エンジェル エンジェル エンジェル (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253350

感想・レビュー・書評

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  • 本当になぜなんでしょうか。

    神さまは天使ばかりでなく、悪魔も必要だったのでしょうか。

    光があたるところ闇が出来、朝が来れば夜が来る。
    夏が過ぎ去れば、やがて冬が訪れ、この世には男と女が生まれる。

    宇宙に存在する、ありとあらゆるもの。森羅万象。
    片方が欠ければ、もう片方も存在することが出来ないといいます。

    コウコと娘時代の記憶を彷徨うさわちゃん。
    二人の会話は、すれ違っているようで結びついている。

    いくつものエンジェルが出会い、別れ、また交差する。
    その影には、必ず悪魔の存在。

    「おまえもかわいそうなことをした」
    わたしのなかの悪魔を抱きしめましょう。

  • コウコが熱帯魚を飼った現在と
    おばあちゃんが少女だったころの過去の記憶が
    交互に描かれ、巧妙にリンクする
    短いけど深く重い作品。

    読み進めるたび強くなる不穏な香りに
    導かれるように一気読み。

    透明で上品で精巧で、ほの暗く切なく苦しい。

    特に少女のさわちゃんが
    自分は暗い世界に行ってしまったんだと、
    もう明るい世界には戻れないんだと
    絶望する描写は心を抉った。


    天使が、熱帯魚が、神様が、カフェインが、お茶の木が、聖書が、シュークリームが、木彫りが……
    些細な描写が重要な意味を持って、
    この作品の世界を形作っている。

    細部まで意思がこもっていて、
    一瞬たりとも気が抜けない。
    (しかもこの事実は、その描写を通り過ぎて
    読み進めないと気づかない!)

    梨木先生さすがです、としか言いようがない。


    “私が、悪かったねぇって。
    おまえたちを、こんなふうに創ってしまってって”

    自分の中に巣食う悪魔と、
    それを自分が、他者がどう思うにせよ、
    多分、結局は一緒に生きてかなきゃいけないんだ。
    理性の及ばない、どうしようもない何かを抱えて、
    存在を認めて、飼い慣らして。

    ばばちやまみたいに上手に、
    あるいはツネみたいになるたけ優しく
    生きていきたいものだなぁ。

    少なくとも悪魔の所業には
    さわちゃんみたいに、心を痛める自分でありたい。

  • 祖母の夜中のトイレの手伝いをすることで熱帯魚を飼うことを認められた孫と祖母の二人だけの夜の時間。
    熱帯魚のモーター音が切っ掛けか、祖母の意識は女学生時代の黒い過去の時代に戻り孫と噛み合わない会話をします。祖母の過去の回想パートで読者には知らされる出来事を孫は知らないのですが噛み合わないのになぜか会話は成立し、孫の言葉で祖母は過去の後悔を昇華される物語。
    そこに熱帯魚の残虐さと女学生の祖母の過ちも重なり、透かし模様から複雑な内部を見ている気分になりました。

    純粋な子供だからこそ起こる残酷さ、その後悔を抱えて老いる祖母の姿は誰もが多少は重なるものがあるのではないでしょうか。
    自分の人生の最後にそれが許される、それはとても幸せなことに思えました。まるで祖母を祝福しているかのように祖母の残したテーブルから見つかる木彫りの天使に救われる気持ちでした。

  • 上手だなーと思った。
    もっと他の作品も読んでみたくなった。

  • 何て潔さだ…。
    説明を最低限に刈り込んで、剥き出しのギザギザした核だけを書き出したよう。
    短い作品だが、とても濃密。
    胸に残る一作になりそうだ。

  • 2009年2月6日~6日。
     とても重たい話。
     女性だけに当てはまるとは思えない。
     最初は面喰うかも知れないが、どんどんとその深く重たい世界に引きずり込まれていく。
     いい話、ではない。
     でも目を背けることも出来ない。
    「神は悪魔をどういうふうに思っておられたのだろう」
     恐ろしい本である。

  • いやあ……もう……。西の魔女も良いけど、こっちももう……。すごい。

  • 重いテーマでけっこう恐ろしげな話なのだけど梨木さんの文章に引き込まれて、案外さらっと読み終わってしまいますが、読後、胸に何とも言えない重苦しさがのし掛かってくる作品だなと思います。
    色々考えさせられる部分もあって、でも真面目に考えれば考えるほど苦しくて・・・という感じにも関わらず、ふっとした瞬間に読み返したくなる不思議な本。
    買ってから何回も読み、今後も読み返すであろう一冊です。

  • 文体から、いい子ちゃん小説かと思いきや、まったく逆ベクトルの凄まじい小説だった……!
    悪意、暴力、女性性、旧約聖書の世界、罪と罰、罪悪感、の連鎖。
    死体を石で幾度も打ち付ける場面には背筋が凍る思いをした。
    願わくば最後に飛び出してきたエンジェルが、さわちゃんの心に届かんことを。

  • 風神招き、和紙のはたきで障子の桟を掃除する音、ほうじ茶で作った茶粥。
    記憶の奥底にはあるかもしれない、でも見たことはない、美しさが沁みてくるような一つ一つのこと。
    高野文子の作品を思い出したのは、私だけでしょうか?
    ばばちゃまの少女時代、同性の先生と友達に対する思慕、それが裏切られたと知った時の悲しみ。
    そして自分が望んだ通りの不幸が起こった時...
    そんな邪悪な存在である自分でも、神に赦されていると感じた時に得られる慰さめ。
    エンジェルという名の繋がりの中で、ばばちゃまにもたらされる慰さめを描いている、奇跡のような作品。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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