家守綺譚 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 8975
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253374

感想・レビュー・書評

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  • このご時世だからこそ、お家で楽しめる読書。そんな時にお勧めしあいましょうというツイートで、あまりにもたくさんの人がこの本を挙げていたので。

    面白かった!!
    不思議な世界を不思議だと拒否するのではなく、受け入れるから物語が始まる。
    綿貫の考え方がすごく好き。優しいし、尊い。
    やさしさに感動して涙するのって初めて。

    植物の名前が羅列された目次を見た瞬間、ときめきます。

    2020.03.14

  • 行方不明になった友人宅の家守をするまだ新米の文士、綿貫征四郎の著述をまとめたもの。
    という形で、古い家と庭の木々、草花や狐、狸、隣の面倒見のいいおばさん、山のお寺の和尚さん、迷い込んで住み着いた犬のゴローなどとの交わり、はたまた床の掛け軸から時々亡友が訪ねてきたりするのを、暖かく記してある。

    征四郎のまわりで起きる小さな不思議な出来事。サルスベリに小猿がちょこんと座っていたり、池で河童が脱皮していたり、白木蓮の蕾がタツノオトシゴを身籠っていたりする。

    土間に生えたカラスウリが、天窓の光を受けて天井を覆うほど茂り、レースのような花が咲き、その中に干からびたyヤモリがいた、征四郎もヤモリになった夢を見た。

    筍が食べたくなって山を散策していて、貝母の精のような人を見かける。あなたは何者ですか、と聞くと私は百合ですと答えた。
    筍の名産地、琵琶湖疏水の流れる山の麓に住んでいるのだろうか。

    貝母は貝母百合ともいう。奈良の春日大社神苑に、春になるとそこここに咲いて、素朴な色で俯いている。貝母の項でうれしくなった。

    四季を飾る素朴な花にまつわる話が、この世のものでないようでいて、土俗的な郷愁をさそう。ありそうでない、いやあるかもしれない、夢幻と現実の境にたってみるのもよい。
    <font color="cc9933">
    いつの間にか掛け軸の中の風景は雨、その向こうからボートが一艘近づいてくる。・・・高堂であった。
    ――どうした高堂。
    私は思わず声をかけた。
    ――逝ってしまったのではなかったのか。
    ――なに、雨に濡れて漕いできたのだ。</font>
    と言っては時々現れる。
    <font color="cc9933">
    ――サルスベリのやつが、おまえに懸想している。
    ――・・・・ふむ。

    実は思い当たることがある、サルスベリの名誉のためにあまり言葉にしたくはないが。
    ――木に惚れられたのは初めてだ。

    ――どうしたらいいのだ。
    ――どうしたいのだ。

    ――迂闊だったな。
    高堂は明らかに面白がっていた。
    ―― ああ見えて、存外話し好きのやつだから、ときどき本でも読んでやることだな。そのうちに熱もさめるだろう。
    ――なるほど。

    それから午後はサルスベリの根方に座り、本を読んでやる。
    あまり撫でさするのはやめた。サルスベリも最初は不満げであったが、次第に本にのめり込むのが分かる。サルスベリにも好みがあって、好きな作家の本の時は葉っぱの傾斜度が違うようだ。ちなみに私の作品を読み聞かせたら、幹全体を震わせるようにして喜ぶ、可愛いと思う。出版書肆からはまともに相手にされないが、サルスベリは腐らず細々とでも続けるように、といってくれている。それで時々魚をおろしたときの内臓などを根方に埋めてやっている。
    </font>

    引用では、長くなるので勝手に省いたところもありますm(_ _;)m すみません。
    原文はもっともっと愉快で面白いです。

    そんなことやこんなことが起きても、征四郎の日常はゆったり悠々と流れて行く。たとえ筆が進まず、筆?今はペンではないか?と思うことはあっても、注文の原稿は、周りの出来事を話の種にして、出来上がる。

    原稿取りの山内が、部屋の隅の桜の花びらの吹き溜まりに気づく。
    <font color="cc9933">
    ――おや、これは。
    ああ、と云いかけて、こいつに桜鬼などと云って通じるのかと危ぶみながらも、
    ――今朝方、暇乞いをすると云って見知らぬ女人が座った。近所のおかみさんの話しでは桜鬼だというんだが、どうしても鬼のようには思われん。小鬼なら庭にもいるが、到底似ても似つかぬ者なのだ。
    山内は一寸呆れた、という顔をして、一旦息を大きく吸い、
    ――小鬼は子鬼にあらずして、小鬼という立派な種の名前なのです。
    </font>
    云々と、雄弁に語りだす。征四郎はたじろぐ思いで、何故、そんなに詳しいんだ。
    ――常識ですよ。

