クリスマス・キャロル (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102030097

感想・レビュー・書評

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  • 作品の感想は岩波少年文庫版の方に書いたので、ここでは主に翻訳について記す。

    新潮文庫版の翻訳は歴史がある。1952年に村岡花子によって訳されたもので、当初は『クリスマス・カロル』と表記されていた。村岡花子は『赤毛のアン』の邦訳で知られる翻訳者で、モンゴメリをはじめディケンズやマーク・トウェインなどの邦訳も数多く手がけた英米児童文学翻訳の大家である。村岡花子の『クリスマス・カロル』は、その後、彼女の孫にあたる村岡美枝・恵理姉妹により2011年に改訂がなされ、現在のバージョンになった。

    由緒あるバージョンであるだけに、2011年の改訂版でも訳文はかなり古風である。難訳というわけではないので、近代文学を読みなれた人は気にならないと思うが、平成生まれの人には単語レベルで通じないのではと思われる箇所もある。例を挙げると、「欲張り爺さん」を「我利我利爺(がりがりじい)」と訳していたり、「マッシュポテト」を「つぶし馬鈴薯(ばれいしょ)」と訳していたりする。

    なので、ディケンズに初挑戦する人には、現代の口語文に近い文体の岩波少年文庫版の方が、抵抗感がなくて読みやすいかもしれない。逆に、古典的風格を訳文にも求める年季の入った読書家の人には、新潮文庫版が適していると思う。さらにいうと、複数の翻訳がある海外文学を選ぶ時、翻訳者の名前を逐一チェックする習慣のある読書狂の人(シェイクスピアは福田恆存じゃなきゃイヤとか言う人)には、村岡花子バージョンは間違いなく「買い」である。

    新潮文庫版のもうひとつの利点として、訳注が多いことがあげられる。この作品は主題からしてキリスト教の影響下にあり、聖書に関連する表現が多く出てくる。19世紀イギリス内外の事情を知らないと意味がわからない部分もある。児童書である岩波少年文庫の訳はとても読みやすいのだが、残念なことに訳注がついていない。

    もちろん、細部がわからなくても物語を楽しむのに支障はない。ただ、子供を持つ親なら、子供が「これ、どういう意味?」と聞いてきたとき、きちんと答えてあげたいと思うところだろう。しかも私の憶測によると、子供にディケンズを薦めるタイプの親には、「パパ(ママ)にもわからないなぁ」とは言いたくない見栄っぱりが多いはずだ。新潮文庫版の訳注は、そんな負けず嫌いの親のために、ささやかなアンチョコとして役立ってくれるだろう。

    天国の村岡花子女史からは「親がそんなことでどうする! 勉強しなさい!」と叱られるかもしれないが。

    • nazunaさん
      はじめまして。シェイクスピアは福田恆存じゃなくちゃ、という一文に想わず苦笑いしてしまいました。そうなんです。私もそんな世代。しかしながら、松...
      はじめまして。シェイクスピアは福田恆存じゃなくちゃ、という一文に想わず苦笑いしてしまいました。そうなんです。私もそんな世代。しかしながら、松岡和子さんの翻訳を読んだことで、考えが変わりました。同時に、翻訳者違いで再読するという楽しみが増えました。
      2022/03/18
    • nazunaさん
      前後いたしましたが、フォローをありがとうございました。行き当たりばったりの本好きで、佐藤さんが書かれる感想にただただ感動しております。翻って...
      前後いたしましたが、フォローをありがとうございました。行き当たりばったりの本好きで、佐藤さんが書かれる感想にただただ感動しております。翻って我が本棚はと言えばお恥ずかしい限りですが、ご縁を頂きましたことに感謝しつつ、これからも宜しくお願いいたします。
      2022/03/18
    • 佐藤史緒さん
      nazunaさん こんにちは、
      フォローありがとうございます。
      こちらこそご挨拶もなく失礼いたしました。
      デジタルネイティブ世代とは違...
      nazunaさん こんにちは、
      フォローありがとうございます。
      こちらこそご挨拶もなく失礼いたしました。
      デジタルネイティブ世代とは違って、更新もコメントへの返信もスローペースの「ぼっち系気まぐれ本棚」ですが、スローペースなりにご縁は大切にしております。
      どうぞお付き合いくださいませ!
      nazunaさんの本棚も拝見しました、おもしろそうな本が沢山あるので、これから少しずつお邪魔させて頂こうと思います。
      宜しくおねがいします╰(*´︶`*)╯♡
      2022/03/19
  • キリスト教徒でもないのにどうしてクリスマスをやる必要があるのかと思っていた自分に喝!笑

    人々が互いの幸せを祈って挨拶を交わしたり贈り物を交換し合ったりするクリスマス。
    ああ、なんて素敵な日なんでしょう。
    キリスト教徒じゃないからといってクリスマスを祝福しないなんてもったいない。
    大切な人といかに素敵な日を演出するか、
    そういった計画や準備をして語らいながら食事をする時間はきっと最高の思い出となって家族や隣人との絆を深めることでしょう。
    私は日本人でキリスト教徒ではないから、クリスマスにこだわる必要はないけれど、それでも今年はこだわってみようと思います!

