- Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101289526
感想・レビュー・書評
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中村文則作品全般に漂う、陰鬱で湿り気を帯びた悪意を感じさせる。読んでいて、ズシンと重たくなり、日常の閉塞感で常に溺死寸前、空気の底を感じる。
気づけば中村氏の描写に深く引き込まれていく。この物語最終は救いであると信じる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
圧倒的な暴力の支配の末に土の中に埋められた主人公。身体が強ばり、息苦しくなるような虐待の描写にしばし手が止まってしまった。
土の中から生まれたと言った主人公の言葉が全てだと思う。
白湯子と二人お墓参りに行けるといいな。
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非常に重苦しい2編の短編である。重苦しさを感じるのは、著者が小説という手法を使って登場人物の心の中に抱える闇の全てを明らかにしようとしているからだろう。
表題作の『土の中の子供』では親に捨てられ、孤児として虐待された過去を持つ主人公が暴力をきっかけに死を切望し、それに向かっていくという物語である。虐待され、疎外され続けた精神の崩壊と、生と隣り合わせの死を描き、最後には微かな光を見せてくれる。
表題作とは対極にあるような『蜘蛛の声』を併録。 -
幼い頃に親に棄てられ、引き取られた親戚の家での日常的な虐待の末、土の中に生き埋めにされた主人公。この悍ましい被虐体験の記憶、暴力によって搔き乱された精神に深く刻み込まれた恐怖心、憂鬱感、厭世感、自殺願望を絡めながら、宿命に囚われて生きる人間の業とかすかな希望の光を語った『土の中の子供』は、衝撃の芥川賞受賞作品。 日常生活から離脱し、橋の下で暮らし始めたサラリ-マンの心情を語った『蜘蛛の声』が併録されている。
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表題作は、第133回芥川賞受賞作。他に、短編『蜘蛛の声』を収める。
『土の中の子供』は、冒頭、衝撃的なシーンで始まる。
主人公の「私」は、チンピラの男たちに取り囲まれ、ずたぼろに殴られている。それも自分で好き好んでケンカを売ったのだ。勝算などない。ただ自分を痛めつけようとして男たちに因縁をつけたのだった。
「私」は27歳。タクシー運転手。
同棲している女はいるが、この女もどこかやさぐれている。学生時代に妊娠して中退することになったが、相手は他に女を作って逃げた。それでも産む決心をしたものの、子供は死産だった。それ以来、性的に不感症になっていた。不誠実な男に引っ掛かってばかりで、生活は荒み、酒浸りである。付き合っていた男とケンカをして、部屋をたたき出された後、「私」に拾われるように、一緒に住むようになった。
「私」は深い闇を抱えて、捨て鉢に生きている。そうなっても道理の理由があった。
子供の頃、実の両親に捨てられたのだが、引き取られた先でひどい虐待を受けていたのだ。
物語の中盤を越えたあたりで、養家での暮らしが回想の中で綴られる。
身体的な虐待。精神的な虐待。心を殺さねば生きられないような日々。
その果てに、養親は新聞記事になるような大きな事件を起こす。
表題の『土の中の子供』は、彼が経験した虐待を示している。
養家から逃れるきっかけとなった事件の回想シーンの描写はすさまじく、読む方も息苦しさを感じるほどで、著者の筆力の高さを感じる。
一度、「土の中」を経験した者は、そこから抜け出し、生まれ変わり、生き直すことができるのだろうか。
ある意味、「私」が自身の身体を痛めつけようとするのは、生存を確認する作業のようにも見える。
極限状態を超えたところで、何か別の存在になれるかのような、生まれ変わりの「儀式」のようにも思える。
ラストは希望が覗くようにも見えるが、単純なハッピーエンドではないだろう。
「私」のこれからの人生が屈託なく過ぎるようには思えない。
その屈託を越えて、「私」は人生に何らかの喜びを見出すのか。そうであればよいとは思うけれども、そうである保証はないとも思う。
もう一篇の『蜘蛛の声』は少しシュールな味わいの作品である。
会社を辞め、橋の下で暮らすようになった男。
けれども橋の下に住む蜘蛛は、男が子供の時分からここに住んでいるという。
話を聞いているうちに、男は蜘蛛が正しいような気がしてくる。
揺らぐ自我。襲い掛かる幻覚。
読む者に揺さぶりをかけるような、奇妙な魅力のある小品。
*作中に、血を吸った蚊を叩き潰すところがあるのですが、ここで著者は蚊に対して「彼」という言葉を使っていて、「えー、蚊って血を吸うのはメスだけじゃん?」と少し気になりました。「彼」という言葉に「オス」の意味は乗せてないのかもしれないですけど。というか、気にするのはそこではない気が我ながらしますけれども(^^;)。 -
救われた〜
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幼少のころ親に捨てられ、養父母に酷い虐待をうけた主人公。トラウマから逃れるため、暴力と恐怖の中に自ら身を置こうとする。
銃や遮光と違い、終盤は光が見えたような気がして救われた。
1人でも信じて見守ってくれる人がいるのって強いよね。 -
『何もかも憂鬱な夜に』もそうだったけど、個人的にはたぶんそれよりもずっと暗くて憂鬱な感じで、それなのにやっぱり最後、一筋とも取れないけれど救われに近い誰かの存在が見えることで憂鬱だけが残る読了感では無くなってるような気がする。
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『土の中の子供』は、暴力にさらされた少年が、やがて大人になり、生と死のはざまを彷徨い、最後に微かな光が見えるような、そんな小さな物語。他に収録されている「蜘蛛の声」も同様に、自棄になった男が生の意味を探ろうとする。作者の内奥に疼く、たった一つのテーマが、これでもかというように憂鬱に綴られる。こういうの、俺は好きだな。