見張り塔から ずっと (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.30
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本棚登録 : 1159
感想 : 118
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101349121

作品紹介・あらすじ

発展の望みを絶たれ、憂鬱なムードの漂うニュータウンに暮らす一家がいる。1歳の息子を突然失い、空虚を抱える夫婦がいる。18歳で結婚したが、夫にも義母にもまともに扱ってもらえない若妻がいる…。3組の家族、ひとりひとりの理想が、現実に浸食される。だが、どんなにそれが重くとも、目をそらさずに生きる、僕たちの物語-。「カラス」「扉を開けて」「陽だまりの猫」。

感想・レビュー・書評

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  • 「扉を開けて」が印象的だった。
    対象喪失(家族福祉論のゼミででてきた概念?)が少しテーマになっていて、人の心情が上手く表現されていて、読後感は重かったけど、良かった。

  • 『家族』をテーマに三篇からなるオムニバス作品で、表題作品は無い。
    とにかく、読むのが辛かった。
    一つ目の『カラス』も私の中ではホラーとはまた違った読むのには躊躇われる怖い小説に分類され、無理矢理読んだ感があった。
    しかし、特に二つ目の『扉を開けて』という作品を読むのは格段にペースが落ちた。
    最後のページには、ぞわりと、もう、思わず本を投げたくなってしまった。投げずにはいたが、本は閉じた。

    私が初めて重松清作品と出会ったのは『卒業』で、そのイメージがあった分、その『卒業』と『見張り塔からずっと』でのギャップがあり衝撃が大きかったのだ。
    なんとか一冊読み終えたものの、数日経った今も未だに思い出してしまう。
    この人は、すごいと。
    それしか思えない私はボキャブラリが少ないし、読むという能力もまだまだ未熟だ。
    けれど重松さんにはいい意味で泣かされる。
    辛いと思うのだけれど、またこの人の作品に触れたいと、不思議と思ってしまう。



    (20110909)

  • 雑誌記者として出版社に長年勤めてきた重松清さん、様々な社会現象を目の当たりに「目撃」してきた自分自身のことを、見張り塔にいる哨兵にたとえている。
    そして、われわれ読者もその断片を本書以後の彼の作品を通して「目撃」させられることになる。

    3つの短編で成り立つ本書は、以後の重松作品の方向付けをしていると思う。
    ニュータウンでひそかに行なわれる主婦間のいじめと、その流れ玉を浴びる夫たちの話、「カラス」。
    1歳で亡くした息子と同じ歳、同じ名前の子供が、夫婦を悩ませる「扉を開けて」。
    姑に見放され、マザコン夫には邪険に扱われる若妻は、18で結婚した。世間知らずとののしられ、その存在さえも消し去られる「陽だまりの猫」。

  • 「見張り塔からずっと」
    家族の終焉。


    重松清さんと言えば、心情を描くのが抜群に上手い。だから心があったまるものは、普通の小説よりももっとあったまる。が、決して暖かいものだけではない物語になると、より辛い気持ちになったり、悲しくなったりしてしまう。本作は、間違いなく後者に該当する中編集です。収録されているのは、以下です。


    1.カラス
    発展の夢を断たれた住宅地ツインヒルズ・ニュータウンの住人たちの鬱屈と歪んだ「復讐」を描く中編。


    土価が天井知らずの高騰を見せるバブルに購入したマンションがあっという間に価値が下がり、売ったとしても赤字確実。住人たちは、何故このマンションを買ってしまったのか鬱屈を溜め込んでいた。そんな中、転居してきた榎田家族のある言葉が、住人たちに火をつけてしまう。


    非常に辛くなる物語。何気なく言ったかも知れない言葉がたまたま聞かれてしまい、それが広まり、嫌がらせになり、そして関係のない子供が巻き込まれる。何より怖いのがそんな状況の中、主人公夫婦がある種生き生きしていくことです。妻は自治会を立ち上げ、生活にハリが出るようになり、夫はそんな妻に性欲を覚える(というか回復する)。生々しいリアリティです。


