月の砂漠をさばさばと (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.77
  • (255)
  • (250)
  • (375)
  • (41)
  • (4)
本棚登録 : 2954
感想 : 307
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (173ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101373270

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 文体が軽いので、タイトルの通りさばさばと読み進めてしまいそうになるが、母娘のやり取りをじっくりと読むと、いろいろと示唆に富んでる事に気付かされる。スルメのように、噛めば噛むほど味がある作品。

  • 日常の小さな出来事が集まった素敵な本。
    お母さんと子供の感性が紡がれていくお話です。
    自分にこどもができたらもう一度よみたい本!

  • 読み終わった後、心が暖かくなりました。
    こんな風に子どもと同じ目線でいれる大人になりたいですね。
    眠れない夜読み返すのもおすすめです。
    心が穏やかになります。本当に。
    おーなり由子さんのファンでこの本を買いましたが、北村薫さんのファンにもなりました。優しい穏やかなお話だと思います。

  • たまに大人のダメなとこをさきちゃんがついたりして、どきっとさせられる。この親子の距離感よかったなぁ。読んでいて微笑ましかった。子供と同じ目線でものを見る視点って大事ですね。

  • この物語は一見、童話のようなハートフルストーリーである。お母さんとさきちゃんの何気ない日常会話に、「ほのぼの」感が溢れている。一話完結のストーリーが全部で12編。その中で、さきちゃんの子供らしい純粋な感覚や疑問にお母さんが答えてくれているお話が非常に好きだ。自分が昔さきちゃんと同じように感じたことに対して、答えをもらえたような気持ちになる。

    一番印象的だったストーリーは、「川の蛇口」だ。昔さきちゃんが行った意味不明の行動の意味を知って、お母さんが心の中で呟くシーンがある。

    「子供のやることにも、理屈があるのね。」。
    間違った理屈だったりうまく説明できなかったりといった理由で、馬鹿げた行動にしか映らないことがほとんどだろうが、子供の行動にだって意味はある。誰でも、自分が子供だった時は同じだったはずだ。いろんな知識を得て子供の思考論理から遠く離れてしまった大人は、意味不明な子供の行動の意図を推し量る力を失ってしまっている。理解できないことに対して、その行動自体を意味がないものとして変換してしまう思考回路だ。お母さんも、その例外ではない。

    すれ違いは大人対子供の間だけでなく、大人になってからも起こる。対等な立場でない間で一方的に発生すれば、理不尽な事態が待っているだろう。相手の意図を推し量る力がないとき、自分の理屈をうまく説明できないとき、そもそも聞く耳を持たないとき。理不尽な事態は大人の間でもしばしば発生し、心にダメージを与えてくれる。特に、理路整然と説明しているのにも関わらず、一刀両断で切り捨てられたときの落ち込みは生半可なものではない。

    「でも、あなたの理屈が見えないことは、これからだって、きっとある。」
    「そちらから、こちらが見えないことも。」「いい悪いではなくて、そういうものよね。」

    続くお母さんの呟きは、そんな未来の暗示と励ましだ。いろんな人との出会いを重ねると、自分に近い感覚の人に出会えることは滅多にないことがわかってくる。自分が当然だろうと思っても、相手にとっては全く思いもしないことや理解しがたいことだったりするケースが、日常的に起こる。一方自分も、大人になればなるほど自分の視野が狭くなり、相手を受け入れにくくなる。逆に、自分が受け入れられなかった時のダメージは大きくなり、ひとりよがりの傾向が強くなる気がする。

    正しく状況を理解されず、誤解されて悔しいこともある。でもそれは、「いつかわかってもらえる」のではなく、「そういうもの」だ。不器用にコツコツと生きていく人ほど、理不尽な事態が許せない。でもそれは、世間では当たり前すぎることなのだ。相手の理解を得られずにつまづいても、そんな思いを感じているのは自分だけではない。自分が不甲斐ないからでもないし、みんな日々直面していくことなのだ。自明すぎて耳にすることもない事実だと思うが、この一節を読んで、言ってもらいたかった言葉をかけてもらえたように心がすっと楽になったのを覚えている。

    同じような感覚は、「さそりの井戸」でも感じた。
    命の危機に直面したさそりが、どうせ死ぬなら誰かに食べられて役に立ちたいと願う。でも、いざ捕食動物の前に置かれたら、喜んで死を迎えるだろうか。いや、逃げようとするだろう。でも、それは先に願った内容と矛盾する。生きようとすることは、本能だからだ。醜い本能は、時に善悪のモラルとの間で自分を苦しめる。

    「そうしたら、神様は、さそりのこと、≪嘘つきだ≫って怒るのかな」
    「ー怒らないよ」

    一般に、嘘をつくことは悪いことだ。その理屈から言えば、逃げようとしたさそりは嘘つきで悪を犯したことになる。お母さんの「ー怒らないよ」に込められた思いをうまく表現できないが、善悪の理屈では単純に割り切れないことが人生にはたくさんあることを伝えてくれているように感じる。

    順風満帆に行かない事態に直面したとき、この物語でお母さんが読み手にかけてくれる言葉は温かい励ましに満ちている。成長を重ね当たり障りのない言葉しか交わされなくなっていくにつれ、裏表のない端的なエールが、どれほど心強く感じることだろう。「あなたのことはとっても可愛い」。お母さんの大切な存在であるさきちゃんに向けられた言葉だからこそ、その言葉に真実味と温かさがより強く感じられる気がする。

  • 2015/12/1 読了

  • さきちゃんと話を書く仕事をしているお母さんとの日常を綴った12話の短編集。母と子の繋がりや日常の幸せやせつなさがひしひしと伝わってくる。読者にはお父さんとの関係は知らされていないけれども、苗字などの話からなんとなく想像できる。日常の至福に気付いてもっと大切に、子供が後から思い出してくれるように、と思わせてくれるお話でした。
    彼の作品を読むのは実は初めてだったけど、とても好きな文体だったから、他の作品を読むのが楽しみ。

  • なんで読もうと思ったか忘れてしまった
    なんか読み取れなかった裏があるのかな

  • ほっこり、だけど、本質を突いたことばたち。何度でも読みたくなります。

  • 童話?でも大人向けかな。母と子の会話中心で、北村薫の他の小説を知っていると、すこし物足りない気もしてしまう。

全307件中 131 - 140件を表示

著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北村薫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×