ローマ亡き後の地中海世界4: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181974

感想・レビュー・書評

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  • レパントの海戦とは、学生時代はスペインの無敵艦隊がオスマントルコを完膚なきまでに叩きのめしたものと思っていた。この本を含め沢山の書物を読んでいくと、実情は全く異なっていた。スペイン側は勝つには勝ったが、まとまりがなく戦況を決定ずけたのも命を賭したベネチアのバルバリーゴやジェノバのドーリアらだった。更にいったらスペインは対トルコに関しては足を引っ張り続けた存在だった。
    感動したのはマルタの鷹。この強さは世界的にみても比類亡き者。ここまで彼らを奮起させたものは本当はなんだったのか?

  • 前巻からの続きで1538年から17世紀の地中海世界の終りまで
    通してみると
    西ローマ滅亡からの地中海世界からみたイタリア(主にヴェネチア)で
    覇権国家でなかったヴェネチア(じゃなくてイタリアか)が戦っていた
    トルコとスペインと
    『海の都の物語』ではあまり印象に残らなかった海賊について主に描いたお話
    『ローマ人の物語』に比べると気合いの入っていないなかば随筆のような書きぶりだが
    こういう題材をかみ砕いて
    (一神教に冷笑的なところで同意できるという意味で)日本人の書くものが
    他にないので仕方ないのである
    中華の歴史も本邦の歴史も結構だが
    他の世界の日本人からみたお話も読んでみたいもの

  • タイトル通り、ローマ帝国滅亡後の地中海の力関係を書かれているので仕方が無いのですが著者の他の作品を色々と掻い摘んで時間の流れに沿って述べている感じです。
    その幾つもの出来事の中で興味があるものがあれば著者のたの本、例えばヴェネツィアなら『海の都の物語』を、マルタ騎士団についてなら『ロードス島攻防記』を…と読み進めるのが詳しく知りたい人には良いのかも知れません。

    しかしスペインの記述が結構突き放した感じを受けます。あまりお好きではないのでしょうか…。

  • 地中海を巡るスペイン、フランス、ヴェネツィアといった大国とオスマン帝国のせめぎ合いが続く。この時代は海の現場においても、スペインの海軍提督アンドレア・ドーリアや、オスマン側のドラグー(赤ひげ)、ウルグ・アリなど魅力的な人物が描かれている。

    相変わらずスペインにはやや冷淡な記述が続く。ヴェネツィア、ローマ教皇、スペインが連合してオスマン帝国に挑んだプレヴェザの海戦では、特にスペインのドラグーがスペインの立場に固執して統一した動きが取れず、大した戦いもせずにキリスト教国側が敗戦する。これを機にヴェネツィアはカルロスとドーリアへの不信を深め、オスマンとの講話へ向かっていく(p.27-29)。1538年のこの戦いはインパクトが大きく、サラセンの海賊の跋扈を招く。まるで中世に逆戻りしたような様相を地中海は呈することになる(p.31)。

    キリスト教国、特にスペインの反撃の試みは成功しない。1541年にカルロスは自らアルジェ攻略に乗り出すが、悪天候によりほぼ自滅する形で撤退。1561年にはフェリペ2世がトリポリの攻略を試みるが、連合軍は統率がとれておらず失敗する。かくして海賊たちに一層の自信を与える結果に終わる。

    「20年前にはアルジェ攻略を期したカルロスを敗退させ、今度は、トリポリ攻略を期したフェリペの軍を敗退に追いやったのである。わずか20年の間に、ヨーロッパ最強のスペインの王である父と子を、二度までもつづけて敗退させたのだ。海賊たちが、オレたちの天下、と思ったとて当然である。いかにトルコ帝国の後援があろうと、前線で戦ったのは彼らであったのだから。」(p.147)

    スペインが強大な力を持っていても世界秩序の確立に成功せず、パックス・ヒスパニカはならずパックス・ブリタニカへ時代が向かっていく理由。それは、他民族を活用する才能、政治的センスの欠如に求められている(p.242)。インカ帝国を利用せずにただ滅ぼしたのはその証である。スペインと対照的なのがヴェネツィアだ。レパントの海戦以降の話になるが、ヴェネツィア貴族の娘で海賊に捕われ、スレイマンのハーレムに入り後のスルタン、ムラード3世の母となったチェチリアのエピソードが扱われており、面白い。ヴェネツィア側はチェチリアを密かに巧みに利用し、オスマン帝国との講和に導く(p.267-276)。ヴェネツィアの巧みなインテリジェンスは本書で何度も言及される。

    さてアルジェ攻略、トリポリ攻略での劣勢を翻すきっかけになるのが、1565年のマルタ騎士団によるマルタ攻防戦と位置づけられる。マルタ騎士団の見せた強大な精神力による防衛成功は人々を勇気づける。人々は海賊から逃げるだけではなく、マルタでやったように城塞にこもって海賊を迎え撃つように代わっていく。16世紀後半のこの時代、各地の海沿いの城塞が大幅に強化される。対策なき精神主義は愚策だが、対策を立てる力があるのに諦めてしまっている人たちには精神主義も有効なのだ(p.213f)。

    一方、スレイマンを継いだスルタン、セリム2世は1570年にキプロスを攻める。なぜキプロスなのか、特に地中海の要衝クレタでないのはなぜかについて、セリム2世の父への対抗心とキプロス産のワインが欲しかったからという理由が書かれている(p.225)。これはちょっと表面的すぎる記述に見える。もっと背景となる理由があるだろう。ともあれキプロスはオスマン帝国に奪われるが、続くレパントの海戦はキリスト教国側の勝利に終わる。そしてこの海戦にてオスマン海軍はほぼ壊滅、以降地中海の制海権はキリスト教国側に移る。聖ステファノ騎士団とマルタ騎士団の隆盛はレパントの海戦以降、オスマン側の海軍力が衰退して海賊の襲撃が減ったことを意味する(p.276-287)。

