遮光 (新潮文庫)

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感想 : 308
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  • Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101289533

感想・レビュー・書評

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  • 去年買って読んだけど記憶になかったので再読。
    虚言癖のある青年が恋人の死を受け入れられず、彼女の小指を瓶に入れて持ち歩き、嘘と妄想を繰り返すうちにだんだん自分自身も見失ってしまい性と暴力の深い闇の世界へと堕ちていくというような話。
    普段の生活では経験しないことだからこそ、小説は面白い。中村文則氏ワールド全開な感じの暗い暗い闇に引き込まれた。
    『銃』同様、驚きのラストにやや放心の読後感。(((;꒪ꈊ꒪;)))

  • 就職活動をしていると、暗い人間というだけで極悪人のように見られる気がします。自分が否定されて、でも人間性はそう簡単には変えられずに苦しみます。
    そんなとき、この小説を読みました。中村文則さんの小説は陰鬱さを含んでいるんですけど、そういう小説に救われました。負の精神を描いてくれる小説があることで助かった人間が、確かにいます。

    死んだ彼女の指にすがる主人公は狂人になってしまったのかもしれません。けれどすがる対象があるのは幸せなのではないかと、羨ましくなりました。虚言癖な部分もありましたが、すらすら嘘が言えることにも、羨望しました。
    人は現在の行動だけを見てその人柄を判断してしまうところがあると思いますが、背景にも目を向けることでもっと理解できることがあるように思いました。

  • 幼い頃に両親を亡くした不幸な生い立ちの青年。
    内面の虚無感を隠すため嘘を重ねるうちに、
    現実と虚構の区別があやふやに。
    そして徐々に精神の均衡が崩れ、
    正気と狂気の間をふらふらと綱渡りしているようだったが、
    恋人の死をきっかけにとうとう向こう側へ落ちてしまう。

    狂気に飲み込まれていく様が、あまりにも生々しく恐ろしく、
    鉛を呑まされたような読後感。
    人は精神を病むと太陽に背くDNAが組み込まれているんだと思う。

  • 久々に鬱々とした小説だった。

    自分の行動すべてが嘘っぽくなることってあると思う。俯瞰してみているような冷めた感じ、そんな感情を演じてみてるような感じとか。主人公の嘘は、嘘として機能させているわけじゃなくて、どっちでもいいような適当なものなのだと思う。世の中すべてが自分にとってどうでも良いから。ただ死んでしまった彼女以外は。

    彼女の死をきっかけに絶望に陥って、それでも最後は救われるって話じゃないのね。最後まで、幸せな方向には向かえない、彼女への愛は偽れないから壊れてしまう。

    読んでで感情があっちこっち飛んでいっててまとまりも結論もないけど、そうなりたいからそうするっていう描写。ちょっと分かるような気もする。

  • 死んだ彼女の小指をホルマリン漬けにして持ち歩き、彼女が生きている妄想にすがりながら日々を消費していく青年の話、といったところでしょうか。

    「ホルマリン」「死者」というキーワードがあると、いつも大江健三郎「死者の奢り」をイメージしてしまいます。実際、ラストシーンで主人公がとった行動のグロテスクさは、「死者の~」にある吐息のような気持ち悪い湿り気があって、微妙に救われた感が漂いつつも底知れない生理的嫌悪感がねっとりと感情にまとわりついてきました。

    それでも全編通しての印象としては、今まで読んだ中村文則作品「銃」「掏摸」と同じく、空虚・ドライといったもののほうが近いかも。

    彼女が死んだという現実を受け入れられない主人公がとる行動はイミフな点も多く、共感しづらい部分も見せてくれます。けれども「彼女が死んだ」というショックから立ち直れないということがその要因であるなら、さらに言えば幼いころに両親も亡くしていることもそれに関わっているとしたら、多少同情する部分もなくはありませんし、理解できなくもない部分もあります。

    ただ、これだけの不幸を抱えて、かつ淡々と時間を消化していくだけのような生き様を見ると、そこまでして生きる必要ってあるのかという絶望感すら覚えてしまいます。それがとてつもない空虚感を覚えた要因になっているのかなと思っています。

    作品自体は後味のよい内容ではないものの、むぅ…と唸らされる渋イィものだったとは思いますが、唯一「うーん」と首をひねったのは著者本人によるあとがき。

    小説の感想だとか解釈は読み手に委ねさせてほしいと思っているのですが、著者本人が作品解説をしちゃうと、自分の解釈が異なっていた時に国語のテストで間違っちゃったような気まずさがあるんで、できればやめてほしいんですよね…ここが本作一番の不満点でした。

  • 本当の自分と外部に対して演技をする自分。合わせ鏡の無限連鎖の中、果たして本当の自分とはどれか? 狂うことが一つの演技ならば、狂気と正気の境目はどこなのか? 暴力と狂気のラストシーンは久しぶりに背筋がぞわっ(°_°)これで☆1つプラスです。
    +作者による文庫解説が実に分かりやすい。

  • 小説全体をおおう切なる感じに、何度か泣きそうになりました。

    主人公にとって嘘をつくことは、自分の異質性や現実世界への違和感が表に飛び出さないような膜を張って、その中に自分を安置することのように思えました。現実を照らし出す太陽光をさえぎるもの。衝動的に何かをしても、演技だと自己暗示をかけて、膜を死守しているかのようでした。死という圧倒的な事実の前であがく姿が、本当に切なかったです。

    この作家の小説を初めて読みましたが、とても純粋な方なのだろうな、という印象を受けました。他の作品も読んでみたいです。

  • 隣室と間違えて部屋に入ってきたデリヘルの女、美紀。そんな成り行きから付き合い始めた2人だが子供のように喜ぶ美紀に知らず知らず依存していた私は、彼女の事故死を周りに告げられず虚言を撒き散らしながら日々を過ごす。

    事故で亡くなった彼女の遺体から指を持ち帰ってホルマリン漬けにして持ち歩く主人公は不気味で哀しい。

    中村氏の作品を読むのは二作目だけどやっぱり暗い…芥川賞作家とは相性悪いのかなぁ…
    上手いんだけど積極的に読みたいお話ではないなぁ。

  • 中村文則さん、私にとって2作目の小説。『最後の命』を最初に読みました。中村さんにとっても(も、とつけるのはおこがましいけれど)デビュー作『銃』に続き2作目だそうです。
    「あとがき」にも「文庫解説にかえて」でも作者本人が自ら、暗いだの陰鬱だの癖があるだの書いておられて全くその通りと思う物語でした。でもあっという間に読み終えてしまうんです。
    作家さんに「技」をまんまとかけられてしまう、という状態でもありますが、私にはこういう作品が必要なんだなあとしみじみ思いました。
    「あとがき」から
    『苦しみから一定の距離を置くのではなく、その中に入り込んで何かを摑み、描き出そうとすること。僕が読んで救われた気分になったのは たとえそれが悲しみにまみれた物語だったとしても そういう小説だった。』

  • 僕はこの歪さを、純愛だろうとは言えない。でも、たしかに、愛にはどうしようもなく崩壊へ誘うものがあるのだと思う。だから、これは純愛の鱗片なんだろう。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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