- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101253374
感想・レビュー・書評
-
100年とちょっと前、明治の頃、琵琶湖のほとりにある和風建築の屋敷に暮らす物書き・綿貫征四郎が綴る自然豊かな、摩訶不思議な、物語。
ずっと読みたいと思って気になっていた1冊ですが、鳥肌が立つのとも違う、肩甲骨の間がくすぐったくなるような、切ないくらい懐かしくなるような、夢を見ているような、不思議な読み心地でした。これは桃源郷の物語だと言われても頷けてしまうような、描かれているのはなんとも不思議な世界です。なにせ、まだ河童や鬼の存在が信じられていた頃の物語で、自然の「気」を色濃く感じます。
懐かしさを感じるのはきっと、小さい頃草木にまみれて遊んだ時と同じ自然との距離感を至るところから感じられるからかもしれないですね。小さなコミュニティで不便なことが多くても、とても豊かな世界が広がっているのがわかります。
作中の表現も普段見慣れないような美しい日本語が並んでいて、新鮮かつわくわくします。ちょうどもう少し先の季節になりますが、「新緑だ新緑だ、と、毎日贅を凝らした緑の饗宴で目の保養をしているうち、いつしか雨の季節になった」なんて表現もすごくきれい。
たまにひょいと登場する高堂と綿貫の掛け合いも好きです。親しい間柄だからこそ取り交わせる遠慮のない言葉かけが心地よくて。高堂の弱くも孤高で、誰よりも誇り高い人柄も好きだし、高堂側からの物語も読んでみたくなります。
「西の魔女が死んだ」でも感じたけれど、特定の宗教に対してではないけど自然や祖先に対する信仰心のようなものを強く感じ、そういった部分に感銘を受けたりもしました。一人旅のおともにもいい本だと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
遠野物語のような、小泉八雲の物語のような淡く不思議な物語。場所はおそらく琵琶湖のあたりだろう。古代に春の女神と言われていた佐保姫や竹生島の元になったと言い伝えのある浅井姫などが出てきており、地名や言い伝えを検索するのも楽しい。
-
異質なものとの共存と、それによって生まれた孤独だけども愛おしい生活を、静謐に書き上げた作品。
今はまだ売れない文筆家の綿貫征四郎。
彼は、ボート事故で死んだ親友の実家に家守として暮らすことになる。
そこでは日々、怪異が起こる。
死んだはずの友人の高堂が、わりと頻繁に壁にかけた掛け軸からボートに乗って現れたり。
庭のサルスベリに恋されちゃったり。
狸に化かされたと思えば。
疎水から水を引いている池に、人魚やら河童が現れたり。
訪れる怪異に、時に驚かされながらも、結局はすべて受け入れながら、綿貫青年の生活は、季節の巡りとともに粛々と過ぎていきます。それぞれの章に全て植物の名前が付けられているのが、これまた季節の巡り、つまり、時間の経過を意識させます。
大正期ごろの日本の日常に、これまた日本的な怪異や異質が溶け込んで現実として描いていたそれまでとは打って変わって、物語の最後は、ギリシア神話やダンテの神曲他多くの西洋的モチーフを土台としている印象で、それがためにより現実離れしているはずなのに、かえって、誰も避けられない「死の現実」を強烈に意識させて、なんだか切なく、言葉にならない感慨が芽生えます。
(あ、でも、イザナギ・イザナミ神話的な面もあるかも。)
梨木さんの別作品「村田エフェンディ滞土録」と併せて、ブク友さんのおすすめでこの本を読んだのですが、読めてよかった。
最近仕事が忙しくて、ほとんど本が読めなかったのだけど、梨木さんの平易で静かな文章は、とてもスルスルと頭に入ってきて、細切れの読書時間でも内容を忘れたりすることがなく、そして、じんわり心に染みて、良い時間を過ごさせてもらいました。
ありがとうございました。 -
ようやく読みました!
レビューを書いてくださったみなさん、紹介してくださりありがとうございます。
いつもお邪魔させていただく読書ブロガーさんや、ブクログのみなさんの絶賛のレビューにより、いつか読みたいと思って書いた走り書きのメモが何枚も見つかり、ずいぶん前に、アマゾンで注文したものの1年以上放置したまま。
家の本だとついつい後回しになり、また、すごくおいしいと評判のスイーツをお取り寄せして、期待が膨らみ過ぎたためにがっかりしたくないと食べるのをためらってしまう心境にも似ていた。
たまたま図書館で借りた本もなく、機が熟した!と決意して手に取ってみたところ、1ページ目からあっという間に梨木さんの世界の虜に!
