ロリータ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (623ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102105023

感想・レビュー・書評

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  • 何度読み返しても終わらない。実際何度読んだことだろう。読めば読むほど、まだ読み終えていないという気にさせられる。前に読んだときはここを読み飛ばしていたな、とか、こんな言葉があることに今まで気がつかなかった、などという気にさせられるのである。ナボコフはその『ヨーロッパ文学講義』の中で「読書とは再読のことである」と語っているが、読者を再読に誘い込む手ぎわにおいて、ナボコフをこえる物書きはいないのではないだろうか。

    なるほど、「ナボコフにはまる」とはこういうことなのか。名うての読み巧者が、次々と餌食になるナボコフの小説。何が他の作家の書くものとちがうのか。怖いもの見たさで『ロリータ』を読み終えたときは、ふうん、これが、という感じだった。文章、特に細部を忽せにしない描写の緻密さには感心したが、ストーリー展開も自然で、むしろその分かりやすさに違和感を覚えたくらいだ。

    ところが、である。いつものようにあらすじをまとめ、主題と思われるものや、主人公ハンバートの行状について何事かを述べてみても、いっこうに『ロリータ』という小説について語っているという気がしてこない。旨い魚を食べたのに、それを紹介しようと筆をとったら紙の上に現れたのは骨ばかりという具合だ。

    そこで、もう一度読んでみた。訳注は再読時に読むことという「ただし書き」がついていたが、まさにその通りで、通常なら初読時の理解を助けるためにあるはずの注が、再読時のために書かれているではないか。実は、『ロリータ』については既に研究者によって詳細な解説書が出ている。訳者による注は、それと重ならないように独自に設けられたものである。訳注を頼りに何度もページを繰りながら読み進めるうちに、次から次へと気になる箇所が現れてくる。

    伏線というか、ほのめかしというか、ストーリー展開上、重要と思える事件に関する情報が此処や彼処にまき散らされているのに、初めて読むときに、ほとんど読み飛ばしていたのは驚いた。話者で主人公のハンバート・ハンバートは、自身や他の登場人物について言及するときも、フランス語の慣用句を濫用するなど極度に自意識過剰で、饒舌であるばかりでなく、度々人物の呼称を替えたり、余分な注釈を加えたりと、逸脱を繰り返す。はじめての読者は、いちいちつきあっていられず、主筋に関わると思われる箇所以外は読み飛ばしてしまうからだ。

    それだけではない。本来ナボコフが持つ明晰、直截、論理的な文体にまじって、ポオを下敷きにした幼年時を回想する感傷的でロマンティックな文体、雑誌や新聞の広告、観光パンフレット等様々な非小説形式のもじり、ポピュラー音楽の歌詞のパロディ、フロイト学派を揶揄するような精神分析学特有の用語を用いた論文風文体と、速度や強度の異なるありとある文体が繰り出される文体見本のような小説に読者は眩惑されてしまうのだ。

    全編にばらまかれた謎や仕掛け、言葉遊びに唆されるようにして、何度も本文に立ち戻るうち、読者はそうした知的な快楽とは別に、ナボコフが周到に用意した何気ない情景が、忘れられなくなるという経験を持つ。たとえば、断崖の下、谷間の小さな村から響いてくる子どもたちの遊び声を聞きながら自分のそばにロリータがいないことではなく、その中に彼女の声が混じっていないことを悲しむハンバートの姿。

    本当のドロレス(ロリータ)ではなく、自分の幻想のロリータを愛していたはずの主人公が、幻想を愛していたつもりで、いつの間にか真実のロリータ(ドロレス)を愛していたことに気づく、主題に深く関わるこの重要な場面が谷間の小さな炭坑町から響いてくる音で表象されるこの場面だけでなく、全編を通じて、ささやかな何気ない場面が鮮明で詩情に溢れ、深く印象に残る。読者はそうした細部をためつすがめつ味わうことを愉しみながら読み進めていく。

    数えられないほどに分かれたパズルのピースを正しく組んでいくことで成立するのが『ロリータ』という小説なのだ。それは、他では滅多に味わえない種類の快楽を経験することである。『ロリータ』によって小説を読む愉しさを知らされた読者は、何度でも何度でも小説の中に立ち戻るだろう。もし、それを中毒と呼ぶなら、『ロリータ』には、他の凡百の小説にはない、猛烈な毒が含まれているといえるだろう。しかし、なんと甘美な毒であることか。「ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ」。

  • ロリータがとてもエロかった。
    以上。

    という感じで纏めてしまいたいくらい、掴みどころが無い気がした。ロリータを求めるハンバートハンバートの気持ちもわからなくはないんだけど、多分この小説の面白さは、記述の文体やら織り込まれた当時のアメリカの風俗の細やかさなどにもかかっているような気がする。説明が難しい。読んでいるのは面白かったから、興味がある人は一読したほうがいいと思った。

  • (わたしにもっと文学的教養があればナボコフの言葉遊びとかもっと楽しめたかもしれないのに...)

