指揮官たちの特攻: 幸福は花びらのごとく (新潮文庫)

著者 : 城山三郎

• 新潮社 (2004年7月28日発売)

感想・レビュー・書評

[たけさんの感想 · 2024年3月25日]

軍神と呼ばれ讃えられた特攻第一号の関大尉と、終戦日の玉音放送以降に長官に伴い飛び立った最後の特攻中津留大尉を中心に、彼らの性格や人とのかかわり方・そして短く儚い生涯を鮮明に書き記している。また残された妻や両親の深い悲しみと苦しみをも取材をもとに書き表していて、読んでいて胸が詰まるほど苦しくなった。
変に脚色をしていないからこそ、また実際に当時海軍に所属していた経験のある筆者だからこそ当時のひりついた空気感に近いものを文章越しに感じることができたと思う。
なぜこのような悲しいことが起きなければならなかったのかと何度も繰り返し考えてしまう。
一人親かつ妻子もいた、本来なら選出対象にはならないはずの若き指揮官が唐突に特攻隊に選ばれたのはなぜだったのか、そして終戦の締結を伝えず若い部下たちを引き連れ敵地へ特攻し果てることを望んだ宇垣長官は、また終戦を知らずに特攻へ赴いた若き隊員たちはどんな心情で当時生きていたのだろうかとぐるぐると考えては怒りか悲しみかやるせなさか、はっきりと言い表せない感情がとどまることを知らない。

[TOMさんの感想 · 2023年8月5日]

終戦記念日が近いこともあり、手に取った一冊。

神風特攻隊の第一号に選ばれ、レイテ沖に散った関行男大尉。最後の特攻隊員として敗戦を知らされないまま玉音放送後に沖縄へ飛び立った中津留達雄大尉。二人の人生を対比させながら、戦争と人間を描いたドキュメンタリー。

昔、鹿児島へ旅行した時、まさに特攻の地である知覧を訪れたことを思い出した。
片道分の燃料しか積まずに、その分爆弾を積んで自らもろとも敵艦隊へ突っ込んでいく。まだ10代の青年が殆どで、その心境とは如何なるものだったのだろう。
その知覧には所狭しと父母や妻あてに書かれた手紙が展示されていた。とても10代とは思えないほどね達筆で…すみからすみまで読み返した記憶が蘇った。もう一度、いつの日か知覧という地へ足を運ぼうと思った。

ウクライナの紛争しかり、今、少なくとも平和な日本の世の中に感謝しなければならない。

[じゅうさんの感想 · 2022年6月10日]

「城山三郎」のノンフィクション作品『指揮官たちの特攻 ―幸福は花びらのごとく― 』を読みました。

夏はねぇ…　なんだか戦記モノが読みたくなります。
忘れてはいけない歴史ですからね。

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戦争を書くのはつらい。
書き残さないのは、もっとつらい。──「城山三郎」

神風特別攻撃隊第一号に選ばれ、レイテ沖に散った「関行男」大尉。
敗戦を知らされないまま、玉音放送後に「最後」の特攻隊員として沖縄へ飛び立った「中津留達雄」大尉。
すでに結婚をして家庭の幸せもつかんでいた青年指揮官たちは、その時をいかにして迎えたのか。
海軍兵学校の同期生であった二人の人生を対比させながら、戦争と人間を描いた哀切のドキュメントノベル。
「城山」文学の集大成。
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昭和十九年十月、フィリピン戦線で神風特別攻撃隊第一号（第一次特別攻撃隊敷島隊）の指揮官として出撃して神風特攻の幕開けをした「関行男」大尉と、、、

昭和二十年八月十五日、ポツダム宣言受諾の玉音放送、つまり戦争終結後、沖縄へ向けて特攻攻撃に出撃して神風特攻の幕引きをした「中津留達雄」大尉、、、

いずれも二十三歳で戦死した二人…　最初と最後の特攻隊を指揮した二人の人生を対比させるとともに、本人だけでなく残された家族の運命ついても綿密な取材により浮き彫りにしつつ、自身の戦争体験も織り交ぜながら、戦時における人間の悲哀を描いたノンフィクション作品でした。


「関行男」大尉のことは、少年時代に読んだ雑誌（多分、『丸』だったと思う…　）の特集記事で多少の知識はありましたが、「中津留達雄」大尉のことはほぼ初めて知りましたね。

「中津留達雄」大尉については、以前に読んだ、「半藤一利」の著作『戦士の遺書―太平洋戦争に散った勇者たちの叫び』を読み返してみたら、「宇垣纏（うがきまとめ）」中将の項で少し触れられていたのですが、あまり記憶に残っていなかったんですよね、、、

それにしても…　終戦と知っていながら、「積極的攻撃中止」の命令を無視してまで、自らの信念を貫こうとして特攻を命令した「宇垣纏」中将の行動については、当時の状況を考慮したとしても納得できないですね。

