- Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103342328
感想・レビュー・書評
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武家を描いた短編集。
青山さんは本質的には短編作家なのかな。
背景にページ数が割けないはずなのに、多言を費やさずどの作品も見事に背景を描いて見せます。
そして声高ではなく描かれる主人公たちの生き様の清冽さ。
こういう作品を読むと、藤沢周平の衣鉢を継ぐ人という気がします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
清廉で涼しい、細やかな短編集。
読了し、しばし余韻にひたるとき、目に入ってくる、白をベースに、すこし手触りの残る質感のカバーまでもが心憎いばかりに爽やかである。
男性の手になる時代ものというと、わりと硬質なものばかり読んでいて、勝手にその文脈で世界に飛び込んだもので、まずはその細やかさにはっとした。
まるで、イェーイ!とかいってカジュアルに飛び入り参加したパーティーが、実はドレスコードバリバリのジェントルな会で、でもわりと優しめに歓迎されちゃったような?
あれ違うか。
ただ、ジャケ読みした場合はたまに、そんなこともある。計算外、想定の範囲外のエア感。
そしてその場合往々にして怪我するのだが、今回は想定外の大成功。
正直、最初の作品は、あれって思った。すみません。主人公の日常とそこに投げ込まれた老人との邂逅までは本当に丁寧にたぐられて美しかったけど、え、そのおち?
それはないよね安易よね、って思ってしまった。生意気ですみませんが。
ところが、次の作品で、またその先で、静かにじわじわ世界に引き込まれていった。足から沈んで、気がついたらどっぷりと。
90と70の老親子。釣りで親が落水で命を落とす。家督を譲られない息子の仕業なのか、しかしなぜいま?
夫の不在に、閉塞感から逃れようと密かに小さな贅沢を望む妻が感じる違和感の正体と、その意外な結末。
短編のそれぞれになにごとかの事件、時には人の死を伴う事件が起こるが、それがまとまりよく、かつめりはりと説得力を持つ。その理由を考えた時、すべての作品で際立つっている、小道具の存在がそうさせるのかな、と思った。登場人物の思いと細かい描写があいまって、物語に一本、筋を通している。
もしかしたらこの人は、長編の推理小説をも書ける人なのではないだろうか。
短い中にしっかりと書き込まれた人物描写、そこに投げ込まれた小道具の細密な表記、俯瞰された背景、そのひとつひとつが最後につながり、謎がとける論理性。重厚な推理小説の条件がすべて満たされているように、おもうのだけれど。
もちろん、論理性だけではない。矛盾だらけで愛おしく間違いだらけのわれわれの、そんな綻びもそこに、正しく投影されている。作者の愛に溢れたあしらいとともに。
姿勢を正して、折り目正しく読みたくもなる、そんな本。