著述業で収入を得る青年・綿貫が、亡くなった友人・高堂の家の守をその父親から頼まれたことにより、話は始まる。
時代は明治の頃か。先代の頃は丹精込めて手入れをされていたであろう庭を持つ和風建築の屋敷に、お隣の奥さんや近くの寺の和尚と付き合いながら、犬のゴローと暮らしている。
庭の草木の描写を通して、過ぎゆく季節の移ろいや隣人たちとの交流が丁寧に描かれていく。これだけであれば、エッセイ風の小説ということになりそうなところなのだが、草木は心を持ち、意志があり、綿貫の暮らしに小さな事件や彩りをもたらす。そこへ亡くなった高堂が床の間の掛け軸を通じて、こちらの世界にやってきては綿貫とごく当たり前のようにやり取りをし、その上、河童やら、琵琶湖の姫様まで登場するから、ファンタジーに分類されそうだけれど、西洋風にそう呼ぶのは躊躇われる。なぜなら、そういった暮らしが、日本には何十年か前まで当たり前のように存在していたと思わせる筆致だからである。人々が自然がもたらしてくれる豊かさや情緒、更には災害などの脅威まで含めて、「ともにある」ことを受け容れているさまがごく自然に描かれている。
現代では「河童伝説」というように、日々の暮らしとは切り離されているけれど、恐らく高度経済成長以前までは身近なものだったんだろうなあ。
端正な文章でありながら、ユーモアも忘れない。
明治の人々の間に流れるゆったりとした時間や、知性的な会話。選び抜かれた言葉が整然と並ぶすがすがしさ。
ふふっ、と柔らかな笑みが溢れるのを押さえられない。
そこには、あたかも外国から取り入れた今風のコミュニケーションという言葉にひとくくりにできない、思いやりや近所付き合いを含んでいる。
ずい分前にごく小さなゴールドクレストを買って育てていたことがある。本来北の国で育つこの木は、日本の気候では暖か過ぎてあっという間に大きくなった。数年でベランダの天井に届きそうになり、この先持ち出すこともできなくなりそうになったので、当時住んでいたアパートの庭に勝手に植えてしまった。木にも魂があるような気がして、塩とお神酒でお浄めのまねごとをして植え替えたのだが、今はどうなっているだろう。
DNAが北の地を恋しく思わせてはいないか?
人間の勝手を少し申し訳なく、思い出した。-
こんにちは♪
コメントありがとうございました。
nico314さん、すっかりハマったようですね(*^_^*)
とっても素敵なレビュ...こんにちは♪
コメントありがとうございました。
nico314さん、すっかりハマったようですね(*^_^*)
とっても素敵なレビュー。
このレビュー読んでたら、読むぞーとおもってまだ読んでいない「冬虫夏草」を読みたくなっちゃいました。
「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」、私ずっと気になっているのですが未読です。
うわー、そっちも読みたい。
困った、困った・・・(^_^;)2014/10/20
-
-
梨木作品はどれも大好きだけど、これが一番好き。
読み終わった後も一時ずっとカバンに入れていて、人待ちなどの少し時間が空いたときに読んでいた。
一度通しで読み終わったら、どこからでも読めそうなので好きなところから読もうと思うのだけど、結局いつも最初から順番に読んでしまう。
何が起きても割と淡々としている主人公を取り巻く不思議な事柄がどれも美しい文章で描かれている。
もう何度も読んだけれど、これからも度々思い出しては読むだろう一冊。-
はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。
『家守綺譚』、大好きな梨木香歩さんの作品の中でも、とりわけ好きな...はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。
『家守綺譚』、大好きな梨木香歩さんの作品の中でも、とりわけ好きな1冊です。
湿った空気や水音、風に揺れる木々のざわめきまで感じられるような
独特の風情のある作品ですよね。
描かれる庭や家や、調度品までほんとうに素敵で、何度も読み返したくなります。
1冊1冊をじっくり大切に読みつつ、眺めたり、囲まれたり、
埋もれたり、積んだりして過ごされているという九月猫さんの毎日は
まさに本読みの理想です♪
梨木さんやくるねこ大和さんが好きで、もちろん猫好きで、と
共通点がたくさんあって、うれしい限りです。
本棚もレビューも楽しみにしておりますので
今後ともどうぞよろしくお願いします(*^_^*)
2013/01/19
-
-
和風ファンタジーとでもいうのだろうか。ごく身近な植物をモチーフにした不思議な短編集。
ファンタジーは苦手なジャンルなのに、スッとその世界に入り込んでしまった。
それはファンタジーとは対極な融通の効かない主人公、綿貫という男の、振り回されながらも全てを受け入れてしまう飄々とした語り口のせいだろうか。
時代背景もいい塩梅なんだよなぁ。今よりずっと四季や自然が人々の生活に入り込んでいた時代。その風景は実際目にしたことはないものの、その古風で美しく、妖しい情景描写がリアルなのか架空なのか曖昧な世界に没入させてくれる。
