魔術はささやく (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 13781
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  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369112

感想・レビュー・書評

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  • 幻想的なタイトル。自殺へと仕組まれた3人の女性の死と次は自分ではないかと怯える4人目の女性。彼女たちが隠し持つ現実的な社会問題。そして彼女たちともその社会問題とも関係のなかった16歳の少年。
    全く接点が見えなかったものたちの糸が次第に結ばれ絡まり、徐々にほどけて最後に1本の糸となる、そんな社会派ミステリー。

    父が失踪し母が病気で亡くなったあと、伯母のより子一家と暮らすことになった16歳の少年、日下 守。
    守を通して事件は解明されていくのだけど、この物語は単なるミステリーではなくて、守を救済するための物語でもあったんだろうなぁ。
    だって守がいい子すぎなんだもの。本当に聡い子。
    そしてその賢さが彼の過去を通じて身についたものなんだとしたら……
    わたしはなんだか彼の頭を撫でてあげたくなった。

    伯母のより子が、「あんたは強いからね、心配なんだよ。強い人間は独りでいたらいけないんだ。みんな自分で抱えこんじゃう」みたいなことを守に話すんだけど、本当にそうだよ。
    守自身は気づいてないのかもしれないけど、すでに人生を悟ったと思い込むことで、ギリギリのところで立ってるんだろうなと想像せずにはいられなかった。
    守はどうなっていくのだろう、どうすればいいのだろう。そんなことを考えてるうちに、善と悪、過去と現在、そういうものを単純に2つに分けることってできないよねと改めて気づく。
    感情って簡単に割りきれるものじゃない。
    赦すことと赦さないことも然り。
    だから心は揺れ動く。

    わたしにとってこの物語は単なるミステリーでは終わらなくて。守が独りでかかえこんでいた何かから解放される、そんな救いの物語でもあったのだ。

    • 地球っこさん
      insectofbooksさん、はじめまして♪

      「まもるぅぅぅぅ!!!」となりますよね~
      宮部みゆきさんの作品は数えるほどしか読めて...
      insectofbooksさん、はじめまして♪

      「まもるぅぅぅぅ!!!」となりますよね~
      宮部みゆきさんの作品は数えるほどしか読めていませんが、しんどい思いをしてる子どもたちの作品もありますよね。
      でもどの作品のラストも、かすかにでもちゃんと光が見えてくるような物語になっていて、子どもたちへの宮部さんのエールがこめられてるのかなぁと思ってます。

      フォローしてる方にも宮部さんファンは多いので、つい皆さんのレビューから読んだつもりなってたのですが、ぼちぼちこれから読んでいこうかなと思ってたところです。

      insectofbooksさんのレビューも楽しみにしてます。
      どうぞよろしくお願いします(*^^*)
      2021/05/21
    • insectofbooksさん
      ほんとそうですね!かすかに光が見えてくるような物語になっているのがこの作家さんを好きな理由かも…。お読みになっているものもあると思うのですが...
      ほんとそうですね!かすかに光が見えてくるような物語になっているのがこの作家さんを好きな理由かも…。お読みになっているものもあると思うのですが、宮部さんのでブックリスト作ってみます♪ ♪ 地球っこさんも、オススメリストぜひお願いしまーす^_^
      2021/05/21
    • 地球っこさん
      insectofbooksさん、おはようございます。
      ブックリスト楽しみにしてます♪
      わたしはブックリスト、あまり活用できてないなぁ……...
      insectofbooksさん、おはようございます。
      ブックリスト楽しみにしてます♪
      わたしはブックリスト、あまり活用できてないなぁ……f(^_^)
      2021/05/22
  • こんな悲しい境遇の高校生 守くんが立派に成長して行くだけで満足や!
    ( 完璧に親目線^^; )
    まぁ、現実としては、あり得ない設定のように思うけど、読んでる時は実際に起こってる気がする。
    (宮部さんマジック?)
    真相が判明した後のラストも良かった!
    でも、私が主人公なら、
    そんな実体験ないからか?年取って、人間が丸くなったのか…
    「東京は今夜も霧ですね」

    「魔術師の幻想」
    もナシかも?

