- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101347127
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
冷戦構造下でのスパイだった者たちの行き場のない物語です。ソ連の崩壊により時代が変わったことで役割を失った主人公島田が偽りの日常を過ごしているところに、きっかけとなる若者との出会いが訪れます。島田の過去を匂わせつつ、まだ物語は動き始めたばかり。
-
面白かった。とても面白かったのだが、最後、何が何でも原発を襲う必然性があったのかと考えると、ちょっと疑問が残る。それで★1つマイナス。
しかし、高村薫好きの友人の言葉通り、この人の作品では、登場人物の設定や内面、それに登場人物同士のつながりなどといった人物描写が、ものすごく細かく丁寧に描かれている。
この作品でも、主人公の島田や、幼なじみの日野、そして謎のロシア人パーヴェレ、スパイの江口と、登場人物はどれも一癖あるけど魅力的。そしてポイントなのは、どの作品でも、こうした重要人物はほとんど男性で、しかもどういうわけかゲイゲイしい雰囲気がうっすら漂うところ。
ロシア人とのハーフである島田は、優秀な原子力技術者でありながら、スパイだったことを苦悩するのだが、スパイが華やかでもカッコよくもないという設定が私好み。情報をこっそり他に流す仕事が、精神的にダメージを与えないわけがない。そしてそうした設定は、ほかの作家の、わたしの好きな作品に出てくるスパイの設定と重なっているのも、個人的に興味深かった。
それから、大阪の町で、英語やロシア語や中国語や韓国語が飛び交うのが、なんとも妙に生々しいのも、個人的な感覚だ。 -
複雑に絡み合う人物と物語。伏線に伏線を重ね、たまに専門用語もはさみつつ丁寧に読まなければ理解が難しい。しかし、そこがおもしろい。下手なドラマよりよっぽどスリルがあります。時期的にもね。
-
重い。。
登場人物達が腹の中に抱えてる虚無感が小説の中ににじみでできています。 -
原発問題の話と聞いて読んでみたら、それとは別に面白い。スパイ・原子力技術・様々な国を取り巻く特殊な環境を設定されたときはなんなんだと思ったけれど、主人公島田の醒めた視点と専門用語をふんだんに使った具体的な描写にぐいぐいと引き込まれていたのだった。<br /><br />
-
震災関連のニュースで高村薫のインタビューを見て読んだ。著者がどこまで意図したかは不明だが、安全神話がその名の通り神話に過ぎないことが判明した今、原子力発電の必要性を含め、私たちは今後どんな世界を築いていくのか、人類というものが試されているのかも知れない、そんなことを考えた。
作品では原子炉のメルトダウンまでは想定されてないが、チェルノヴィリの実例が過去にあったように、完全な安全などないと警鐘を鳴らしている。 -
高校生のころに読んだ作品。
そして、振り返ってこのレビューを書いているのは2011/5/29。
震災から2ヶ月超。
この作品を読んだ頃、まさかこんな事態が起こるとは想像もつきませんでした。
原子力と研究者の話である本著に名付けられたタイトル「神の火」。
高村氏は未来を見通していたのかと思い鳥肌が立つ。 -
高村さんがNHKで「地震国の日本ではこれからは原発は現実的ではない」と語ったという話を聞いて本棚から取り出した。
登場する優秀な男達は理詰めでなく衝動や感情で動くので、その辺が私には納得し難いところがある。説明不足というか。そのあたりで『リヴィエラ』や『照柿』ほどの完成度がないかなぁと感じる。