自然と人間も生と死もこの物語における境界線は曖昧だ。その世界は理屈と時を超え、私のDNAに刻まれた日本人としての感性を呼び覚まし、俗世との境界線を曖昧にしてくれる。
どこか物憂く、懐しく、優しい。郷愁の時間を過ごした。 -
舞台は明治時代の京都・山科辺り。四季折々の草木や動物、幽霊、妖怪等と人間が日常的に触れ合う不思議な世界。懐かしい日本の原風景にどっぷり浸れる。200ページに満たないが、読み急がず、じっくり味わいたい純和風ファンタジー。「冬虫夏草」も読まなければ…。
-
とても味わい深い1冊だった。
本書は、駆け出しの物書きである綿貫征四郎による随筆のような体をなした作品。
物語は、ひょんなことから綿貫が、学生時代に亡くなった親友・高堂の実家の家守となるところからスタートする。
死んだはずの高堂が出てきたり、植物であるサルスベリに慕われたりするのに、綿貫も物語も慌てふためくこともなく悠々と進んでゆく。
ちょっぴり面白い。
「夢十夜」のような独特の浮遊感の中で、「雨月物語」のような不思議な出来事が、美しい季節の移り変わりと共に描かれている。
風土記や古事記にある、伝説を読んでいるようでもある。
季節の神や動植物の精霊たちとの、交流とも言えぬ程のちょっとした出会いやすれ違い。
ほんの少し前、もっと人々のペースがゆっくりで野山の自然と近かった頃なら、こんなこともあったかもしれない。
それぞれのタイトルが季節の草花なのも趣がある。
植物がお好きな方だったら、その花の佇まいを思い浮かべることが出来るので、世界観に入っていきやすいと思う。
(白木蓮とホトトギスは好きな花の1つであったので、どんなエピソードだろうと楽しみだった。)
タイトルの草花だけでなく、本文は野草や庭木たちの名前で溢れている。
日本家屋の土間や硝子戸、旅籠や山寺など、見える景色にも風情がある。
また、「ざぁーという雨の音が縁の回り、家の回り、庭のぐるりを波のように繰り返し繰り返し…。…さながら雨の檻の囚人になったような」や、
黄昏時の葛の花を「赤紫の闇」と言い表し、その花を池に落とすシーンでの「赤紫の闇が、鏡のような池の面に浮いた」など、
豊かな表現力に読み手の心も潤う。
パッとその植物や物の容姿が浮かばない方は画像検索などしながら、
浅井姫や竜田姫・天女の羽衣伝説の云われ、二十四節気、花の時期などをご存知なければチラリと検索しつつ、
どうかゆっくりと時間をかけて読み進めることをお勧めしたい。
例えば本文では、葛の花が萩の花に入れ替わることで微妙な季節の移り変わりや侘しさを表現していたりと、読み手の知識がある程にこの物語の奥行きが広がるからだ。
他にも、ぽろりと南天の実がこぼれ出てくるシーンがあるが、南天は「難が転じる」→「災い転じて福となす」ということで縁起物だ。
それを知っているだけで、その章の味わいも増す。
そしてこの世界観にどっぷり浸れば浸る程、読み手は癒されるに違いない。
まるで、お寺の境内で深呼吸したような。
目を閉じれば、季節の風や鳥の鳴き声まで感じることが出きるような。
初めて梨木香歩さんの作品を読むにあたり、やっぱり「西の魔女が死んだ」を読まなくては!と思いそうしたけれど、一緒に手にした「家守綺譚」の方がずっとずーっと好みだった。
正直「西の魔女が死んだ」を読んだ時は、この作風で他の作品も書かれているのなら、私はちょっと好みと違うかな…と思っていた。
もし「家守綺譚」も同じタイミングで手にしていなかったら、そう思い込んだまま他の作品は読まなかったかもしれない。
こちらも入手しておいて良かった!
何度も読み返したい大切な1冊になった。
続編である「冬虫夏草」も、きっと近いうちに読もう。
【備忘録】
「佐保姫」
春の女神
佐保山の神霊
「筒姫」
夏を司る神
「竜田姫」
秋の女神
竜田山の神霊で、元は風神
秋の季語
「宇津田姫」
冬を司る神
「春は竹の秋」
新緑の頃は、いっそうまぶしいその姿。しかし実は、竹にとっての新緑の頃…つまり「春」は、春夏秋冬で言うと「秋」に当たる
モウソウチクやマダケにとっての春から初夏は、竹の子を育てるのに栄養をとられる、いわば「実りの季節」でもあります。また、竹の葉は1年で生え変わりますが、5~6月に黄色く色づいて落葉します。竹の子が大きくなった後なので、まるで子どもを育てた親の竹が疲れて枯れていくようにも見えますが、実際は、新芽に日光を当てるために古い葉を落としているのだと考えられます。
「竹の秋」は春の季語、「竹の春」は秋の季語
「般若湯 はんにゃとう」
僧侶などの隠語の一つで、「お酒」を表す言葉。
本来僧侶は「不飲酒」といって飲酒は禁じられているため、こういう間接的な表現になったらしい -
デジタル全盛時に生きていると、こういうスローな本にホッとします。
しょっちゅう幽霊で出て来る高堂、出来る犬のゴロー、河童やタヌキ。
感動はしないけど、ほのぼのとして楽しめます。 -
名取佐和子さん著作の「金曜日の本屋さん」に出てきたのをきっかけに読んだ。
不思議な風情のある物語だった。日本古来の昔話にあるような、河童や鬼や狸や狐に化かされたり、木や植物が感情を持っているようだったり、という描写がたくさん出てくる。けれどそれに遭遇して仰々しく騒ぎ立てるでもなく、淡々と事実を受け入れている登場人物がシュールで面白かった。
不思議だけど優しい物語。