    素敵な物語を150年以上前にプレゼントしてくれたディケンズさんに感謝です(^^)

  • とっても素敵な話でした!
    クリスマスに毎年読みたい作品。
    スクルージが改心に近づくにつれて、気持ちも温かくなり、キラキラした感覚に襲われます。
    クリスマスは別け隔てなく人々を幸福にする。
    世界的に愛されている、クリスマス。
    その理由が詰まってます。
    昨今では、プレゼント目当てのクリスマスなんてのもありますが、それは本当のクリスマスじゃないかも…と疑うほど、この本は「大切な人と大切な一日を!」ということを訴えているようにも思います。

  • まさにクリスマスブック。
    ストレートなメッセージに、素直に感動。
    変わる前のスクルージも嫌いじゃない。
    裏表のある人より、ぜんぜん好い。
    ナイトキャップをかぶって時間旅行する姿が可愛すぎる。

  • 子どもの頃読んだ物語を大人になってから改めて読み直すと、登場人物への印象が変わったり、物語を通じて新たな発見や気付きがあったり…。
    …なんてことよくあると思います。自分にとってこの「クリスマス・キャロル」は、まさにそんな一冊でした。

    過去の苦しみやつらい経験もその全てが、人生の幸せを見つける為の鍵になるかもしれません。自分の人生に振り返る部分が増えてきたと感じた時に、一度、もしくは改めてこの本を手に取ってみてはいかがでしょうか。

    「メリー・クリスマス」の言葉がこの小説から生まれたのを知ったのは大人になってからですが、それ以来この言葉を誰かに伝えるとちょっぴり幸せな気分になれるのです。それはディケンズからの贈り物なのかもしれませんね。

  • 安定感のある、王道をいく物語でしょうか。最後にちゃんと読者に安心感を与えてくれるので、読み手はしっかりと物語の世界から帰ってくることができます。それがこの物語の心地良い読後感となり、心に残ります。私が読んだのは1952年版の『クリスマスカロル』でしたが、新装版では翻訳も少し変わるのでしょうか?少し比喩表現が分かりづらいと感じる部分がありました。後半は映画を見ているかのような流れを感じ、映像が心に残りました。

  • 傲慢でケチなスクルージ老人が、クリスマスの幽霊に導かれることで心を入れ替える。
    発表された1840年代だって、2020年代だって、人間の本質は変わらない。
    いつだって変わりたいと望む一方で、変わるきっかけはつかめない。
    クリスマスという特別な日をきっかけに変化を遂げるスクルージ老人の姿は、ひとつ、わたしたちの背中を押してくれるようなそんな気持ちにさせてくれる。
    子供が読んでも、大人が読んでも素晴らしい読後感。
    ディケンズが描く、心の底から暖かいクリスマス。

  • 季節外れながら、定番の古典を思い出しつつ読了。ディケンズらしい、ヴィクトリア朝の慈善的価値観が堪能できる小品。
    訳が「村岡花子」とあったので読みにくいの覚悟で読み始めたのだが、ほどよい時代感を残した読みやすさだったので、こんなに新しい感じ??と不思議に思った。巻末にあった説明で謎が解けたのだが、村岡花子の訳をベースに、現代にあった訳に手直しがされているそうだ。全くの新訳も良いかもしれないが、ヴィクトリア朝の人々を直接知っていた村岡花子の訳のエッセンスが残っている文章が心地よかった。
    ストーリーとしては、スクルージの改心が早すぎると感じる向きもあると思う。しかしこの本は待降節の暗い夜に子どもと読むための話であって、長大で複雑な過程を楽しむというタイプの話ではないのでこれでよいのだ。メリークリスマス!(季節外れ)

  • 人間の疑惑、絶望、希望、愛について、クリスマスを話題にして通して書かれた老人の物語。

  • 過去・現在・未来のクリスマスの精霊による旅を経て、生まれ変わる人間の物語。心が笑っている、という表現が良かったな。

著者プロフィール

1800年代を代表するイギリスの小説家。おもに下層階級を主人公とし、弱者の視点で社会を諷刺した作品を発表した。新聞記者を務めながら小説を発表し、英国の国民作家とも評されている。『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』『デイヴィッド・コパフィールド』『二都物語』『大いなる遺産』などは、現在でも度々映画化されており、児童書の発行部数でも、複数の作品が世界的なランキングで上位にランクされている。

「2020年 『クリスマス・キャロル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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