  • 宮部みゆきさんの小説は起伏に富み読みやすいので、さくさく読めるが、本作も面白くて一気読みした。いろいろなキーワードも複合的に取り入れられていて野心作だったといえるだろう。少々文章に無理をして力みすぎる傾向があるが、若々しくもあり、そこがまた面白い。

  • レベル7の時も思いましたが、宮部みゆきさんは読者をワクワクさせるのが上手いと思います。読み終えるまでペースが落ちないまま、ページをめくることができました。「魔術」と「ささやく」にはそれぞれ2つの意味が含まれていると感じ、いいタイトルだなと思いました。

  • 2023.12.1読了。

    おそらく、初めて宮部みゆきさんの作品を読んだ。
    一度も読んだことがないからと思って、夏の新潮文庫の100冊の時に買っておいたもの。
    平成元年の12月に刊行されたそうなのでちょうど34年前の本。ケータイ電話やスマホが一切出てこないところが今と大きく違うと言えば違うけど、全く違和感なく読めた。
    主人公はつらい環境で育ってきたのにめちゃくちゃ前向きで良い子。色んな登場人物が代わる代わる各々の視点で過去や現在を語りながらラストに向かっていく形で書かれており、先が気になりおもしろかった。

  • 日本推理サスペンス大賞受賞。
    3人の女性たちの死。さらに4人目にもその魔の手が伸びていた…。
    終盤のまで「どんなトリックなんだ?」とワクワクしながら読めたし、主人公の心情の変化がよく分かって趣深い作品だった。宮部みゆきの特徴なのか、少年が成長していく様は読んでいて、引き込まれていくような気がする。
    龍は眠るに若干近い内容かな。
    安定の宮部みゆきでした!

  • 第2回日本推理サスペンス大賞受賞作。ちなみに第1回は受賞作は無しで優秀賞で乃波アサ氏が、続く第3回は高村薫氏が受賞している。このメンバーを見ても解るように新潮社主催で行われていたこの新人賞は現在でも第一線で活躍する作家を多く輩出しており、たった七年という短命な賞であったがその功績は非常に意義高い。
    第1回では大賞無しという結果だったので、実質的に本作が大賞第1作目となるが、その栄誉に恥じない出来である。

    都内各所で起こる女性の3件の自殺事件。一見何の関係もないそれらの死には実はある関係が隠されていることをある女性は知っていた。そして次のターゲットが自分だということも。
    その3つの死の1つ、女性の飛び込み事故で加害者となったタクシー運転手の甥、日下守は微力ながら叔父を助けるべく、独自に事故の調査をしていくうちに真相に近づいていく。

    なんとも足が地についた小説だというのが第一の印象。通常新聞で三行記事として処理される瑣末な女性の自殺事件、そして交通事故。毎日洪水のように報道される数多の情報に埋没されてしまう事件はしかし、当事者には暗い翳を落とすのだ。たとえ事件が解決されても、適切に処理されても被害者、加害者の双方には一生消えない心の傷を残す。そんな誰もがいつ陥ってもおかしくない状況を一般市民の、当事者の視座から宮部氏はしっかりと描く。
    私が感心したのはこの書き方だった。本格ミステリでも事件が起きる。死人も出るし、魔法で成されたとしか思えない不可解な状況での死体も出る。そこに警察が介入し、登場人物は予定を変更され、警察に拘束された毎日を過ごすはめになる。しかしそれらはどこか絵空事の風景としてか捉えることがなく、現実味に乏しかった。なぜなら本格ミステリそのものが読者と作者との知的ゲーム合戦の色合いを持っているからだ。だから読者は「そのとき」が起こった後に及ぼす当事者の状況には忖度しない。犯人と殺害方法が判明し、警察が逮捕されて事件は解決、そこで物語が閉じられるのがほとんどだからだ。