    なによりもカラスの存在が抜群。主人公たちの気持ちを代弁するかのようにクエッと鳴く。そして、陰湿な復讐を住人たちの代わりにしてやったかのような攻撃。抜群でした。


    2.扉を開けて
    幼い息子を亡くした夫婦の癒されぬ哀しみと苦悩が詰まった物語。


    無くした息子と同じ名前の健太という少年は、いつも部屋の近くでサッカーボールを蹴っている。その音がうるさく注意しようとするがなかなか出来ない。一見住人トラブルに発展して行くかと思いきや、夫婦の哀しみと苦悩にフォーカスされていきます(大体マンションの隣で朝っぱらからボール蹴ることを注意しないダメ親に腹が立ちますが)


    最後の描写が凄い気になります。これも辛い中編です。


    3.陽だまりの猫
    妻として母親として誰にもまともに扱ってもらえない若妻《みどりさん》の人生を賭けた決断が辛い。


    みどりは、15歳から付き合いだした伸雄(当時22歳)と結婚した。幸せか、不幸かと聞かれたら幸せ。しかし、幸せか、不幸か、どちらでもないか、と聞かれたらどちらでもないと答える。それが、みどりの真実である。


    ちょっと気を遣えない、ちょっと分からない、色々ちょっと〇〇な部分をそこまで言うお前はなんやねん!と言いたくなる伸雄 with 伸雄母。もしかしたらざらに良くあることなのかも知れないが、辛いものは辛い。


    全部読むと気を落とす可能性大です。次は、とんびにしよう。。。

  • ・3/9 読了.家族、それも夫婦の話ばかりなんだけど、この人の本は続けて読むと切なくてどんより暗い気分になってよくないな.すっきりもしないしもやもやのままの暗い物語が続くと、こちらまで気が滅入ってきてしまう.やっぱり不幸でも最後には光明が見えるような、そんな物語を読みたくなる.

  • 2018年1月24日読了。
    2018年37冊目。

  • 質的には高い作品です。物語の中にどんどん引き込まれていきます。しかし、怖いですね。
    「カラス」はニュータウンのマンションで起こる現代版村八分、大人のいじめを加害者の立場から描いた作品です。陰湿な喜びを感じながら、一方でいつか自分が被害者になることを恐れる、そういった加害者心理を上手く描き出しています。
    「扉を開けて」は5年前に赤ん坊を亡くした夫婦と生きていればその位になっただろう子供の係わりを描いた作品です。子供の幻影を見る奥さんの侘ない精神状態と、それを援け、繋ぎとめようとする夫。精神の危うさが上手く描き出されます。
    「陽だまりの猫」はマザコンの夫と19で結婚した「何も出来ない」妻と姑の話です。これも一種の陰湿ないじめの物語です。妻は意思を持つ《あたし》と物語の登場人物である《みどりさん》を使い分け、夫や姑の仕打ちをかわそうとします。しかし、自分の存在自身を否定された時に、妻は復讐を企てます。
    重松さんの作品は初めてです。上手いと思います。直接表現ではなく、回りどんどん状況を作り上げて行き、きっちり一つの世界を作り上げていきます。そういえば、元々ノンフィクションライターでもあった様なので「架空の世界のノンフィクション」という感じもします。
    しかし、読後に暗くのしかかる物はあっても、爽やかさはありません。再び手にするかどうか。

  • 【あらすじ】
    発展の望みを絶たれ、憂鬱なムードの漂うニュータウンに暮らす一家がいる。1歳の息子を突然失い、空虚を抱える夫婦がいる。18歳で結婚したが、夫にも義母にもまともに扱ってもらえない若妻がいる…。3組の家族、ひとりひとりの理想が、現実に浸食される。だが、どんなにそれが重くとも、目をそらさずに生きる、僕たちの物語―。「カラス」「扉を開けて」「陽だまりの猫」。

    【感想】

  • 久々に読んだが、やはり暗い。暗さがいい。

  • 発展の望みを絶たれた郊外のニュータウン内のいじめ

    幼い子供を亡くした夫婦の元に現れた同じ名前の少年

    夫にも義母にもないがしろにされる若妻

    3組の追い詰められていく夫婦のお話し
    どれも救いがなく、怖いくらいにリアル

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著者プロフィール

重松清
1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。91年『ビフォア・ラン』でデビュー。99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木三十五賞、10年『十字架』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『カシオペアの丘で』『とんび』『ステップ』『きみ去りしのち』『峠うどん物語』など多数。

「2023年 『カモナマイハウス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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