それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101204963

感想・レビュー・書評

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  • 高校入学前課題のために読んだ。いろいろ書きたいことは本当にたくさんあるが、感想文的なものを課題として課されているため、ここではあまり書かないことにする、、、という口実にしておく。

    ただ、たった5日間の講義でこんな膨大な情報を噛み砕ける歴研メンバーには驚いた。私なんて、5日どころか1ヶ月くらいかけてヒーヒー言いながら読んだというのに……でも、この本は私の歴史苦手意識をちょっと払拭してくれた気がする。歴史は常に過去がもとになる学問だ。だからこそ、歴史は数学みたいに、過去という前提の理解が必須で、でも私は現在とか今に夢中になりすぎてて、それが苦手の要因なのかなぁと思った。

  • 本書は、東京大学文学部の加藤陽子教授(日本近現代史専攻)が栄光学園の中高生に対して行った5日間の集中講義の記録。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争の対外戦争を俯瞰、分析しながら表題の答えを導き出そうというもの。500ページの厚い文庫ですが、面白く読めました。

    本書の読みどころは:

    ○加藤さんは講義中、頻繁に生徒に問いかけを行っています。また、生徒の返答も立派です。例えば、「日清戦争の後、国内政治でなにが最も変わったでしょうか?」という問いに対して、生徒たちは「財政の好転」、「普通選挙運動」、「政府に対する失望感と不信感」といった回答を提示します。さすが「栄光学園」と思いましたが、中高生に対する対抗心もあり、こちらも講義に参加しているような気分になりました。本書は歴史の動きについて考える機会を与えてくれます。

    ○本書は豊富なデータ、文献、日記を提供して、5つの対外戦争についての日本の経済的、政治的事情、日本国民の心情の変化について分析を行っています。また、当時の政治家や軍人の語録については肖像画付きで掲載していて、彼らが何を考えていたのか印象付けしやすい構成になっています。また、データの説明もわかりやすいと思いました。例えば、41年7月の御前会議の事前検討で使われた各国のパワーバランスがグラフで紹介されていますが、これを見る限り枢軸国は優勢に見えます。ところが、データは39年9月という一瞬のパワーバランスを切り取ったものであり、その後のアメリカの航空機製造の潜在力は示されていません。データを鵜呑みにすることの危険性も本書は教えています。

    ○歴史教科書には出ていない事項が豊富に紹介されていること。例えば、45年2月からの株式市場では軍需関連株が下がり、民需が上昇します。この時期に株式市場が開いていたこと自体が驚きですが、これは戦争が終わることを市場が察知していたことを示す事例と考えられます。

    本書は要は中高生相手の授業録ですが、とても面白い本です。一気に読めました。まさに「考える日本近現代史」です。眠くなる歴史書ではありません。

  • もう少しきちんと読み込みたい本。
    ただただ「戦争=悪」と教えられてきた自分たちの世代からは、民衆が戦争に熱狂したり、圧倒的な戦力差がありながらも勝ち目のない戦いに突入したりということはなかなか理解できない。しかし、その背景や文脈を理解することで、どういう時に間違った選択が正しい選択肢として現れてしまうのか、その間違った選択をしてしまいうるのか、など考えを巡らせることができるのだろうと思う。

  • 客観的に見ると「選んだのだ」ということを丁寧に解説してくれる。「適切な選択」の゙困難さとそれでも間違えてはならない矜持を再認識。随所に入るトピックも読者を飽きさせない。

  • 戦争に至ったまでの過程がここまで、複雑で、様々な思惑が絡み合っていたとは想像していなかった。過去の事実に向き合って、そこから問いを重ねて解釈を作り上げていくことってかなり難しんだなって思った。

    受験の歴史はやっぱり暗記重視になりがちだったけど、歴史学という学問の面白さとか、難しさをはじめてちゃんと感じたかもしれない。

    今までは日本の国民として、教養として知っておきたいくらいの意識だったけど、なんか今は普通に興味あるから深く勉強したい、になった。

  • 中高生の講義と、書かれていたので優しいかと思ったら中々内容は深くて、初めて知る事ばかりでした。
    歴史がますます好きになれました。
    また、本の中で紹介されていた「草の根ファシズム」、「日本軍のインテリジェンス」も、是非読んでみたい。

