魚雷艇学生 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101164045

感想・レビュー・書評

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  • 野間文芸賞と川端康成賞のダブル受賞という地味に凄い作品。
    特攻隊から生還したという特異な経験が、当時の感情を交えて静かな筆致で描かれる。
    幾度もキャリアで使われた本テーマが、晩年での想起という点も感慨深い。

  •       ―20081023

    1986年に島尾敏雄が亡くなった時、文芸各誌はこぞって島尾敏雄追悼の特集をしている。そのなかで生前の島尾を知る作家や批評家が追悼文を書き、もっとも評価する島尾作品を挙げていたのがあったが、「死の棘」-6票、「魚雷艇学生」-7票、「夢の中での日常」-2票、といったものであった。概ね批評家たちは「死の棘」を挙げ、作家たちは「魚雷艇学生」を選んでいた。
    巻末で解説の奧野健男は、「晩年の、もっとも充実した60代後半に書かれたこの作品は、戦争の非人間性の象徴ともいえる日本の特攻隊が内面から実に深く文学作品としてとらえられ、後世に遺されたのである。それはひとつの奇蹟と言ってもよい」と。

  • 海軍予備学生となった主人公の青年が、創設されたばかりの魚雷艇を志願し、特攻隊として戦争にくわわることを予定された彼の日々の訓練をつづった作品です。

    ほかの学生たちにくらべてやや年上の青年は、予備学生となった当初から、周囲から浮いた存在として、彼らのようすを観察していることがえがかれています。それでも、彼もまた戦争へと向かう状況から離れた立場に立っているわけではありません。彼は、特攻隊に身を置くことになりながらも、そんなみずからの運命をどこか遠い所からながめるように記しています。

    こうした著者の独特のスタンス、たとえば次の文章によく示されているように感じます。「私は勢い荒々しく声を張りあげて叱咤する結果にならざるを得なかったが、考えてみればつい一、二箇月前までは、魚雷艇の操縦もままならず、魚雷の発射操作に至ってはまるきり飲み込めずに、教官から罵声をあびせられ、指揮棒代わりの棍棒でこづき廻されていた私ではなかったか。それはおかしな具合に意識の中で現在と二重写しになりながら、震洋隊一個艇隊の艇隊長としての配置を与えられただけで、滑稽なくらい自信に満ちた態度で彼らに訓練を施す姿勢が執れている自分を見つめているもう一人の私もいたのだった。」不思議な感懐であるようにも感じますが、戦争において死がせまりつつある状況というのは、あんがいこのようなものであるのかもしれません。

  • 海軍士官学校から入隊し、特別攻撃隊に配置され、出撃までの、作者の体験を基にしたフィクション(記録?)。
    独白で話が進むが、作者の言いまわしのせいか、酷く読みづらかった。

  • ベニア板製モートーボートの特攻隊隊長、という極限状況でありながら、淡々とした記述に終始するのは、戦地赴任前かつ後年の作だからか。島尾さんの本は初めて読んだが、有名な「死の棘」も読んで見たい。

  • 2017.02.26

  • 底本昭和60年刊行。特攻用舟艇震洋隊の指揮官たる著者の自叙伝的小説。著者の部隊は、終戦の前々日に出撃決定されたが、その発令がないまま終戦へ。人間関係の心理的・叙情的な描写が少なく、「同期の桜」で唄われる軍隊世界とは対極。人との繋がりに不器用な著者の様子が目に浮かぶ。また、訓練や修正、古参下士官との関係、さらには軍人らの特攻隊員への腫れ物に触るような振舞い等、淡々と怜悧な目で軍隊内を活写。とはいえ、満足な装備を与えられないまま、命令による死に向き合う(一応自主的な選択機会があったようだが)特攻隊員の諦念も。
    そして、ほぼ1年もの間、死ぬためだけの訓練を部下たちとともに淡々とこなしていく。こんな力のこもらない、パッションを声高に唱えない叙述にも関わらず、なんとも重苦しい読後感が残るのは、著者の力か、それとも読み手の受け取り方なのだろうか。なんとも悩ましい。

  • 160426読了。
    やっと読み終わった!やっと。
    実家を出ても本棚にずっと置いてある文庫本です。代表作『死の棘』よりも本作を読もうと思っていたのは、高校の現国の教科書にあった“笛の音”という短編を読んだから。
    本作も学生時代から成り上がりの少尉になってからまで、“笛の音”に通じるものがあります。
    不条理な暴力、仲間との不和、疎外感、怠惰、些細な記憶…。
    戦争という大きな時代の中で、さほど現代と変わらない、少し無気力で投げやりな若者の姿が描かれていて、その若者がうまく生きられない姿がしっとりとページに染み込んでいて、もはや昔の話だけどつい3、4年前の回想くらいにみえる、妙に近い感じがしました。
    味気のない、淡々として窮屈な従軍生活で、酒保の羊羮をまるまる一本食べた瞬間が、なんと輝かしいことか。
    戦争という強大なテーマに押し潰されない、個人の私小説というぜんたいの雰囲気が素晴らしかったです。

  • 1943年に大学生で、1944年に予備学生で、少尉で、特攻隊で、隊長で、という間に終戦を迎えた著者。普通の大学生が1年も経ずして九死に一生を得ない特攻隊に志願し、しかも指揮官へとなっていく異常な環境の中、なにを思い、なにを考えるのか。。といった内容。戦後何年も経って書かれているせいか、とても読み易い。

  • 特攻隊に志願しながらも、出撃することなく終戦を迎えた筆者の自伝的小説。
    テーマが戦争でしかも特攻隊となると、どうしてもお涙頂戴なエンターテインメントに成り下がってしまいがちである。そんな小説が流行る中、徹底的にドライな語り口で時に考察を交えながら、「死」=出撃までの日々を綴る。

    あくまで冷静さを保ち、特攻隊の内情を客観的に語るその姿勢は文学の域を超えた一つの”記録”として読み継がれていくべきものではないだろうか。

    残念なことに、この物語は前線基地への出発で幕を閉じる。「死」まで極限に近づいた出撃命令と終戦を描いた後編は別作品というところが惜しまれる。

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著者プロフィール

1917-1986。作家。長篇『死の棘』で読売文学賞、日本文学大賞、『日の移ろい』で谷崎潤一郎賞、『魚雷艇学生』で野間文芸賞、他に日本芸術院賞などを受賞。

「2017年 『死の棘 短篇連作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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