怒りの葡萄(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102101100

感想・レビュー・書評

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  • ノーベル文学賞作家ジョン・スタインベックの名作。土地を追われたジョード一族が、安住の地を求めて移動する物語であるが、行く先先で災難に襲われてしまい、どこまで行っても救いがない。最後には、まさかロザシャーンが死産となってしまうとは。個個の登場人物の心までは荒んでいないことが唯一の明るい要素で、ラスト・シーンもそれを反映したものとなっているし、またまさに「肝っ玉母さん」と呼ぶにふさわしい、「お母」の一本筋が通った堂堂とした生きかたには感動すら覚える。しかしその前向きさが救いようのなさを余計に際立たせており、読者をよりやるせない気持にさせる。さらに絶望的なのは、この物語が決して単なるフィクションでも、この時代に限った話でもないということである。「下層」の人人が大資本に土地を追われ、あるいはいいように扱われるというのは、現在でも世界中で普遍的に見られる現象である。日本においても例外ではなく、たとえば跋扈するブラック企業のことを考えればよくわかるだろう。このような世界を見事に描いているため、現在まで読み継がれていることにも納得である。一方で、このような読み方もできる。主人公たちは「絆」を重んじるなど懸命に生きているが、みんなどこか自己中心的な部分も持ち合わせている。そもそもトムはカリフォルニア州から出ては行けないのに、無視して勝手に移動してしまっている。あれだけ「強い」お母も、このことでは謗りを免れないだろう。このような人物「だからこそ」、こういう目に遭っているという見方もできないか。そして、このような見方こそがまさに、現代社会で「上層」に立つ人間が「下層」にいる人間に向けている視線と同じだろう。これら二つの読み方いずれを取っても今日でも通用するといえ、やはり名作であると強く実感させられる。

  • 読み継がれている名作でありますから、いろいろの示唆があるんですね。

    ある家族の生きざまを通して、人間社会の仕組みに翻弄され、艱難刻苦に向わせられ、なお襲い掛かる天災災害の非情なる仕打ちにどうするのか!というようなすごい物語のように思われるのだが、読めば読むほど、この家族それぞれの身勝手さは腹立たしいほどで、精神性の崇高さを感じれば感じるほど、人間の生態の愚かしさもくっきりと浮き上がってくるのが面白い。

    まず、「お母」が家族集団13人の中心なのはわかる。しかし、殺人を犯し、刑務所から仮出所のトムという次男もしょうがないが、まあ骨がある。おじいさんおばあさんは旅の難儀さに死んでしまい。はかなげな長男は何考えてるのか、旅の途中で行方不明に(家族はあきらめてしまうのだ!)、長女(16)は若くして結婚、ふたりとも夢る夢子さんで妊娠中に夫に逃げられてしまう。三男は浮気性でふらふらしているし、次女(12)と四男(10)はいたずら盛りで手に負えない、「お父」は空威張りの他人ごと、「お父」の兄ジョンはアル中の役立たず、おまけに元「説教師」の他人も加わって、それぞれが勝手なことを言い、やってしまって艱難辛苦の旅を余計に複雑にさせる。「なんでそこでそれをやってしまうのぉ~!!」と「お母」の気持ちに感情移入してしまうが、「大丈夫だよ、なんとかするから」と、おおらかなのか!?偉大なのか!?その「お母」が何とかしてしまうのが、おかしいようなほっとする救いのような、そんな読み方もいいかなと。この頃の、いや、ずっとそうだったけど、我が家族集団でもそんなふうなんだよね。

  • やはり名作はスゴい!実地調査に基づくルポルタージュ的内容を、出エジプト記を思わせる壮大な小説にまとめるという筆力に圧倒されました。聖書を思わせる逸話もちりばめられ、人類愛につながるラストに涙が止まりませんでした。

  • 人が幸せになるために必要なものは、きっとそんなに多くない。

    「まっとうな暮らしをして、子供たちをまっとうに育てたいと思っとる。そして、年老いたら戸口に座って、沈む夕日を眺めたいと思っとる。若い頃には、踊り、歌い、男女の契りを結びたいと思っとる。食べ、酒を飲み、働きたいと思っとる。それだけなんだ。疲れるまで力仕事をすることだけが望みなんだ」