    「ロリコン」という言葉が一人歩きして語源であるはずのこの本はあまり知られてなくて、
    ハンバートの愛はやはり病的かつ変態的だけど不思議と嫌悪感は(個人的には)あまり感じなくって、
    てゆうか愛なんてぜんぶつきつめればこんなもんなんじゃないの?ってゆう...

    と思ったからみんなも偏見持たずに読んでみてほしいな!
    って気軽に言うにはボリュームありすぎるこの本~~~~~

  • 性的趣向を表す言葉の中には小説を元にしたものとして、「サド」が有名だけど、このロリータも然り。

    以前の日本語訳は半世紀以上前に出版されたものだそうで、「ロリータ」という言葉の持つ現代的なイメージとは異なり、古典とまではいかなくとも私としては時代を感じる小説。

    物語の主人公ハンバートは打算的で狡猾な面がある人物で、少女に対する自身の極端な趣向を隠すため、妥協から妻をめとるが、米国への移住費を目前に、妻をロシア人の大佐に寝取られる。渡米後の彼、どうでもいい紆余曲折を経て、とある夫人宅への居候話が持ち上がる。
    掃除の行き届かない、設備の古い家を見て、彼は辞去のタイミングを図っていたが、女主人に庭を案内される。そこにいた女主人の娘こそが物語の題となる「ロリータ」だった。少年期に思いを遂げられなかった初恋の少女の面影をロリータに見出だした彼は、ふしだらな欲望から、間借りして住むことを決意する…


    彼の回顧録の形を取って物語は進むが、この男、自意識過剰の上に非常に気持ちが悪い。作者の言葉遊びや過剰とも言える表現がその気持ち悪さを一層際立たせる。そこにはもうエロスというロマンでもなく、ただ一人の男の少女に対する執念以外の何物でもない。愛でもなく、性欲の捌け口の対象としか感じられない。

    読みながら思い出した耽美派・谷崎潤一郎の「老人諷転日記」と引き比べてみると、谷崎はエロスはあってもそこにはそこはかとなく知性を感じるほど。あの老人は判断力のない少女を欲の対象にしたわけでなく、成熟した女に欲望を抱いただけで、それがたまたま息子の妻だったというだけの、しごく全うな人物に思えてくる。この主人公は読み手におぞましい嫌悪感を与えるほどである。
    ただし最後の方では、彼のロリータへの感情は、「ロリータコンプレックス」ではなくて、実は純粋な愛情だったのかも、と思える部分も。
    度を超えた純愛、ということでまとめておこうかと思う。


    読解には英語版を読む必要があるのかも。作者の言葉遊びと、文中で多用される仏語の素養もあったら尚良いのだろうけど、1度読んだらおなかいっぱいの一冊なので、原本を読むことはないでしょう。

  • ハンバート・ハンバートが出逢ったロリータ=ドロレス・ヘイズ、当時12歳。「かよわくて、蜂蜜色をした肩、絹のようになめらかなあらわになった背中、栗毛色をした髪」。肩胛骨、鎖骨、生毛、着ている服装、巻き毛等、所謂思春期的体型の描写は詳細だが、顔の描写となるとひどく曖昧(初めての出逢いでは黒いサングラスをしている/美少女ではないらしい、そばかすがある)。ハンバートの手記の登場人物達は仮名だがこのロリータの「顔の曖昧さ」は特に匿名性を際立たせている様に思う。ハンバートが「魅惑的にして狡猾」な性格に魅了される「ニンフェット愛」の年齢(9歳~14歳)を過ぎたロリータの描写で瞳がグレイ、炭のような睫毛なのがわかる具合。ロリータのイメージは顔を隠した、若しくは顔のない、例えば後ろ姿やポーズしか思い浮かばない。ロリータ=ドロレス・ヘイズの人形はワタシには作れないと思った。ナボコフの『ロリータ』は至る所に言葉遊びと謎を仕掛けていてとてもおもしろかったが、ハンバートがニンフェット期を過ぎてもひたすらに愛した「ロリータ」には残念ながら魅力を感じなかった。

  • あいにくなことに日本では「ロリコン」の語源として有名な本書。多分に誤解されていると思うのですが…。
    知的で滑稽で、でもやがて切ない、そんな小説です。
    生理的に受け付けないというのでなければ、女性でも堪能できます。
    小説の冒頭で触れられるように、主人公は最後は逮捕されて死ぬので、ちゃんと報いを受けるわけですし。
    2、3年前に原書で読んでいたのですが、今回新訳で再読しました。

