- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101164045
感想・レビュー・書評
-
野間文芸賞と川端康成賞のダブル受賞という地味に凄い作品。
特攻隊から生還したという特異な経験が、当時の感情を交えて静かな筆致で描かれる。
幾度もキャリアで使われた本テーマが、晩年での想起という点も感慨深い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
海軍予備学生となった主人公の青年が、創設されたばかりの魚雷艇を志願し、特攻隊として戦争にくわわることを予定された彼の日々の訓練をつづった作品です。
ほかの学生たちにくらべてやや年上の青年は、予備学生となった当初から、周囲から浮いた存在として、彼らのようすを観察していることがえがかれています。それでも、彼もまた戦争へと向かう状況から離れた立場に立っているわけではありません。彼は、特攻隊に身を置くことになりながらも、そんなみずからの運命をどこか遠い所からながめるように記しています。
こうした著者の独特のスタンス、たとえば次の文章によく示されているように感じます。「私は勢い荒々しく声を張りあげて叱咤する結果にならざるを得なかったが、考えてみればつい一、二箇月前までは、魚雷艇の操縦もままならず、魚雷の発射操作に至ってはまるきり飲み込めずに、教官から罵声をあびせられ、指揮棒代わりの棍棒でこづき廻されていた私ではなかったか。それはおかしな具合に意識の中で現在と二重写しになりながら、震洋隊一個艇隊の艇隊長としての配置を与えられただけで、滑稽なくらい自信に満ちた態度で彼らに訓練を施す姿勢が執れている自分を見つめているもう一人の私もいたのだった。」不思議な感懐であるようにも感じますが、戦争において死がせまりつつある状況というのは、あんがいこのようなものであるのかもしれません。 -
海軍士官学校から入隊し、特別攻撃隊に配置され、出撃までの、作者の体験を基にしたフィクション(記録?)。
独白で話が進むが、作者の言いまわしのせいか、酷く読みづらかった。
-
ベニア板製モートーボートの特攻隊隊長、という極限状況でありながら、淡々とした記述に終始するのは、戦地赴任前かつ後年の作だからか。島尾さんの本は初めて読んだが、有名な「死の棘」も読んで見たい。
-
2017.02.26
-
160426読了。
やっと読み終わった!やっと。
実家を出ても本棚にずっと置いてある文庫本です。代表作『死の棘』よりも本作を読もうと思っていたのは、高校の現国の教科書にあった“笛の音”という短編を読んだから。
本作も学生時代から成り上がりの少尉になってからまで、“笛の音”に通じるものがあります。
不条理な暴力、仲間との不和、疎外感、怠惰、些細な記憶…。
戦争という大きな時代の中で、さほど現代と変わらない、少し無気力で投げやりな若者の姿が描かれていて、その若者がうまく生きられない姿がしっとりとページに染み込んでいて、もはや昔の話だけどつい3、4年前の回想くらいにみえる、妙に近い感じがしました。
味気のない、淡々として窮屈な従軍生活で、酒保の羊羮をまるまる一本食べた瞬間が、なんと輝かしいことか。
戦争という強大なテーマに押し潰されない、個人の私小説というぜんたいの雰囲気が素晴らしかったです。 -
1943年に大学生で、1944年に予備学生で、少尉で、特攻隊で、隊長で、という間に終戦を迎えた著者。普通の大学生が1年も経ずして九死に一生を得ない特攻隊に志願し、しかも指揮官へとなっていく異常な環境の中、なにを思い、なにを考えるのか。。といった内容。戦後何年も経って書かれているせいか、とても読み易い。