    人間の幸せって、本来こういうものなんじゃないのか。そう強く思う場面が随所に散りばめられ、何気無い言葉一つに深い共感を覚える作品でした。魅力的なキャラクター達が多く、彼らの生きているこの物語を少しでも長く読んでいたくなり、終わってしまうのがとても寂しかったです。終わり方も決してハッピーエンドではないのに、感じたのは悲しさではなく、まさしく帯に書かれていた「人間讃歌」という言葉がぴったり合う、そんなラストでした。素晴らしかったです。何度も読み返すと思います。

  • やはり名作だと言われるだけのことはある、珠玉のロードノベルであるとともに家族小説である。
    下層労働者の家族の生き様を通じて、なんと色々な事を教えてくれる小説であることか、ぶるーす・スプリングスティーンが本作を絶賛していると聞いた事があるが、むべなるかな。この小説の重要テーマに共感するからこそ、彼の音楽が詩があるんだと、非常によく分かる。

    アメリカ人のライフスタイルを構築する一つの指標なんだろうなぁ。ロシア人がこれを書くと「罪と罰」になり、フランス人が書くと「レ・ミゼラブル」になり、日本人が書くと「蟹工船」になる。

    そして、オーストラリア人が撮ると「マッドマックス」になるんやなぁ。「怒りのデスロード」は間違いなく、この作品のオマージュだと思う。

    古い作品だからと躊躇しなくもなかったが、ロードノベルの名作と聞いて…本当に読んで良かった

  • 世界恐慌真っ定中のアメリカをジョード一家と言う人家族に焦点を当てた、苦境を切り抜けようとする情愛深い家族の物語だった。苦境を切り抜けるのに愛と知恵と勇気が大切であるのは、太古からの物語の主題として変わらない。また彼らは常に、家、土地、仕事というアメリカンドリームを追い求め続けた。
    また働くことの尊さも教えてくれた。
    人間に最後に残された確かな機能-働くことを渇望する肉体と、一人の人間の入用を超えて作ることを渇望する頭脳こそが人間である所以なのだと。
    とりあえずお母さんと、伝道師ケイシーの紡言葉一つ一つが好きでたまらん!!

  • カリフォルニアの綺麗な白い家で家族で暮らそうと夢見たお母。カリフォルニアに着いてからの日々はそれとはかけ離れていた。フルーツピッキングや綿摘みも季節労働だから仕事が無い時は本当に何もない。それでも食べていかなくてはいけない。妊娠中の家族もいる。そのうち離れてゆく家族もいる。いつだって一家の中心で踏ん張るお母が大好きになる。
    オクラホマからカリフォルニアまでの自然の描写や家族の結びつきの描写、どれもが目のまえに浮かんで「踏ん張れ!頑張れ!」と思いながら読んだ。

  • 題名は知っていたけど、こんなに面白い本だったんだ。もっともっと前に読めば良かった!

  • この直前にオーウェル「一九八四」、アトウッド「侍女の物語」を読了した所だったので、今回はやっとディストピア路線から逃れられると読み始めたのだが、スタートからのヤバイ予感は的中してしまった。
    「一九八四」「侍女の物語」が"社会主義的ディストピア"とすれば、当作品は"資本主義的ディストピア"といえるのかもしれない。

    現代的便利さや合理性が、人の気持ちや温もりを踏みにじる装置になりうることも示唆されている。

    世界恐慌という時代に否が応でも経済は困窮し、家族は離散し、人としての尊厳すら奪われていく。この困難に敢然と立ち向かう「お母」の姿、心意気が極めて男前で頼もしい。
    抜け道のない閉塞感の中、最後は命を慈しむ気持ちでいっぱいになった。

  • この物語で、魂が震えない、感情が揺さぶられないような男にはなりたくない。
    善良すぎる。あかん泣きそう。

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