やせれば美人 (新潮文庫 た 86-2)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101335520

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  • 「妻はデブである。」
    と著者の失礼千万な言葉からはじまる。
    だけどそこはノンフィクション作家・高橋秀実である。
    今まで読んだ秀実さんのノンフィクション同様、文章にはユーモアと愛情が散りばめられていて、奥さまと探るダイエット道は笑いと発見の連続であった。

    「かつて彼女は当時のアイドル歌手、小泉今日子に似ていた。怒っても笑っても、その表情が顔からこぼれるキュートな顔立ちだったのだが、今はまわりに余白が増えたせいで、表情が小さい。かつての顔が今の真ん中あたりに埋もれており、遠くから見ると、怒っているのか笑っているのか、わからないほどである。」
    ああ、そうなのよ。まさにわたしもそんなふう。ほっぺのお肉をギュッと持ち上げ、ついでに瞼もグイッと引き上げる。ほんとうの私は、このお肉に隠れてるのよ~ 笑

    「やせれば美人。」
    タイトルにもなったこの言葉は、秀実さんの奥さまの口癖である。
    同時にわたしの口癖でもあった(過去形である。今はもう美人<健康。やせたいのは健康のためである)
    さてこの「やせれば美人」の解釈としては、太っていることでカモフラージュされているが、実は美人ということであるということだろう。
    わたしはかつて自虐や言い訳として数えきれないほど使っていた。しかし、秀実さんはそんな表面的な意味としてではなく、その言葉に隠された不可解な女性心理へとたどり着く。
    それは、わたしも気づくことのなかった女性の深層心理であった。

    〈あからさまな美人は現状維持に気を揉むが、「やせれば美人」はどんなに太っても維持できる。
    むしろ太っていないと維持できない。〉

    ひゃあ、なるほど!目から鱗である。
    そこには言い訳なんて後ろめたい感情は一切ない。
    奥さまはとっくに気がついておられたのだろう。
    「彼女は誰と会ってもひるむことなく、前髪を上げ、顔の中心部を相手に見せつけ「どうだ、やせれば美人でしょ」と言わんばかり威風堂々としていた。」
    これはダンナさまである秀実さんだからこそ描ける奥さまのお姿だ。
    まさに向かうところ敵なしである。

    そんな奥さまがある日体調を崩す。
    〈妻が倒れた。心臓がバクバクするという。158センチ80キロ、この10年間で30キロ増量、明らかに太りすぎ。ダイエットするわ、私。子供も産みたいし──病院の待合室で妻はしんみり呟いた。〉
    そこで秀実さんは、ダイエットの道を探り始める。コツコツとダイエットに関する知識を増やし、論理的に突き詰めていこうとするのだけど、女性側の心理からズバっと論破しちゃうのが奥さま。
    「私は汗をかきたくないのよ」
    「努力には“美”がない」
    「そう。やせてブスだったら、救いようがない」
    「憧れる。でも、そうなりたいとは思わない。なれないからこそ憧れるのよ。だいたい私が憧れていたのは(カトリーヌ・)ドヌーヴだから」
    「太っていても美しければ、それでいい」
    「太ることより、シワがいやなのよ。シワになるくらいなら、太っていたほうがいい。内側からシワを伸ばす。それでモチモチ、ツルツルお肌を維持する」
    ……奥さまに軍配はあがる。
    数々の赤裸々な言葉。それが奥さまの魅力でもあって、もうこのままの奥さまでいいじゃないのと思ってしまうのは、「やせれば美人」の同志だからかしら。

    ダイエットを決意してから3年後。
    奥さまはダイエットに成功したのか。
    ふふふ、本当に可愛らしい奥さまである。
    そして、なんやかんや呟きながら、そんな奥さまが大好きな秀実さんである。
    結論は、仲の良いご夫婦である……ってことでいいんじゃないでしょうか 笑

  • 【本の内容】
    妻が倒れた。

    心臓がバクバクするという。

    158センチ80キロ、この10年で30キロ増量、明らかに太りすぎ。

    ダイエットするわ、私。

    子供も産みたいし―病院の待合室で妻はしんみり呟いた。

    しかし運動は大の苦手、汗をかくのは美しくない、目が覚めたらやせていたというのが理想とのたまう。

    夫は、ダイエットの道を探り始めた。

    不可解な女性心理に寄り添った抱腹絶倒の3年間。

    [ 目次 ]
    やせれば美人
    心臓バクバク
    デビュー前、デビュー後
    ダイエットが降ってくる
    信ずる者は救われる
    9、11、13
    エネルギーの温存
    食神の星回り
    体重計、壊れる
    同窓会に向かって走れ!
    ナルシストの暗示
    太る血液
    もう、食べたくありません
    見えないダイエット

    [ POP ]
    肥満体でいることは、高血圧や様々な生活習慣病になる確率が高いとのことですが、だからといって、それだけで痩せろというのもどうかと思います。

    それって、車に轢かれるから外を歩くな、と言われているような(極端でしょうか)気がして、どうも納得出来ません。

    ただ、本書に登場する著者の奥さんは肥満が原因と思われる心臓の不調を経験し、ダイエットをすることを決意します。

    それならば納得。

    で、痩せるまでの奮闘記かと言うと、そんな単純なものではありません。

    何せ、この奥さんは「努力して何かを得ても、当たり前(中略)努力せずに得てこそ、しあわせなのよ」と言ってしまう人なのです。

    思ってても言えないことをサラッと言えてしまうところは凄いと思いますが、果たしてそんな人がダイエット出来るのでしょうか。

    それは読んでみてのお楽しみ。

    著者の作品は2月の課題書『はい、泳げません』以来でしたが、今回もかなり笑えます。

    電車では読めません。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 595.6
    158センチ80キロの妻。ダイエットの道を探り始めるが…