    ああ、類は友を呼ぶか、なら私も同類にしてもらえるかな、とつい嬉しくなる。
    野の花や、季節の風物のなんとも言えない香りを漂わせる本であった。

    本読みの幸せだ。梨木さんの作品はまだまだある。買って来て保存版にしよう。

    子供の頃のままの、無心で無垢な心をもちつづけていたとしたら、私も征四郎のように、自然と話せるのではないか、わずかな気配を感じて、草や木や小さな生き物の伝えたい言葉がきこえるのではないかと思えるが。そんな、清らかで素朴な心で生きていけないことを、少し哀しみつつ、幻の中に住んでいるような、征四郎の周りの暮らしが、豊かな言葉で語られていることに、暖かい想いが湧く。

    花好きが嵩じてホームページなどを作ってしまった、W7に移行時ソースが壊れてリンクがおかしい。そのうちそのうちと思っているうちに病気になった。そのせいにはしているが、壊れて無い部分の写真からでも、いろいろな場面を背景にして浮かんでくる思い出も嬉しい。
    この本の花とも照らしあわせてみたが、「ネズ」という木は見たことが無い。実がなるという、庭にある槙の木の友達だろうか。槙にも甘い実がなるし。
    征四郎なら訊くことも出来るかもしれない、でも甲羅があるなら苔まで生えるこの年になって、無心に木の声を聞こうとするのが無理に違いない。

    これからは手元に置いて折りに触れて、私は花を見てはこの本を読むのだ。よしっ。

  • 近代ファンタジー。和風の妖怪系。縁あって知人の家の家守になった綿貫と、その周りの人々や、周りで起こる不思議な出来事を書いた短編集。話のタイトルが植物で統一されていて、タイトルに使われた植物は何らかの形で話中に出てくるのが印象的。
    独特な空気感のある文章で、淡白で何でも受け入れてしまう綿貫の人柄がでているような感じがした。綿貫と高堂の間柄も気になるが、要所で出てくるサルスベリとの間柄も気になる。続編があるようだから、覚えていたらそのうち読んでみたい。

  • 本から
    雨や林の香りがしてくるように感じました。

    不思議な「お隣さん」から
    不思議な話を茶飲話で聞かされてる感覚です。

    重たく長い物語を読んでる途中で楽しむ小噺のような
    箸休めのような一冊だと思います。


  • 文章で読ませるって感じのなかなかステキな物語。昭和戦前の京都滋賀あたりの物語。

  • この空気感、間合い。そこにいるような感じがする。
    家守りと死んだ友人、植物たち、ゴロー。
    これほど洗練された、でも技術的ではなく、みずみずしい物語は他にはないのではないのか。
    そして、この物語は、村田エフェンディ滞土録へと続く、、、。

  • 京都周辺が舞台になっているので親しみが持てた。
    何となく腐女子向けの漫画みたいな内容だけど雰囲気があって楽しめる。続編も読みたい。

  • 何とも独特の世界観がある小説。梨木香歩氏の小説を読むのは「西の魔女」と「りかさん」に続き3作目だが、本書はまた異色を放っている。
    時代は100年前。売れない駆け出しの物書きが、水の事故で急逝した友人の父に、彼らの空家に住んで欲しいと託される。亡くなった友人の幽霊や、迷い犬や、その他の生き物や幻想、そして近所の人たちとの交流を、庭や山の植物を交えながら描く。
    心に残るのは、鮮やかな季節感である。冬の身に応える寒さや、春の芽吹き時、秋の紅葉など情景が目に浮かぶ。また、馴染みのない生き物や幻覚が当たり前のように登場するのだが、不思議なほど違和感がない。昔の田舎の生活は、自然と共存し交流しあい、季節を楽しみ、こんな感じだったのだろう。特に不便も無ければ、生活も華美ではないが満ち足りていそうだ。最後に「そういうことだったのか」、とハラオチ。
    なかなか面白い小説で、読んで良かった。

  • 「家守綺譚」(梨木香歩)を読んだ。
    何度目だろうか。
    とにかく好きなのである。
    日本文学におけるひとつの到達点だと(個人的に)思っている。
    電子書籍化してほしいなあ。いつでも持って歩けていつでも読めるように。

    「家守綺譚」(梨木香歩)を読んだ。
    何回目⁈でもまたすぐに読みたくなる。
    そうして何度でも言う。
    『この作品は日本文学のある種の到達点である』と。
    京都旅行に行く際に迷わず鞄に入れていた。
    (ひとり一部屋だったので)ホテルのベッドで眠くなるまで読み耽る至福の時間を過ごしたよ。

  • 表紙には、竹とスズメの絵。
    私たちのまわりにある、里山や獣や鳥や草花などが織り成す湖の近くの小さな町を舞台にした物語。

    私たちのおじいさん、おばあさんの世代の香りを感じる少し不思議で懐かしい物語。

    読み終わる直前まで、だいぶ前に書かれた本と信じ込んでいて、作者が、あの西の魔女が死んだを書いた方と気づいてびっくりでした。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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