- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101213675
作品紹介・あらすじ
「計算」は私たちの生活のそこかしこに現れる。では、指やペンを使う足し算や筆算と、膨大な電力を消費する巨大コンピュータによる計算は、何が異なるのだろうか。機械が人間の能力を遥かに超越し、日夜無言で計算し続けるいま、私たちには一体何が残されるのだろうか――。気鋭の独立研究者が数学史を遡り、いつしか生命の根源まで辿り着いた果てに提示する新たな地平。河合隼雄学芸賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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数学を語るという行為において、もちろんいろんな着眼点はあると思うのだけど。
情的に語ると言うと、語弊があるような気もする。
私たちが生きることとの結び付け方が上手いな、と思う。
何より、これからも読みたいと思わせる力がある。
「連続的な多様体を生み出す概念の例の一つとして彼は、『色彩』を挙げる。『色彩』という概念について考えるとき、私たちは無意識のうちに、心のなかに様々な色を思い浮かべるだろう。それら色彩の全体は、ある空間的な『広がり』とともに、連続的なグラデーションをなす」
幼い頃にやったゲームでは、パラメータの色をRGBでグリグリと変えることが出来た。
「そういうもの」と思って使っていたけれど、何事も「そういう表し方」を思いついた祖がいるわけで、あらためて、ほう、と感じたことだった。
「いつの時代も人は、未知の事物を、手許にある概念に喩えて理解しようとしてきた。かつて人間の心は、蒸気機関の比喩で語られることもあった。現代の人工知能や人工知能の研究者は、『計算』という概念を頼りに、コンピュータのメタファで、知能や生命の謎に迫ろうとしている。だが、本当にこれが正しいメタファなのだろうかと、ブルックスはあらためて問うのだ」
「GPT-3は、ウェブな電子書籍から収集した何千億もの単語の統計的なパターンを学習して文章を作成していて、人間のように言葉を「理解」しながら作文をするわけではない。肝心なのは、意味よりもデータであり、理解よりも結果なのだ。こうした技術が目覚ましく進歩していくなかで、意味や仕組みを問わずとも、計算の結果さえ役に立つなら、それでいいではないかという風潮も広がってきている。
だが、意味や理解を伴うことのないまま、計算が現実に介入するとき、私たちは知らず知らずのうちに他律化していく」
二つの引用をしたが、疑うことも、思考停止に陥ることも、私たちにはどちらも「できる」。
ただし、結果的に人間は無能化してしまう、そんな結末もあるのかなと思う。
何も判断しなくても、生きていける世界。
それを、果たして、幸せと感じるのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
数式を極力使わずに、数学が何を目指して進化してきたのかを、節目となる数学者の紹介も含めて、ソフトな哲学エッセイ風に描くと、こういうふうになった、という感じ。
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トークン メソポタミア 数える対象と紐付け → 粘土板の記号へ
算用数字 16世紀に普及 10個の記号であらゆる数を書き表す
数直線 数を「量」ではなく「位置」を表す
虚数 平面 数直線の0の前後でなく上下にある
計算+演繹という推論 仮説から出発 推論を頼りに結論を導く
ギリシャ数学 図と口語による定型表現 知的ゲーム
ユークリッド「原論」BC3C 12世紀アラビア経由で西欧へ
高校までの数学=18世紀以前の数学=数式と計算
現代数学=直観的な要素を混入させない
リーマン
19世紀後半 複素関数=平面間の写像 式ではなく 多様体
カント
認識=感性:空間と時間の枠組み 直観(直に受取る)→知性:概念からの判断
フレーゲ
案数=対応の法則 命題:主語~述語 →関数と項 数学は分析的かつ拡張的
判断の分析で概念を形成する 思考は意識ではなく言語が支える→人工知能
チューリング
計算=記号の規則的な操作
ブルックス
外界のモデルは不要 脳だけではない 状況性と身体性=センサーとモーター
数理モデルと政策 天気予報 ウイルス感染拡大 気候変動
意味や理解より結果が役立ってしまう 過去に設定した仮説に
→計算の帰結に生命として応答する自律性 -
いかにも知的な,難しすぎない文章がいい。
中身は理解し切れたとは言いきれないので取っておこうっと。