櫻守 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101141091

感想・レビュー・書評

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  • 昨年だったと思うが、氏の「飢餓海峡」を読んだのが最初でそれ以来である。

    「櫻守」
    主人公は、竹部庸太郎と彼に教えられながら、桜の保護育成に目覚めていった一人の庭師:弥吉の物語である。竹部は学生時代から桜に取り憑かれ、生涯を桜の保護育成に捧げた。彼の言葉を借りれば、現在全国にはびこっているソメイヨシノは、最も堕落した品種で、本当の日本の桜といのは、ヤマザクラ、サトザクラだという。同感!!彼は私財を投じて、こうした日本固有の桜を育成すると同時に、御母衣ダムに沈む寺の当時樹齢400年の桜:エドヒガンの移植に成功した。http://www.jpower.co.jp/sakura/collection/col00500.html

    「凩:こがらし」
    宮大工の倉持清右衛門の考え方や行動も「櫻守」に出てくる弥吉と似ていて、親譲りの土地と家を守って一人静かに先祖からの土地に住み続ける。この文章にも、桜の事が書かれている。

    「桜というもんは、大きゅうなれば、自分の身を喰うて空洞になりよる。五十年目頃から、皮だけになって行き始めよる。ひとりでに若木が根を張る。皮の力におぶさって若木は、次第に親の根を喰うて、親は子に根を与え、生きてゆくうちに一体になって幹はさらに太くなる。百年を生きる桜は、どれが子やら親やらわからんものとなる」

    何やら人生とオーバーラップしてしてしまう。3/3(土)に行われる、現代の桜守の一人、佐野藤衛門さんの講演が今から楽しみである。

  • 櫻守は、桜に合う土、桜の配置、桜の保存や接木の仕方
    桜の楽しみ方までをも主人公の弥吉が時に感動し、
    時に落胆しながら語ってくれています。
    師匠の竹部(モデルあり)曰く、染井吉野は日本の桜でも
    いちばん堕落した品種だそうです。
    本当の日本の桜というものは山桜や里桜だという。

    「櫻守」にしても「凩」にしても
    合理性の名の元に本来の姿を壊し、また別物を生み出し
    保存という都合の良い解釈の上に胡座をかき、
    魂の入らないモノに囲まれて満足している現代と呼ばれる時代の
    姿勢に対しての痛烈な風刺であると共に、守り継いで行くという
    本当の意味を教えてくれる作品だったと思います。

    あぁ~すごいモノを読んでしまった。

  • 次から桜の見る目が変わりそう。

  • 情報科教員MTのBlog (『櫻守』を読了!!)
    https://willpwr.blog.jp/archives/51484287.html

  • 表題作「櫻守」が特によかった。
    表現が美しいのに現代語らしいテンポをうしなわず、情景や会話の様子が目に浮かぶようだ。
    二人の男の人生を丹念に描きながら、樹齢四百年の古桜を移植する大仕事、人生の終焉までをあたたかく、時に哀しく描く。
    信念と技のある人が理解者をもってやりたいことをする様は清々しい。
    それに比べて「凩」は人生の悲哀の色が濃すぎて、若輩の私にはつらかった。
    こちらも宮大工の男の晩年を描き、丹念で素晴らしいのだが、子供たちの世代の、古いものをいたずらに古いからと切り捨てるやり方に憤りを覚えながら、死への恐れを見つめて自分の技を注ぎこんだお堂を建てる。
    そこにはそれを見つめる友の目線もあるが、大半にはその寂しさも心からは理解されずに終わる。

  • 二編収録のうち、表題作が特によかった。表現が美しいのに現代語らしいテンポをうしなわず、関西弁が文字の美しさより会話の息遣いが感じられ、情景が目に浮かぶようだ。 読書中爛漫の櫻と木肌のあたたかさを常に肌に感じられる。実在の人物をモデルに二人の男の人生を丹念に描きながら、樹齢四百年の古桜を移植する大仕事、人生の終焉までをあたたかく、時に哀しく描く。 信念と技のある人が理解者をもってやりたいことをする様は清々しい。 それに比べて「凩」は人生の悲哀の色が濃すぎて、若輩の私にはつらかった。 こちらも宮大工の男の晩年を描き、丹念で素晴らしいのだが、その仕事は孤独だ。子供たちの世代の、古いものをいたずらに古いからと切り捨てるやり方に憤りを覚えながら、死への恐れを見つめて自分の技を注ぎこんだお堂を建てる。 そこにはそれを見つめる友の目線もあるが、大半にはその寂しさも心からは理解されずに終わる。映画「はなれ瞽女おりん」で水上勉を知り興味を持った。保守的な考えがハッキリとした頑固オヤジという感じだけれど、それがイヤミにならない。そこそこ厚みのあるのにするすると読まされ、郷愁と土着の雰囲気を骨太な読書でしみじみと感じさせる。

  • 「櫻守」…弥吉という庭師が、桜に生涯をかけた話
    「凩」…老いた宮大工・清右衛門が娘とあれこれやり合いながら、終の棲家を建てる話
    の2編を所収。

    ソメイヨシノについての言及が、意外だった。
    桜守、宮大工、どちらもよく知らないとはいえ、格好いいと思う職業。

  • 2008.9
    美しい関西弁がとても心地よい。
    大きな出来事が起こるわけではない、一人の人生を丹念に描いている。

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著者プロフィール

少年時代に禅寺の侍者を体験する。立命館大学文学部中退。戦後、宇野浩二に師事する。1959(昭和34)年『霧と影』を発表し本格的な作家活動に入る。1960年『海の牙』で探偵作家クラブ賞、1961年『雁の寺』で直木賞、1971年『宇野浩二伝』で菊池寛賞、1975年『一休』で谷崎賞、1977年『寺泊』で川端賞、1983年『良寛』で毎日芸術賞を受賞する。『金閣炎上』『ブンナよ、木からおりてこい』『土を喰う日々』など著書多数。2004(平成16)年9月永眠。

「2022年 『精進百撰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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