わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年12月24日発売)
3.60
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本棚登録 : 576
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101296715

感想・レビュー・書評

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  •  なんともとらえどころのない本。
     イラク戦争が始まる直前の5日間に、渋谷のラブホテルに閉じこもってセックスを続けた若い男女が登場する「三月の5日間」。
     かび臭いアパートの一室で、横になりながら、夫の自分への思いを妄想し続ける妻を描いた「わたしの場所の複数」。
     この2つの短編をまとめ、本書のタイトルとなっている。
     まず珍しいのは、表題作がないということ。
     しかし収録2作はまったく連作にはなっていない。
     
     なぜ、このタイトル?
     何が共通して描かれているのか?

     その視点を持って読むと、見えてくるものはある。
     
     ここにあるのは、なんでもなさそうでいて、実は決定的な(それはもちろん小説中の当事者にとって)、「特別」な時間であるということだ。

     その特別さは、決して社会とはかかわらない。同時に登場人物の人生の転換点などでもない。
     でも特別。

     ここにあるのは、世の中の変動や動きから、取り残されていても、それは置き換えが聞かない唯一の時間。

     話者が次々と変化していくので、やや読みづらいが、浮遊する存在感の希薄さがよく伝わる。
     ああ、こういう小説もたまにはいいなあと思いながら読了。

     ちなみに大江健三郎の巻末エッセイも読みごたえあり。
     でも、本編前には読まないほうが得策。大江の読みに引きずられてしまうのは確実だから。

  • 脚本は前に読んでいてそっちの評価文等は読んでいたのだけど、なのに小説は全然読み進まなくて、買ったときに観に来ていたチェルフィッチュの舞台も身が入らずじまいで挙句寝てしまって、多分そのだるさみたいなものが取れたから今回読み終えられたような気がする。
    読めなかったのは、やはり緊密性があるのだと思う。本来あるはずの文末・句点やが流れまくった口語の文章は、そのモダリティすら浮遊感と空虚をちゃんと演出する。頭は使わされる。かわいこぶってないけど面白く読めて、一読の価値は間違いなくある。
    読み返しもしたいところ。

  • 【本の内容】
    ブッシュがイラクに宣告した「タイムアウト」が迫る頃、偶然知り合った男女が、渋谷のラブホテルであてどない時を過ごす「三月の5日間」。

    疲れ切ったフリーター夫婦に忍び寄る崩壊の予兆と無力感を、横たわる妻の饒舌な内面を通して描く「わたしの場所の複数」。

    人気劇団チェルフィッチュを率いる演劇界の新鋭が放つ、真に新しい初めての小説。

    第2回大江健三郎賞受賞作。

    [ 目次 ]


    [ POP ]
    著者主宰のチェルフィッチュの演劇を観るような導入から始まり、多様な解釈が可能な演劇から、一つの選択肢が小説に結晶した。

    「三月の5日間」は米軍のイラク空爆の間、あえてTVもつけずに渋谷のホテルで過ごした男女2人の話。

    「わたしの場所の複数」は、動かした身体の感覚描写が特に目を引く。

    終わり方にも驚く。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 新しい。そして斬新。

  • すんごい描写力。 ひきこまれたぁー

  • 舞台で活躍されている作家さんのようで内容もそれがわかるような一般の小説とは違うことがわかる。
    まず題名が目を引くし主題の物語も視点が変わっていくのが面白い。
    独特のセンスを感じた。

  • さらっとしているのに生々しさ毒々しさが突き刺さって、読後に残る。

  • 第二回大江健三郎賞受賞作。なぜこれを冒頭に書いたかというと、文庫版の大江健三郎さんの解説が興味深かったから。一読の価値ありの解説。
    ドラマが生まれそうなことを淡々と書き、淡々と過ぎて行くはずの時間にドラマを描く。
    巷に溢れるお手軽で安っぽい「ドラマチックなドラマ」と、無関心の中に埋れていく「誰にも気づかれないまま過ぎる時間たち」。その真裏の物語を描き読ませる筆力と妄想力が凄い。
    文体は川上未映子さんの「乳と卵」やエッセイのそれに似ていて、癖と味あり。そのあたりがお好きな方には特にオススメ。

  • 2012/08/11読了。『三月の5日間』『わたしの場所の複数』の二編収録。大江健三郎賞受賞作。ピース又吉の本で紹介されていて、タイトルに興味を持ったので読んでみました。

    『三月の5日間』は2003年の3月、イラク戦争始まりの頃に、六本木のライブハウスでの変わったパフォーマンスを見に来ていて出会った若いフリーターの男女が、渋谷のラブホテルで5日間過ごす話。
    男女はホテルで、“ここではテレビを見ないで過ごして、それぞれ自分の家に戻ってテレビを見たときに、なんだ戦争終わってるじゃん、ってなってるかもね”って、あまり深刻でない淡い期待を持ちながら、現実と切り離された時間を過ごします。これが「私たちに許された特別な時間」ということなのかな。文章のせいか、平坦な感じがして、つかみどころのない話でした。
    大江健三郎の選評を読んで、分かったような分からないような…。
    映画館で話しかけてきた女の、後ろ向きな誘いかたが好きでした。

    『わたしの場所の複数』、こちらのほうが親しみやすくて、面白かった。小説のなかで過去と今が断りのないままに混ぜられているので混乱しましたが、最後に種明かしされたら、この夫婦の時間の流れ、気持ちの変化がわぁっとイメージされてきました。
    飯田橋駅のBeckers。たまに行きます。

  • 知らなかったらなかったことになるのか。でも、許される時間は限られているんだよね。

著者プロフィール

1973年、神奈川県生まれ、熊本県在住。演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。主宰する演劇カンパニー、チェルフィッチュでは2007年に同作で海外進出を果たして以降、世界90都市以上で上演。海外での評価も高く、2016年よりドイツを始め欧州の劇場レパートリー作品の作・ 演出を複数回務める。近年は能の現代語訳、歌舞伎演目の脚本・演出など活動の幅を広げ、歌劇『夕鶴』(2021)で初めてオペラの演出を手がけた。2023年には作曲家藤倉大とのコラボレーションによる音楽劇、チェルフィッチュ×藤倉大withクラングフォルム・ウィーン『リビングルームのメタモルフォーシス』をウィーンにて初演。小説家としては2007年にはデビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(新潮社)を発表し、2022年『ブロッコリーレボリューション』(新潮社)で第35回三島由紀夫賞、第64回熊日文学賞を受賞。

「2023年 『軽やかな耳の冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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