聖痕

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著者 : 筒井康隆
  • 新潮社 (2013年5月31日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103145301

聖痕の感想・レビュー・書評

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  • 読み終えても何度も何度も読み返してしまいます。帯を見て敬遠している人もいるかもしれませんが、読まないのはもったいない。話の筋、登場人物の名前、地名、文体まで、この本の全頁一字一句全てが絢爛豪華に織り上げられた暗号です。読んだ後、語り合いたくなるのですが、議論沸騰すること間違いなし。作者がニヤリとしているのが目に浮かびます。

  • 古語を並べて小説表現に用いるというアイディアを思いつきはしても実際に実現できる作家はそうはいないだろう。最初は戸惑いがあったが読み進めるうちに古語の出現が楽しくなる、連続で現れると思わず拍手をしたくなる、JAZZのアドリブの難易度の高いフレーズを待ち望むのと同じような楽しみ方ができる。選りすぐった古語を集めて作った小説の題材の一つが選りすぐられた素材を集めて作られる料理であるのもむベなるかなといったところか。近年の日本社会を背景にした美と欠損を抱えた主人公の半生に島田雅彦の作品と似た印象を持った。

  • 何かを喪はなければ、それも比類無き透徹した狂気ゆえの純粋さによって奪はれなければ示現できない聖なるモノ。

    ある種、現代の殉教とも言えるような雰囲気を独特な文体とともに揺蕩わせている…。

  • 何より著者の老獪な文章力に舌を巻く。誰の真似でもなく(昭和初期の文体のパロディと言えなくもないが)、リズムがあり、ビートがある。遠慮呵責なく難解な熟語を使い、読点もほとんど無いのだが、流れるように読める。この本がどのように評価されているのかは知らない。著者の本は8割方読んでいるが、見知らぬ場所へ誘うストーリーも含め、大傑作の一つなのではないか。

  •  筒井康隆の現時点での最新長編の語り口は視点の移動という実験だ。通常は一人称小説だったり三人称小説だったり、視点はひとつに保たれていなければならないとされるが、ここで視点はコロコロと移っていく。映像作品などはそんなものかも知れないが、それを小説でやってしまう。まずは擬古的な文章で始まるのだがそれは老人が回想しているかのようだ。何を回顧しているのかといえば幼い頃のことのようである。次の段落は赤ん坊が快適な子宮から引き離され怒っている台詞になる。それから視点は周囲の人々などに何の説明もなく移動する。対話もほとんど括弧抜きで羅列される。つまりそういうわけ。私がこうして喋っているじゃない。うんうん。すると今度はあなたが何か言うわけ。俺がなんか答えるよな。答えるでしょ。普通なら括弧でどこまでが一人の台詞か区別されるけど、それがないのよ。それじゃあ誰が喋っているかわからないじゃないか。わかるのよ。口調ってものがあるじゃない。おおそうじゃのう。いや、だからそういうことすると誰が乱入してきたかわからなくなるでごいす。『創作の極意と掟』によれば、こうした記述について行けなかったのは普段小説を読まない人だけだったという。
     語り口のもうひとつの特徴は枕詞や古語の濫用であり、後半に行くほど増えてきて、難解な古語には脚注をつけてまで敢えて使用せんとす。それにて生まるるものはあたかも音楽の如き律動なり。

     そうした語り口で語られる内容はというと、上述の生まれて怒っていた赤ん坊、葉月貴夫の物語である。聖痕とは、義手、義歯、義眼。あ、これはパーマー・エルドリッジの、だった。
     貴夫は中小企業の経営者家庭の長男で、類まれな美貌を持つ。ええっ。男の子。まあ。男のお子さんなの。嘘みたい。女の子だってこれほどの。ところが、5歳の時、彼は変質者に性器を切り取られてしまう。ここまでほんの数ページ。聖痕とは切り取られた痕のことなのである。