    レパントの海戦を境に地中海で大きな動きはなくなる。それ以降はヨーロッパの中心は北へ、戦いは大西洋へ移っていく。本書もここで閉じる。テンポの良い記述と魅力的な人物の活写が楽しい本だが、いくつか不満点も残った。(1)人物中心に描いているために歴史上の転換点が人物の動機を基にしている。ブローデルを読んできた私にはあまり納得がいかなかった。(2)ヴェネツィアへの肩入れが大きく、スペインとフランスがあまりにお粗末に描かれている。また国王レベルの人間よりも現場の人間を著者が好きなようで、カルロス1世やフェリペ2世よりドーリアの方がよっぽど魅力的に書かれている。(3)キリスト教側から海賊の話を巡っている本なので当たり前だが、イスラム勢力=海賊=野蛮、それに対してキリスト教国側=海賊に晒される可哀想な民衆=文明という図式が全般を占める。イスラム勢力側について読者に残る印象は悪いものしかないだろう。それは違うのではないか。

  • 歴史は繰り返す。
    ローマの歴史家が言った言葉か。。。
    正に繰り返してるな〜

  • 1~4巻を読了。

    いやはや、暗黒の中世とはよく言ったものである。これまでは、中世の暗黒とは、キリスト教世界の中で行われてきたことを指すのだとばかり思っていたが、そんな生易しいものじゃなかった。

    イスラム世界とキリスト教世界の対立とは、ここまですさまじいものだったのか。

    異教徒の海賊が現れて、自分の住む町を襲い、住民を拉致してゆく。この時代の沿岸部に住む人たちには、きっと「安心」はなかったのだ。

    直接とりあげられてはいなかったけれど、イベリア半島での「レコンキスタ」の意味合いが、この時代を知るとよく理解できる。

    そんな中、身を切り命がけで、拉致されたキリスト教徒を救おうとした人たちがいたことに、驚きと尊敬の念を抱きます。

    しかし・・・これは決して過去の話ではないのだと、「イスラム国」の暴挙のニュースに触れるたびに思うのです。

  • 「ローマ亡き後の地中海世界」塩野七生、読了。
    ローマ帝国滅亡から大航海時代前までの中世、ルネッサンスまでの地中海のまわりの国と人々の歴史物語である。その多くはイスラム世界の台頭と神聖ローマ帝国との戦いの歴史である。
    イスラム勢力は中世後半からはオスマン帝国になり強大な力を持つことになるが、ヨーロッパ側(神聖ローマ帝国側)は内部抗争に明け暮れていてまとまりがなく、ほとんどはイスラム勢力に押されっぱなしだったと言える。文明的にもイスラム側の方が先進国であったのは周知の事実である。
    ヨーロッパ側の地中海沿岸部の人たちはアフリカ沿岸の都市から繰り出されるイスラムの海賊たちに略奪され連れ去られ奴隷として働かされており、海賊行為が北アフリカのイスラム教徒の一大産業になっていたというのだから驚きだ。
    いずれにしても山谷はあっても約1000年にわたってキリスト教国はイスラム教徒の海賊に略奪されており、非常な脅威となっていたということはあまり知らなかった。そして、キリスト教国から誘拐され奴隷となっていた人たちを金を払って買い戻すことが18世紀まで続いていたということを考えると、当時のキリスト教徒のイスラム教徒に対しての感情が尋常でないことが理解できる。もっともその大半は、かなわないというあきらめと恐怖だったようだが。
    副題にある「海賊、そして海軍」の海軍はヨーロッパ側のことであり、海軍が整備されてようやくイスラム側の海賊の勢力が弱まってくることになる。
    中世は暗黒の時代というイメージだったがゆっくりとした時間の流れの中で大きな変化のあった時代であったことがわかり、興味深く読了した。

  • 1〜4巻まで読了。
    バッサリ切ってしまうと、地中海世界にとって、中世か否かは、イスラム勢力の広さと海賊の有無で計れる。
    18世紀にもなると、大西洋では大航海時代を迎えているのに、地中海ではナントカ騎士団がまだしっかり現役だったり、ガレー船が使われていたりといろいろ過去の遺物が残っている、はたからみると奇妙な状態だったのだろうな…。
    その頃日本はまだ江戸時代なので、あまり人のことは言えないか。

  • 地中海を舞台にした強国のパワーゲームの時代。トルコもスレイマンが陸・海と攻めあがってくる中、マルタ島を拠点にする聖ヨハネ騎士団が最前線でその進行を押しとどめる。それをきっかけに、キリスト教圏・イスラム教圏のバランスも少しずつ変わっていく。
    地中海という、狭くて広い海を巡り、さまざまな船・人・策略・駆け引きが行き交ったこの時代。非常に見ごたえのある一大スペクタクルでした。このあとの歴史がもっと知りたいですね。

  • 2014/9/18読了。京都駅のふたば書房で購入。
    シリーズ完結巻。ここらへんに来ると西欧世界が勝つ機会もけっこう出てきて、特にマルタ強い。
    しかし、結末としてはどっちかの完全勝利というよりは、そもそも地中海の重要性が落ちたのであった・・・というのがなんとも現実感。
    あと塩野七生の他のシリーズもまた読みたくなるよね。海の都とかオスマン帝国系の各話とか。

塩野七生の作品

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