  • 母が満州で生まれたこともあり、なぜ満州という国があったのか、なぜ日本は戦争をしたのか、なぜ人はそもそも戦争をするのか、とずっと疑問に思っていた。

    その答えを知ることができた(ような気がした)のは、今まで
    「NHKスペシャル 日本人はなぜ戦争へと向かったのか」「おじいちゃん戦争のことを教えて(中條高徳)」のふたつ。

    が、本書を読んだ上では、上の2つの情報はほんの一部でしかなかったことが分かる。

    NHKスペシャルでは、国民がマスコミに煽られて圧倒的に戦争を支持したのだ、とあった。しかし本書では、その国民がなぜ戦争を支持したのかを多角的に分析する ー 経済的な背景(国民の50%を超える農民の困窮)、選挙制度の問題(農民の意思が反映されない政治)、軍部の見立てと意図(ソ連攻防のための満州重視、軍隊を長期的に維持するために国民の支持の必要性、そのための選挙運動さながらの国民への満州の魅力アピール...)

    国民と経済と政治と軍部と世界の動きが、うねりを創るがごとく、戦争を生み出したのだという事実。

    私が幼い子供に満足な飯も与えられないような貧しい農家の主であったなら、やはり満州の侵略を支持しただろうか。

    1人の国民は、歴史に対して何をすることができるのだろう、と考え込んでしまう。

  • 読もう読もうと思っていた本が文庫になっていたので購入。

    日清戦争から第二次世界大戦終戦まで約50年。高度成長から今まで位の時間で、制限選挙の制限度合いの変更であったり、世界恐慌や飢饉もあるなかでの政治について、中高生への講義。

    戦争というと構えてしまうけれど、政策の一つと考えると一大政策における首脳部の考え方と施策、そして国民への広報方法についての参考になる本。

    戦争が政治の延長なら、政治は国民の生活の延長で、生活は自身の安全保障とも捉えられるので、経済的な計算をせずに感情的なメリット・デメリットで捉えている国民も多かったようなのはBrexitとも同じ模様。

    失敗の本質的な意思決定についての話は少なめで、どちらかと言うと危機感から出てきている意思決定についてと、国民感情の醸成と言ってもいいような部分での話と、目的を決めたら突っ走れ的な高度成長期にも通じるお話。

    今も昔も中国はドイツと組むのだなとか、Windows、インターネット、スマホ、SNSのようなものが国民の意思決定に関係してきている以上、いろいろな国の社会秩序に影響を与えていると考えられるから、民主主義国家以外においてはルソーの言う戦争状態に当たるのでは?とか、政策のサンクコストは経済的なことだけでなく政策立案推進者の面子によるのであるなら、いかにしてそれを回避するべきかとか色々と考えさせられる内容だった。

    他界した切れ者の大叔父が陸軍士官学校出で、「金時計組は頭のレベルが違う」と言っていた。そのレベルの人間があのような施策なら、それをさせるのは信心的な思想であろうか。

  • 戦争についての背景を考えることができた。自分自身理系で、歴史という分野から逃げてきたものとして20代になってようやく歴史は面白いことに気づくことができてきている。

    本書は戦争のディテールが大切であること、現代の人は戦争を既成事実として受け止めている。なぜ起きたのか、なぜ起きなければならなかったのかを考える必要がある。

  • わかりやすく(?)説明しているが、それでも、理解するために何回か戻って読み直したり。
    戦争というと、1つの完結した事件として捉えてしまうが、そんな型にハマったものではなく、なぜ戦争が起きたのか、というもっと手探りな漠然とした考えを得た。戦争に対する捉え方・イメージが、暗記するような既存の事実から、もやもやした過去の出来事に変わった。
    また、日本側が欲をかきすぎる、自業自得な面が強く、報道やドキュメンタリーなどで被害者意識を強く感じるが、市民は犠牲者とはいえ、上層部ではこんな考えで進んでいたと、自虐的な話だった。
    戦時中、ドイツは食糧が不足するどころか少し多いくらいの生産量だったにも関わらず(食糧だけは確保しなければとしていたため)、日本ときたら、捕虜にまわすどころではなく、自国民でさえ困窮し、兵士は餓死者ばかり。やはり、太平洋戦争に注目したい。
    戦争に注目して世界史を勉強、あるいは憲法について、別の本でまた勉強したくなった。難しそうだが、参考図書を何冊か読んでみたいと思う。

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著者プロフィール

東京大学大学院人文社会系研究科教授

「2023年 『「戦前歴史学」のアリーナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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