     作者の目論見は、リビドーのない人物を生み出すこと。人間を動かす動因は広義の性欲であるという考えから、それがない人物を作りだす実験である。リビドーのない人間には、つまるところ小説にしろ映画にしろ音楽にしろ、芸術の深奥を理解することはできず、よって、貴夫はどんなに上手に歌を歌っても真の表現はできない。もっとも、性ホルモンを無くしたからって、リビドーがなくなるわけではないのは、宦官やカストラートの行状をみればわかるが、本書ではそういうことにしておこうということだ。
     貴夫の家族は貴夫にそのような欠陥があることをひた隠しにする。そんな貴夫に唯一残された悦楽が味覚であった。味覚を研ぎ澄ましていく貴夫は、料理の世界へと進んでいくが、この世のものとも思われぬ美貌を持つ貴夫に男も女も引き寄せられ、貴夫の秘密が暴かれる危機が何度となく襲ってくる。作者のサディスティックな筆がいつ貴夫を襲うかだくめいて読むこととなる。(註:だくめいて どきどきして)
     貴夫が陰部を切り取られ、一家がこっそりと居所を移したときは折しもオイルショックであり、その後も貴夫の半生の語りの随所にその時代の風物や重大事件に言及される。少年の貴夫がテレビで「バビル2世」を見ていたり、アメリカと中国が国交を樹立したり、そしてバブルに翻弄され、最後にやってくる大きな出来事といえば当然あれである。他方、貴夫を手にかけた犯人は捕まらないままであり、その決着もひとつのクライマックス。

     語り口も語りの内容も表現欲に満たされており、筒井さんよ、あんたにゃ、聖痕はないね。

  • 新潮文庫版にて読むつもりなので~

  •  まず、そこそこの冊数の本を読んできていてもまだまだ知らない日本語がたくさんあることに驚き。枕詞や難しい日本語を多用するところに筒井さんの実験的姿勢が感じられて楽しかった。 
     内容については、性欲のない聖人のような人生も自分の軸がブレることなく信念を持ててそれはそれで魅力的、だけど性欲があるがゆえに足掻いたりみっともなかったりする人生も、その俗っぽさがいいなぁと思った。全てはその人次第で、良くも悪くもなれるなぁ、と。激動の世の中を生きる色んな人間の人生について読めてとても面白かった。

  • 朝日新聞に連載してたそうだ。5歳の時におちんちんを切られた男の子の人生記。すごーく面白いってわけじゃないけど、やっぱ面白かった。私の中に筒井康隆は住みついているとしみじみ思う。難しい言い回しが多く、注釈も多い。これは筒井康隆の造語なのではないかと思うものも。七瀬の(カッコ書き)もあったし、暴力的な部分もあるし、エロティックなところもあるし。いちいち筒井康隆だなぁと思ってしまう。ほんと貴夫は神様のようだよなぁ。

  • 古語、会話文を地の文と同化させる等々の文体、そして何より、主人公の美しさに驚嘆させられた。
    いやはや、すごい小説だった。

    ただ、わざわざ震災を絡める意図が見抜けなかった。

  • 基本的に読書をする際なるべくわからなかった単語があればメモを取りながら読むようにしているため、この作品の場合左についている注をほぼ全て書き写す羽目になり、(めんどくさくて)読むのに何ヶ月もかかってしまった。
    その作業に気をとられていたというのもあるだろうけど、話、つまんなくない?
    ペニスを切り落とされた青年が主人公とあって、話がどう転がっていくのかと思ったけれど、途中からその設定を忘れてしまうほど普通の小説になっている気がする。
    注を気にせずさらっと読み流せばまた印象が違うのかもしれない。

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聖痕の作品紹介

あまりの美貌故に性器を切り取られた少年は、みなの煩悩の救い主となるのか? 一九七三年、五歳の葉月貴夫は性器を切り取られた。しかし尚も美しく健やかに成長した彼は、周囲の人びとのさまざまな欲望を惹き起こしていく――。古今の日本語の贅を縦横に駆使し、小説言語の枠を大幅に広げながら、文学史上最も美しい主人公の数奇な人生を追う。朝日新聞連載中から騒然たる話題を振りまいた問題作刊行。

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