計算する生命 (新潮文庫 も 42-2)

著者 :
  • 新潮社
3.77
  • (2)
  • (6)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 102
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101213675

作品紹介・あらすじ

「計算」は私たちの生活のそこかしこに現れる。では、指やペンを使う足し算や筆算と、膨大な電力を消費する巨大コンピュータによる計算は、何が異なるのだろうか。機械が人間の能力を遥かに超越し、日夜無言で計算し続けるいま、私たちには一体何が残されるのだろうか――。気鋭の独立研究者が数学史を遡り、いつしか生命の根源まで辿り着いた果てに提示する新たな地平。河合隼雄学芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 数学を語るという行為において、もちろんいろんな着眼点はあると思うのだけど。
    情的に語ると言うと、語弊があるような気もする。
    私たちが生きることとの結び付け方が上手いな、と思う。

    何より、これからも読みたいと思わせる力がある。

    「連続的な多様体を生み出す概念の例の一つとして彼は、『色彩』を挙げる。『色彩』という概念について考えるとき、私たちは無意識のうちに、心のなかに様々な色を思い浮かべるだろう。それら色彩の全体は、ある空間的な『広がり』とともに、連続的なグラデーションをなす」

    幼い頃にやったゲームでは、パラメータの色をRGBでグリグリと変えることが出来た。
    「そういうもの」と思って使っていたけれど、何事も「そういう表し方」を思いついた祖がいるわけで、あらためて、ほう、と感じたことだった。

    「いつの時代も人は、未知の事物を、手許にある概念に喩えて理解しようとしてきた。かつて人間の心は、蒸気機関の比喩で語られることもあった。現代の人工知能や人工知能の研究者は、『計算』という概念を頼りに、コンピュータのメタファで、知能や生命の謎に迫ろうとしている。だが、本当にこれが正しいメタファなのだろうかと、ブルックスはあらためて問うのだ」

    「GPT-3は、ウェブな電子書籍から収集した何千億もの単語の統計的なパターンを学習して文章を作成していて、人間のように言葉を「理解」しながら作文をするわけではない。肝心なのは、意味よりもデータであり、理解よりも結果なのだ。こうした技術が目覚ましく進歩していくなかで、意味や仕組みを問わずとも、計算の結果さえ役に立つなら、それでいいではないかという風潮も広がってきている。
    だが、意味や理解を伴うことのないまま、計算が現実に介入するとき、私たちは知らず知らずのうちに他律化していく」

    二つの引用をしたが、疑うことも、思考停止に陥ることも、私たちにはどちらも「できる」。
    ただし、結果的に人間は無能化してしまう、そんな結末もあるのかなと思う。
    何も判断しなくても、生きていける世界。
    それを、果たして、幸せと感じるのだろうか。

  • 数式を極力使わずに、数学が何を目指して進化してきたのかを、節目となる数学者の紹介も含めて、ソフトな哲学エッセイ風に描くと、こういうふうになった、という感じ。

  • トークン メソポタミア 数える対象と紐付け → 粘土板の記号へ
    算用数字 16世紀に普及 10個の記号であらゆる数を書き表す
    数直線 数を「量」ではなく「位置」を表す 
    虚数 平面 数直線の0の前後でなく上下にある

    計算+演繹という推論  仮説から出発 推論を頼りに結論を導く
     ギリシャ数学 図と口語による定型表現 知的ゲーム
     ユークリッド「原論」BC3C 12世紀アラビア経由で西欧へ 

    高校までの数学=18世紀以前の数学=数式と計算
    現代数学=直観的な要素を混入させない

    リーマン
     19世紀後半  複素関数=平面間の写像 式ではなく 多様体
    カント  
     認識=感性:空間と時間の枠組み 直観(直に受取る)→知性:概念からの判断
    フレーゲ
     案数=対応の法則  命題:主語~述語 →関数と項  数学は分析的かつ拡張的
     判断の分析で概念を形成する  思考は意識ではなく言語が支える→人工知能
    チューリング
     計算=記号の規則的な操作 
    ブルックス
     外界のモデルは不要 脳だけではない 状況性と身体性=センサーとモーター

    数理モデルと政策  天気予報 ウイルス感染拡大 気候変動 
     意味や理解より結果が役立ってしまう 過去に設定した仮説に
     →計算の帰結に生命として応答する自律性

  • いかにも知的な,難しすぎない文章がいい。
    中身は理解し切れたとは言いきれないので取っておこうっと。

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

森田 真生(もりた・まさお):1985生。独立研究者。京都を拠点に研究・執筆の傍ら、ライブ活動を行っている。著書に『数学する身体』で小林秀雄賞受賞、『計算する生命』で第10回 河合隼雄学芸賞 受賞、ほかに『偶然の散歩』『僕たちはどう生きるのか』『数学の贈り物』『アリになった数学者』『数学する人生』などがある。

「2024年 『センス・オブ・ワンダー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

森田真生の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×