ボコ・ハラム:イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103511519

感想・レビュー・書評

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  • 2014年のナイジェリアでの女子生徒集団拉致事件によって突如として世界的に名を知られるようになったテロ組織ボコ・ハラムについて、ナイジェリアの英領植民地時代まで遡り、ボコ・ハラムが現れた背景やテロ組織に発展した理由を丁寧に解説した本。著者は毎日新聞の元記者で、アフリカに関する著書の多い白戸圭一。

    ナイジェリア北部はイスラム教徒が多く、南部はキリスト教徒が多いが、独立時、南部の石油なしには経済的に生き残れないため、北部は南部と一緒の国として独立することを望んだ。しかし、その後の政治の混迷に幻滅した北部の一部は、独立時に撤廃されたシャリーア刑法のナイジェリア全土への導入を求めるようになる。一種の「世直し」運動であり、元々はローカルな活動であった。しかし、ボコ・ハラムの前身となった組織ユスフィーヤの初代指導者ユスフの死後、強硬的なシェカウが指導者となり、アルカイダへの連帯を表明することで権威を高めようとした。しかしアルカイダとの直接のつながりがあるわけではなく、アル・シャバーブやAQIMといったアルカイダの二次組織との連帯であり、存在感を示すために劇場型のテロに走るようになった。

    アフリカでは未だ腐敗の蔓延など国家のガバナンスが問題となっている。国民の不満を強権的手法で押さえ込んでいる国が多いことを考えると、現時点での政情は安定していても、指導者の死などを機に民衆の体制への不満が表面に現れ、政情が不安定化するリスクが常に存在している。さらに、サブサハラ・アフリカではそこに若年人口の爆発的増加と、非生産的な農業や製造業の未発達といった脆弱な産業構造の問題が加わる。自らの置かれた社会的・経済的苦境と国家のガバナンスの不全が結びつき、そこに過激主義のイデオロギーが入り込むと、ボコ・ハラムの発展のような現象はアフリカの他の国でも起こり得ると著者は述べる。

  • 2014年に数百人の女子生徒を誘拐したテロ組織、ボコ・ハラム。自分もそれではじめて聞いた名称だった。
    だが、それ以前にもそれ以後にも多くの残虐な活動をしている。それが先進諸国でなぜ話題にあがらないか。逆にどういう事件だとニュースになるのか、という分析が丁寧になされている。
    ナイジェリアの国の成り立ち、政治の不安定性、イスラム教とキリスト教。イスラム教の中での対立。とてもわかりやすく解説されている。
    また、後半のサブサハラアフリカ(サハラ砂漠より南の地域)の現状と今後の展望も大変興味深かった。
    人口の3分の1がサブサハラアフリカになるという人口予測には驚かされた。haあたりの生産量など、分析が細かく大変勉強になった。

  • 西洋を挑発しイスラーム世界と西洋世界の対立に持ち込む為に女子生徒を集団誘拐?だが誘拐した女子生徒をイスラムに改宗させ奴隷として売買するのはイスラム的にも誤っている。(ISは多神教徒の奴隷売買してた)
    また誘拐した少女に自爆攻撃を強制し、あのISからも批判された。

    ■なぜ結成されたか
    ボコ・ハラムが出現した経緯は他のイスラーム組織同様、現地のガバナンス不全(失業、腐敗政治)に失望しイスラームに解決を求めたタイプ。
    1999年以降、彼らの要望通り州単位でシャリーアが導入されたが、厳格な運用は回避する州が多く当局に憤っていた。しかし当時の指導者は武力行使に批判的だった。しかし前指導者は司法手続きを経ずに警察に殺害され彼らは過激化した。

  • SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/704625

  • テロ組織がいかにして生まれるか。テロとは何か。それがよくわかる本だった。

  • Kindle

  • すっかり記憶が薄れていたが、アフリカで数百人もの女子学生を誘拐した事件があった。本書はその事件を引き起こした組織をテーマにしたルポ。
    アフリカのテロ組織なんて、日本の日常からは対岸の火事よりさらに縁遠い印象がある。しかし、旧植民地や民族問題、拡大する貧富の差、若者の閉塞感など、欧米でのテロやISとその背景が同じだけに恐ろしさが増す。
    著者は元新聞記者だけあって、引き締まった文章で、馴染みの無いことながら、解りやすく読み進むことが出来た。

  •  著者は「ルポ資源大国アフリカ」(東洋経済新報社)で、アフリカの苦悩は、根源のところは、というか始まりはやはり列強の植民地支配であり・・・・ということを暴いた。そしてこの本で明らかになるのは、ボコ・ハラムの出現までに至るまでのナイジェリアとその周辺の困難・苦悩は、やはりイギリスを始めとする列強の植民地支配から始まっているということである。

     貧困や差別、格差などが社会変革の運動となっていくのは、いつもそうである。しかし、経済成長がテロの芽を積むことには決してならないことを著者は明らかにする。「テロを企てる際には、無辜の民を殺害する自らの行為を正当化する理論的・思想論的武装が重要である。その意味で、テロとは思想の産物で(中略)知的作業を行い得るテロ組織の中心人物たちが、高等教育を受けた中間層以上であるのは自然なことである。」「テロ組織の中枢が経済的貧困と無縁な人々によって占められている」「経済の急成長で人々の生活や価値観が急激な変容を迫られ、富や雇用機会の偏在が進むと、これを是正しようとする反体制的性格を帯びた運動が台頭し、その中から暴力を厭わない過激主義者が生まれるリスクを、我々は考慮しなければならないのである。」。日本を含めた世界のテロ組織はかつても今もそうなのである。

  • 11月26日 ムンバイ同時多発テロ事件日

  • アフリカのことは筆者の言うように遠い世界の出来事であまり知らなかったが,このような過激な組織のことを成立時から書かれたものを見ると,歴史の必然とも言えるのかもしれないが,何かできたのではないかという思いにかられる.とにかく弱者を虐げる者に正しいものがあるはずもない.そして,日本が結構お金を出していることにも驚いた.このお金が武器や爆弾に変わらないことを信じたい.

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著者プロフィール

1970年生まれ。立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。毎日新聞社でヨハネスブルク特派員、ワシントン特派員などを歴任。2014年に三井物産戦略研究所に移り、欧露中東アフリカ室長などを経て、2018年から立命館大学国際関係学部教授。『ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄』(東洋経済新報社と朝日文庫)で2010年の日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞。著書に『日本人のためのアフリカ入門』『アフリカを見る アフリカから見る』(以上、ちくま新書)、『はじめてのニュース・リテラシー』(ちくまプリマー新書)、『ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』(新潮社)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任教授を兼任。

「2021年 『はじめてのニュース・リテラシー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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