    訳者もあとがきで書いている通り、色々な読み方が可能です。

    主人公ハンバートの一人称の語りなので、少女好きの変態ハンバートの目線で見ることを強いられるようですが、「ハンバートは自分に酔っているけど読者には滑稽(あるいはおぞましい)」場面や、「ハンバートはさらっと流しているけど読者にはロリータの苦しみが悲しい」場面もあって、著者とハンバートの間には結構距離が感じられるので、主人公に感情移入しなくても大丈夫。
    個人的には、それでもふっとハンバートに流されて彼目線になっているときがあって、そこに突然彼の醜さを見せ付けられて平手打ちを食らったような気分になったりするのがまた印象的でした。

    最後の方はかなり切ないです。だからといって、「ハンバートの純愛物語」とは私は思わないんですが、でも切ない。

    題材からエロティックなイメージをもたれる小説だと思うし、ロリータの「杏色の」肌やうぶ毛の描写なんかにある種のエロティシズムがあるんでしょうが、女の私としては特になんとも思いませんでした。
    性的な言及があっても「うわ、ハンバート気持ち悪いって(笑)」「興奮しすぎだって(笑)」「ロリータ可哀相だろ…」という、滑稽か痛いかの感情しかわきませんでした。エロを求めて読むときっとがっかりです。

    ハンバートのヨーロッパ的流麗な語りと下品なジョークの落差、ロリータのローティーンらしい話し方との落差というのも面白さのうちだと思うのですが、今回の若島訳はその辺とてもわかりやすかったです。原書ではロリータの若者言葉は”swell”とかなので、なんだかピンときてなかったのですが、ロリータはかなり「子供」なんですよね。なにしろ初登場時12歳だし。

    言葉遊びや、他の文学作品への言及、引用もふんだんにあって、それが以前読んだときは「きっと何か元ネタがあるんだろうけどわからん」というフラストレーションになったりもしたのですが、今回親切な注釈で教えていただいてかなりすっきり。すべてを注で説明しているわけではないと思いますが、訳と原書を見比べることでポイントがわかった部分もあったりして、大分助けられました。ロリータには英語の原書のほかに、ナボコフ自身が訳したロシア語版というのもあって、若島氏はそちらにも当たっているらしく、素人が英語を読むよりよっぽど著者の意図が伝わる訳になっているのかなと思う部分もありました。時に注すら暗示的なときもあって(guilty of killing Quiltyのところとか)、なんとか読者に自分で考えさせようと苦心されてるんだなあとも思いました。

    訳者も書いておられるように、再読に再読を重ねて、書き込まれた細部の意味を考えたおしてこその小説という感じ。今回訳を読みつつ飛ばし読みで原書も見返したりしていたんですが、親切で愛のある注や訳に助けられて、改めて原書の再読もきちんとしたくなりました。
    以前に原書で、あるいは旧訳で読んだけどピンと来なかったよ?という人にもおすすめ。ただし初読の方は注釈は最後に読みましょうね。

    • cerisaieさん
      マツオタイチさん、コメント・お気に入り登録ありがとうございます!停電等でちょっとバタバタしていて(関東在住で被災はしていません)気づくのが遅...
      マツオタイチさん、コメント・お気に入り登録ありがとうございます!停電等でちょっとバタバタしていて(関東在住で被災はしていません)気づくのが遅れてしまいまってすみません。

      とても人様にお見せするような文章ではないのですが、ご自分の文章に似ているとおっしゃっていただいて光栄です。

      まだあまりゆっくり本棚を拝見できていませんが、こちらからもフォローさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
      2011/03/25
  • 途中まで読んで、ただの変態おやじの話か。と思いますが、最後まで読むと純愛です。
    原文ではポエティックで素敵な表現が満載らしひ。

  • ここまで狂っていたとは。ただの小児愛変態ものだと思っていたら、完全なるポストモダン的実験文学の先駆けであった。後書きを読んで注釈を読み込んで、また一から読みたい作品である。

  • 未来の世代へ慧眼を持って本書を届けると言う著者の意志を感じた。

  • 映画とはだいぶ印象が違う。話がおもしろいというより文体が好きだ

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著者プロフィール

1899年ペテルブルク生まれ。ベルリン亡命後、1940年アメリカに移住し、英語による執筆を始める。55年『ロリータ』が世界的ベストセラー。ほかに『賜物』(52)、『アーダ』(69)など。77年没。。

「2022年 『ディフェンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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