- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103054566
感想・レビュー・書評
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情報は一過性だ。騒いでおしまい。そして繰り返される。
表題「『鬼畜』の家 我が子を殺す親たち」に怖気づくが手に取る。
事件の背景にあったものの本質を筆者である石井さんは丹念な取材や関係者へのインタビューにより、明らかにする。
以下の2014年前後に起こった事件に関するルポルタージュである。
・厚木市幼児餓死白骨化事件
・下田市嬰児連続殺害事件
・足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件
その後も松戸市や目黒区でも胸が塞ぐ虐待死事件が立て続けに起こっていることが記憶に新しい。
ワイドショーやニュースショー化したメディアはこれらはすべて「鬼畜のような」親のなせる悪行と眉間にしわを寄せ、最大級の慈悲を示し、世間の同調を煽る。
しかし、取材した石井さんの感覚としては、どの親たちも一様に「子どもを愛していた」と明言する。
本文より引用:
しかし、直に加害者である親に話を聞くと、彼らはそろって子どもへのゆるぎない愛情を口にする。子供は自分にとって宝だ、親心を持って手塩にかけて育ててきた、家族はみんな幸せだった、というのだ。
中略)
彼らの中にも子どもを思う気持ちはあったのだ。
ーーー愛していたけど、殺してしまいました。
ただし、「愛していた」には、もう一言つけ加えられる。「私なりに」---。(P.4)
以上、抜粋。
子どもを産んでも、生殖ができても、それは子どもを養育できる「親」と同義ではない。
問題事項としては
・想像力や共感性の欠如
・強い衝動性と、将来への計画性の欠如
・理性や知性の欠落
・社会的資源の不足
(困ったときに助けてくれる人や組織へのパイプ)
精神疾患、発達やパーソナリティの障害により、目にはわかりにくいがこうした問題が浮き彫りとなる。
愛し方がわからない。
生活の仕方がわからない。
助けが必要だと自分で気づけない。
助けの求め方がわからない。
お金の使い方がわからない。
こうした基本的な困難は「悩み事」と一括せずに、細分化して誰にでもありうることという共有が社会で必要なのではないか。
「困っている本人」は意外にも自分が「何にどう困っているか」混乱して言語化できないものだ。
そろそろ「母性神話」に頼らずに、一定数の人間が子供の養育には相応しくないということを受け容れ、できるだけ早期に社会で子どもたちを育むことに舵を切っていかなければならないと痛切に感じる。
虐待やネグレクトは決して「鬼畜のなせる業」ではなく、
子ども自身ではどうにも解決のしようのない成育環境等から子どもを守るそんな社会に少しずつでも変わるために重要な1冊だと感じた。
でもどうするかは単純にはいかないのだよなあ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
結局、自身が生まれた育った環境が全てだと思う。本書に出てくる親たち自身、いずれも虐待や正常な育児をされずに育っていた。家族を作る前に”正常な”家族のカタチを知らなかった。
家族のあり方や子育ては、自身が受けたこと以上の施しを子どもに与えることは難しいのではないか。彼や彼女らは自分たちの行いが異常なことと認識していない。”自分たちはしっかり育児をしていた”と正当化している。これ以上、本書で取り上げられているような悲惨な虐待を発生させないためには、”今”虐待や育児放棄を行なっている家庭を一つでも減らし、負の連鎖を断ち切る必要があると感じた。 -
重い重いノンフィクションだった。
いつもながら、著者の取材力に感心する。
テレビ、新聞などで事件を知る時、信じられない親だな、鬼畜だなと思う。しかし、深く考えることなく過ごしていると、また同じような事件が起こる。
「鬼畜」であることは確かにしても、その親たちの生育環境はひどすぎる。6人の父母たちすべてが想像を絶する育ち方をしている。罪は罪だが、これを読んで、誰がまともに彼らを責めることができるか。
このような事件をなくすためには、その人たちを罰すると言うより、この世に生まれて来た子供すべてが、親か親の代わりの誰かに愛を注がれ、手間をかけられ育てるような社会にするしかない。
やりきれない、暗い気持ちで読み終えるのかと思っていたら、最後に、事情がある女性の出産を助け、養子に出すNPO法人のことが紹介されていた。
このような活動をする方がいてくれるというのは希望だ。しかし、誰でもができるわけではなく、では自分に何ができるかと考えてみる。 -
想像もつかないような環境で育つ人っているんだね…そんな人が人として未熟なまま親になる、親になっちゃいけない人が親になる。そんな状況で周りに助けを求めることができないと悲劇が起きてしまうんでしょうか。
読み進むにつれて、ものすごくやるせない感じになりましたが、最後のエピローグで少し救われました。 -
どれもニュースで見た事件です。特に一番覚えているは3番目のウサギのケージに閉じ込めていた事件です。当時も衝撃的な事件で親に対して殺意を憶えました。世の中の人もそう感じた人多かったはずです。
壮絶な虐待や、死体遺棄、出産自体の隠蔽など見るに堪えない事件を、名手石井光太が書くのだからそれはそれは重厚な本になる事間違いなし。そして読んだ感想もその予想通り素晴らしい本でした。事件を起こした親たちの生い立ちを掘り起こすことによって、負の連鎖によって子供たちが虐待され殺されていくのがまざまざと見えました。
実際にその犯人たちが罰せられるのも当然。出来れば重い罰を与えて欲しい。しかし、そこで止まるのではなくて、セフティーネットの拡充が何よりも大事だと痛感しました。今まさに虐待による事件が世間を騒がせ、親子関係に行政が介入する事の難しさに毎回毎回歯噛みする思いです。
石井氏が冒頭で「彼らなりに子供愛していたのだろう」と言っていますが、読みはじめは何言ってやがると思いましたが、読み終わると彼らなりの歪で狂った理屈が有り、そこに全く子供への感情(愛情とは言いたくない)が無いとは言えなくなりました。
生育環境で「他の人への接し方」、「基本的な生活の方法」を教わらない子供が大人になった時、またこういった悲劇が繰り返されるのでしょう。
色々な人に広く読んで頂きたい本です。 -
遺伝性の疾患だとしたら治療法がいつか出るのだろうか。