- Amazon.co.jp ・本 (661ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101269726
作品紹介・あらすじ
ユダヤ人虐殺という任務を与えられ、北の大地で生涯消せぬ汚名を背負ったアルベルト。救済を求めながら死にゆく兵の前でただ立ち尽くしていた、マティアス。激戦が続くイタリアで、彼らは道行きを共にすることに。聖都ヴァチカンにて二人を待ち受ける“奇跡”とは。廃墟と化した祖国に響きわたるのは、死者たちの昏き詠唱か、明日への希望を織り込めた聖歌か――。慟哭の完結編。
感想・レビュー・書評
-
戦争は恐ろしい。人格も変わってしまう影響力。戦争に慣れてしまうのも怖いです。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
敵対する立場で、幾度も運命を交差させてきたアルベルトとマティアス。
この物語の果ては、本当に慟哭という言葉が相応しい。
神は、乗り越えられぬ試練を与えることはない。
…などと言うのも愚かしく感じるほどの、悲惨な殺戮。意味を見出せない戦闘。
今この瞬間も、女性や子供を含めた民間人に銃を向けている兵士たちは、皆こんな心境でいるのだろうか。
そうだとしても、到底受け入れられないのだけれど…
現実になおも続いている侵攻や、防衛のためと称して軍備を増強しようとしている政府。
感想を書くことも出来ず日にちが経ってしまったが…
とにかくとてつもなく力のある作品だった。 -
Ⅰの続き。
ナチス時代のドイツ。親衛隊に入隊したアルベルトと、修道士のマティアス。図らずも対立してしまった旧友の物語。
ドイツのポーランド侵攻から第二次世界大戦、そしてドイツの敗戦。戦後の様子までが書き綴られているのだけど、本当に一言で感想を述べるとすれば、「戦争は人々に何ももたらさない」ということ。
だからこそ今読めてよかった。プレゼントしてもらえてよかった。
著者の須賀さんは大学で史実を専攻されていたようだし、この小説を書くにあたってたくさんの文献を読まれたそうなので、この小説を読んだだけで当時のドイツで起こっていたことが分かりやすく理解出来ると思う。
物語としても、とても面白かった。
戦中の描写はハラハラするけれど、最後はとても静かに終わったのも印象的。
アルベルトはとても冷酷な人間の設定だけど、なぜか憎みきれないところがあって、その理由が後になってから明かされるという、枠としてはミステリ小説。
マティアスはそのまま純粋で真っ直ぐな青年で、読みながら思わず「頑張れ」と応援してしまうような人物。
その二人が基本は平行線を辿りながら、たまにその道が交錯する。人と人の不思議な縁を感じずにいられない。
個人的に思うのは、この表紙の感じは作品としてはちょっぴり損しているような。中身はとても硬派でしっかりした歴史ミステリなので、もっと重厚な表紙の方が合ってるような気がする。
自分ではあまり選ばない小説を読めて、そしてそれがとても面白くて読んでよかったと思えたのもひとつのめぐり逢い。
時を置いて再び読み返してみたい小説。
そして関連本にも興味が…。 -
ハードカバー版を既読。もう何と言ったらいいのか。何と書いたらいいのか。まさに慟哭と呼ばれるかたまりを喉元に詰まらせながら読み進めたⅡ巻は、悲劇と残虐と無力をこれでもかと描いている。すべてを背負って生きることを当然としたアルベルトが民衆の目にどのように映ろうと、彼の生き様はまるで神に仕えるものと同等か、それ以上であると言わざるを得ない。憤怒の嵐のなか苦悩するマティアスの対極で、凪いだ風のように立つアルベルトの姿が脳裏に浮かぶ。信仰と法と戦争。それらを小説というかたちでこうも深く表した作家が他にいるだろうか。
-
障がいのある人やユダヤ人への迫害を阻止しようと、自分の持つ力を出し切る修道士マティアス。ナチスの立場から宗教を弾圧をしてきたアルベルト。
第二次世界大戦の最中、ドイツやドイツに侵攻されていた国で起きていたことを、彼らの目を通して見ているようでした。
それだけでも星5つの価値でしたが、驚きの展開もあり読み応え抜群です。 -
修道士マティアスとナチス親衛隊アルベルトの、本来混ざり合うことのない二人の運命が折々に交錯する。マティアスはそれを偶然と考えていたけれど、最終章で実はアルベルトが仕組んだ必然だったのだと明かされる。
少年時代友人であった二人が後に白と黒の運命を歩むも、実は二人とも白だった、というありきたりな結末にはならない。白というにはアルベルトの手は血に塗れ過ぎていた。
アルベルトに言わせれば、カトリックもナチスも指導者が被指導者に無限の服従を課す指導者原理に基づいたもの。よって二人は似た道を歩いていたとも言える。
二人とも種類は異なるとはいえ信心の心を持ちながら、そこに絶対性を見出せず、マティアスはユダヤ人を救おうとしないカトリック体制へ、アルベルトはユダヤ人を虐殺するナチス体制に持った上部への懐疑を拭えずにいたことも共通する。
アルベルトの妻イルゼの告白から、大恋愛劇としても読める。そこで物語は一転、次に別の真実を告白した男の述懐で更に一転。
最後まで読者を惹き付ける語りに圧倒されっぱなしだった。 -
緻密な取材と検証に基づく真実味ある設定と、謎がそれとわからないまま物語が進行し、あとでからくりに気づかされ、読み返して初めて謎と理解できる複雑な構成力。この巻では二人の主人公だけでなく女性の存在が特に印象的で物語にインパクトをもたらしている。「革命前夜」もそうだったが、ミステリーとノンフィクションが混ざったような小説で、早く完結を味わいたいというはやる気持ちや読了後の安堵感と読了ロスの全てを味わえる読み応えのある本。
-
クライマックスからが、ものすごく良かった。
マティアスとアルベルト。
色合いの違う二人は、どんな末路を辿るんだろうと思いながら読んでいた。
序盤で覆された筋書きは、終盤で更に覆される。
イルゼの告白に、一体自分は何を読んでいたんだろうと思わされた。
戦争、虐殺という、人間の為す非道の中で、人間は懸命に救いを求める。
人間が信頼というシステムの中で創り上げた「救いの神」は、非常時にあって機能する。
そうしてまた、人間は人間の世界において自らが行なった罪を償っていく。
先日読んだ文章には、ニヒリズムとは世の中の不条理から目を逸らすことを意味する、と書いていた。
自分一人ではどうにもならない出来事の連続の中で、目を逸らし、時に己にとっての「楽園」に身を置いて逃避してしまうこと。
そう言った虚無に身を包まれて尚、不条理な世界に戻って来れるのだろうか。
今作でのアルベルトは、まさにニヒリズムを超越した人間だったのではないかと思う。
彼がしたことの善悪を簡単に論じることは出来ないけれど、彼はナチスの行なった不条理から目を逸らすことはなかった。
そんなアルベルトを見つめる人間として、マティアスという存在がいたのかな、とさえ思えた。