    しかしこの小説は事件は普通によくある交通事故。その事故が及ぼす当事者達の生活への影響などを克明に書く。そのため、作中で起きている状況が読者の仮想体験として感じさせ、現実感が非常に色濃く出ているのだ。
    それに加え、主人公を務める日下守という少年の造形が素晴らしい。幼い頃に父親が失踪―昔流行った言葉で云うならば“蒸発”―し、その影響で亡くなった母親の姉に引き取られることになったという境遇にある。しかも父親は会社の金を持ち逃げしたという噂があり、周囲からは「泥棒の子供」だと揶揄されているという、なんともつらい生活を送っている少年なのだ。が、しかし彼はそんな状況にも負けないタフなハートを持っており、おまけに特殊な特技を持っている。
    ネタバレにならないのでここで書いてしまうが、それは開錠の技術である。「おじいちゃん」から小さい頃に教えてもらった技術だが、これが実に物語に有機的に働く。この技術が日下少年に他人とは違うという自信を持たせ、さらにこれらの不幸な境遇が周囲の子供らよりも一段大人びた性格を持つに至ったという人物設定は非常に頷けるところがあり、もうこの日下少年という主人公だけで、私の中では本書は傑作になると確信していた。

    が、しかしその後物語は私の思惑とは意外な方向に進む。サブリミナル効果はまだしも、催眠術という、眉唾物の技術が本書の大きく覆ってしまうのだ。
    ネタバレになるので詳しくは書かないが、この催眠術の登場で私の本書に対する価値観はぐらついた。前述したように非常に現実感を伴った内容にいきなり飛び込んできたこの異分子は一気に絵空事の領域に物語を持っていってしまったという感慨を抱かせてくれたのだ。
    このギャップが私の中ではとても気持ち悪く、それが故に本書は佳作という評価に落ち着いてしまった。

    確かに作者はこの突飛な技術を読者に納得させるように活用法に工夫を凝らし、詳細に説明を加えて、納得させようとしているが、物が物なだけになかなか現実感を伴って腑に落ちてこなかった。したがってクライマックスに訪れる日下少年の試練もまた深く心に浸透してこなかったのが非常に残念である。
    さて発表から30年近く経ち、科学の発展と共に色んなことが解明され、新事実も発見されているが、果たして今本書を読んで手放しで賞賛できるかといえばそうとは思えない。それはやはりこの小説が備えている前半の現実感と後半の非現実感の乖離ゆえに。

    ただしその一点は致命傷ではないようだ。なぜなら30年経った今なお、本書は版を重ねて出版され、しかも新装版まで出版されているくらいだからだ。つまりは単に好みの問題ということだ。
    『パーフェクト・ブルー』、『我らが隣人の犯罪』と比べてもその出来は数段よいことから、本書から宮部みゆきの今が始まったと云っても過言ではないだろう。

  • 再読。
    若い女性たちの自殺や事故。
    逮捕されたタクシー運転手の甥である守は事件の真相に迫る。

    上手いなあ。
    本当に上手い作家さんだと思う。

  • 一見、何の関係もない3人の女性の自殺と、その真実を巡るストーリー…というあらすじ通りの話かと思いきや、3人目の女性を轢いてしまったタクシー運転手の甥の成長物語だった。
    謎を解き明かす過程はもちろん、本当の結末に至るまでに色々な伏線の回収があって、すごく面白かった。

  • 会社の部下から紹介されて読んでみた。宮部みゆきの初期の作品。冒頭から自殺の新聞記事からは読み取れない第三者の視点が記されており、一気に惹きつけられた。その後も気を抜く箇所がないほどのスピード感あるミステリー。なぜ宮部みゆきが人気かがわかった。

著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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