  •  取材対象を客観的に、それこそ身も蓋もないくらいあけすけに書いちゃうルポライターの著者。今回の取材対象は「太った自分の妻」です…(^^;)

     いや、奥さんもよくこれOKしたな、と思うくらいネタにされている部分もありますが、奥さんを素材とした取材が秀逸です。
     奥さんの人生を振り返り、そして色々なダイエットを奥さんと一緒に取り組んでみて、その都度挫折する(笑)過程を客観的に描き出されています。これにより、太った人がどういう形で作られ、どうしてやせられないのか、そしてその心理とメカニズムが浮き彫りになっています。
     しかもそこに、著者が調べたデータ(うんちく?)が加わり、読み終わった頃、太るということのメカニズムが嫌と言うほどよく理解できています。
     心理とメカニズムの説明で言えば、岡田斗司夫『いつまでもデブだと思うなよ』(http://www.bookreco.jp/member/reviews/detail/17094/55728)の説明が秀逸だと思いましたが、本書はそれよりも詳細です。

     こう書くと真面目なダイエットルポのように思えますが、本文を読んでいるとちょいちょい冗談やツッコミが挟まっていて笑ってしまいます。

    《「基礎代謝を上げたい」
     運動することが嫌いな彼女は、生活活動はそのままでエネルギー所要量を上げたいのだった。安心して食べるために。
     「どうすればいいの?」
     妻に訊かれ、私は計算式を睨んだ。
     計算式に従えば、競た慰謝料を上げる最も簡単な方法は体重を増やすことである。例えば体重100キロになれば、2821キロカロリーも摂取できる。太ればもっと食べられる。食べるためにはもっと太ればよい、ということになるのである》

     …いや、何か違いますよね、コレ(笑)。
     本文は更に続くのですが、話は質量保存の法則を経て、壮大な「帳尻合わせ」の世界に。デブは最後「爆発」するという話に行き着いたとき、僕の脳裏に『北斗の拳』のハート様がよぎりました(失礼!)。

     著者のルポが好きで色々取り上げていますが、印象として近いのは、司馬遼太郎が淡々とした記述でトホホな話を書いたものでしょうか(「おお、大砲」http://www.bookreco.jp/member/reviews/detail/17094/51014など)。

     ダイエットについて知りたい人、笑いたい人にオススメです。が、僕と同じように痩せたいと思っている人は、笑いながら少しだけ顔が引きつるかもしれません(笑)。

  • ノンフィクション作家(?)ならではの、作品だな。と。
    ダイエットに対する意識の真髄をみた感じです(笑)

  • ダイエットの深淵に触れる本。食べるの減らして運動するだけと思ってたけど、こんなにいろんな考え方があるとは。男性必読。でも、やせたかったら食べるの減らして運動なのだわ。

  • 「ダイエットするわ。私」と宣言した「妻」のために、ダイエットについて勉強する「夫(著者)」。
    でもなんかちょっとずれているというか…。
    二人の意識の違いがちょいちょい顕在化し、それに対する著者の戸惑う様子と対する「妻」の動じない様子がなんだか妙におかしい。

    ダイエットの役に立つかは微妙。でもダイエットによるストレスからは解放されるかも。

  • 奥さんが、すごく笑える。共感できるわー。

  • この本、面白かったぁ〜〜♪

    「妻はデブである。
     結婚前はデブではなかったが、結婚してからデブになった。
     158センチで80キロ。
     この10年で30キロも増量したのである・・・」

    これ文だけ読むと、奥さんは大分ズボラな性格なのかなぁ?と
    思った。

    が、これが大間違い。奥さんはめちゃめちゃ几帳面
    そして完璧主義者だった。この性格ゆえにデブになっちゃうのだけど w

    夜中に奥さんが胸が苦しいといって救急車で運ばれたことを機に
    夫婦、二人三脚で抱腹絶倒のダイエットの日々がはじまる。

    旦那さんは、作家という職業柄なのか、ダイエットというものを
    徹底的に考察し、調べ上げ、それを奥さんに実践させようと試みる。

    まず、手始めに辞書でダイエットという由来を調べ、インターネットでも
    検索する。(生真面目〜w)

    カロリーに関する栄養学のテキストを読み耽り、はたまたダイエット成功者の
    インタビューも欠かさない。

    妻を痩せさせるべく一生懸命なご主人ではあるが、奥さんは一向に体重が減らない。。

    男の人は科学的、理論的に立証されたことを実践すれば必ず結果が出て当たり前だと思う。
    (いや、そうでなくてはならないと思う生き物だ。)

    でも女の人って、理屈はなんとな〜く頭では判っているけど、自分の心が動かない限り
    社交辞令上、それに付き合ってはあげるけど、心底納得することはない。
    例えば、ノーベル賞並みの偉い学者さんが、束になって説明しても無理なんだろうな(^_^;)

    男の人には到底理解出来ないだろうが、そういうところ女ってあるよねぇ〜♪

  • ププッ(≧∇≦)今回も笑わせていただきました♪

著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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