上官の我侭のために部下を犠牲にした…　としか思えません。

「中津留達雄」大尉の父親が、戦後に語った、

「宇垣さんが一人で責任をとってくれていたらなあ」

という言葉は、終戦後に息子を失った父親の本音だと思いますね。

そして、著者の想定ですが、、、

出撃後に終戦を知った「中津留達雄」大尉は、「宇垣纏」中将の命令に背き、伊平屋島の米軍基地に特攻を行うように見せかけて、意図的に目標を外し、米軍基地の左側にある岩礁に愛機の彗星を墜落させた…　「中津留達雄」大尉に鍛えられた部下は、その行動を見て、指揮官の意図を瞬時に悟り同様の行動を取った…　真相はわかりませんが、そうであったと信じたいエピソードですね。


本人だけでなく、残された家族の、その後の生活も含めて知ることで、戦争の悲惨さを改めて感じることができました。

偶然ですが、ちょうど終戦記念日に読了したこともあり、色々と考えさせられましたね。

[9678さんの感想 · 2021年8月10日]

またこの季節がきました。今の日本の繁栄の影で命を捧げた英霊達に敬意。

[kikko999さんの感想 · 2021年8月8日]

大戦末期のなりふり構わない特攻作戦の惨さを改めて教えてくれる城山氏晩年の作品。「回天」や「桜花」はまだしも、海に潜った人の手による「伏龍」や水上機特攻に至っては何をか言わんやである。自身の入隊体験をまじえながら描かれる指揮官2人の過酷な運命。彼ら所縁の地を目で確かめたり、遺族を探り出して取材敢行したり…戦争の本質を後世に伝えたいとする氏の使命感や熱意がとても強く伝わってきた。ちなみにここで語られるエピソードの数々は「永遠の0」でも引用されている。

[よしさんの感想 · 2020年8月26日]

海軍兵学校の同期で、最初と最後の特攻隊員となった関行男大尉と中津留達雄大尉。「永遠の0」の宮部さんは中津留大尉がモデルになってるのかと、読み終えて思いました。本当に特攻作戦に関する文献は何度読んでも心が痛むし、憤りを覚える。親の気持ちも辛い。

[aswさんの感想 · 2019年9月9日]

ご存知、ビジネス小説作家城山三郎氏による、渾身のノンフィクションである。城山氏自身が戦中海軍に所属していたようだが、若年だったため身分は訓練兵であり、出征は免れた。
著者の無念さが全編を通してにじみ出ている。著者自身の、特攻隊員たちへの最大限の弔いとして本書が書かれたに違いない。というのは、巻末の参考資料が何十冊というすごいリストなのである。何としてでも正確な記録を残そうという著者の執念というか、真摯さが感じられる。
表紙にある写真は、一人目と最後の特攻隊である。最初の関氏は、「僕ほどの技術を持ったパイロットに攻撃をさせずに特攻をさせるとは、バカげている」と言いながらも、命じられて散った。最後に特攻をした人は、何と終戦を知らず飛び込んだのであった。これら23歳の若者たちはともに家庭を持ったばかりで、何とも惜しい。また信じられないのが、戦後その母親たちが後ろ指をさされながら暮らさざるを得なかったということだ。特攻専用機の桜花や、人間魚雷の回天の記述には胸が痛んだ。
若者だった著者自身の回想も入っており、ちょっと読みにくい個所もあるが、極力分かりやすく書く努力が見受けられる。著者の使命感を感じさせる本である。

[haruyatoさんの感想 · 2019年7月12日]

特攻一号士官の関大尉と、宇垣中将と最後の特攻をした中津留大尉を核とした特攻の物語。数々の醜悪な特攻兵器と司令部の指揮。戦争を賛美する者に呪いあれ。

[takahirokazamaさんの感想 · 2018年10月9日]

23歳で特攻で散った関大尉と中津留大尉を中心としたドキュメント．城山三郎の渾身の一冊．経済小説のイメージが強いが自身の経験も踏まえた戦争関係の著書も多い．改めて強く戦争の不毛さをしる．

[いりあさんの感想 · 2018年6月21日]

2001年に小説新潮に短期集中連載された城山三郎氏の小説。日本海軍初の神風特別攻撃隊「敷島隊」の隊長だった関行男と最後の「第七〇一航空隊艦爆分隊」の隊長だった中津留達雄、2人の人生を中心に特攻に関わる海軍の動向を描いたものです。他にも様々な特攻隊員や特攻兵器が登場します。他の特攻を扱った作品と異なるのは、特攻隊員の家族のその後をきちんと描いているところだと思います。特攻を美化することもなく卑下することもなく淡々とした文章ですが行間から作者の気持ちが溢れてきます。作者の丹念な取材による優れた作品です。

著者プロフィール

1927年、名古屋市生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。57年『輸出』で文學界新人賞、59年『総会屋錦城』で直木賞を受賞。日本における経済小説の先駆者といわれる。『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』『小説日本銀行』など著書多数。2007年永眠。

「2021年 『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」