筋に生きる清太郎とを大正末期から戦中戦後にかけて描いている。

    観たこともなく、正直それ程興味もない文楽。
    日本の芸能の中でも歌舞伎や能や狂言などに比べ、文楽は余り知られていないのではないかと思う。
    文楽とか浄瑠璃、義太夫など聞いたことはあるが、恥ずかしながら区別がつかない。そういう世界に生きるひとたちの物語でもあるが、そもそもわからない世界なので想像しづらい面はあった。
    それでも知らない文楽の世界にも、興味を憶えるような一冊だった。

    甘ったれた茜が時に大胆に時に密やかに、ただ直向きに清太郎を想う姿。
    気ままに生きてきた茜が、義理の子供たちのために奔走する姿。
    芸に生きる清太郎を支え気遣う姿。
    様々な茜の描写の中に、女性としての成長と成熟がうかがえる。
    ただ清太郎への想いが激しく、深く考えずに行動してしまうところがある茜に心情としては寄り添いにくいものがある。

    戦中戦後は有吉佐和子さんの作品には多く描かれているが、戦争を知らないわたしからすると呑気とも思える程変わらない日常を送るひとが多いように感じる。
    空襲が激しくなっても疎開もせず三味線を弾きつづけた清太郎や、恐怖を感じながらもそばを離れない茜といった記述からも清太郎の芸事への姿勢がうかがわれると共に、戦中であっても文楽を楽しむひとびとの日常が感じられる。

    清太郎が三味線の糸についてのこだわりが厳しいことに対し、茜が経済的に苦しいため反問したときの言葉が芸事に命を懸ける想いが伝わってくる。

    「三の糸が切れたら、二の糸で代わって弾ける。二の糸が切れても、一の糸で二の音を出せば出せる。そやけども、一の糸が切れたときには、三味線(弾き)はその場で舌噛んで死ななならんのやで」

    ラストは概ね想像通りではあるが、有吉さんの手にかかると場面が鮮やかに見えてくるようで、予想通りでつまらないとは思わなかった。

    茜は有吉さんがよく描く、弱そうでいて芯の通ったキリッとした女性とは少し違うが、寄り添えないと感じたのにも関わらず最後には知らないうちに寄り添ってしまえるのは、有吉佐和子の文章だからだろうか。

  • 久しぶりに文楽を観たので、再読した。
    渡辺保の「昭和の名人 豊竹山城少掾」を再読した後だったので、表と裏、モデルとなったと思われる事件との対比がおもしろく読めた。
    これほどまでに惚れて入れ込んで崇拝できれば、色恋なんぞこえて幸せだろう‥

  • 激情にかられる女の人の気持ちは、若い時ならもっと共感できたかもしれない。今読むと、それはそうしちゃうまくいかない!とか突っ込んでしまう。

  • 男に、三味線に、文楽に。ZOKKONラブだらけ。芯の通った強さ、一途な姿勢が美しくもあり、おいおいおいと突っ込みどころも満載。

  • 我儘な一人娘、茜が文楽三味線弾きの清太郎(徳兵衛)に惚れ、彼の後添えになり、彼の芸を支え見守った話。
    あるいは、茜の目から見た三味線弾き露沢徳兵衛の生涯。

    茜は自分の思いを募らせ暴走、清太郎は三味線馬鹿で女癖が悪い。初めはこの話を読み終えるのは無理かもしれないと思ったけれども、関東大震災、家族の問題、文楽のことなど色々なことが詰まっていて、引き込まれてしまった。
    三浦しをんさんの解説も嬉しかった。

    有吉佐和子さんは学生時代に課題図書で「複合汚染」を読んで苦手意識を持ったのであまり気は進まなかったのですが、また読んでみたい。

    そういえばこれは大正七年頃から昭和の戦後にかけての話で、今、放送している朝ドラ「ごちそうさん」と時代は同じだなぁと、どうでもいいことを思いました。

  • 「妻の座は強い」
    主人公茜の母親の言葉であり、この本を読んだ私の感想でもあります。

    「一の糸」は芸に打ち込み芸に燃え尽きた男と、その男を一途に思い続けた女性のお話。
    造り酒屋の箱入り娘茜は文楽の三味線弾き、清太郎に恋をする。
    やがて二人は手紙を交わす間柄となり、世間知らずな茜は清太郎の妻になれるものと思い込んでいた。
    所が、清太郎には既に妻がいた。
    その後、二十年の時を経て二人は再会を果たし夫婦となる。

    娘時代の茜の純粋な恋心。
    妻となってから夫につくす愛情。
    どちらも胸にじんと染み渡りました。

    私がこの話で最も感動したのは、普段は娘を諌める茜の母が清太郎に向かって凛と言葉を発した場面。
    お嬢さん育ちながら後年逞しさを見せた茜の気質は、このお母さんの背中を見て育ったからだと思います。

    二の糸、三の糸は替りがきく。
    楽しいときだけでなく、苦しいときを共にしてこその夫婦。
    何ものにも変えがたい「一の糸」なのだとこの本を読んで思いました。

著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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