プーチンの世界

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105070113

感想・レビュー・書評

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  • [多様な顔,統合された人格]世界で最も影響力のある人物とも言われるロシアのプーチン大統領を,6つのペルソナ(人格・仮面の意)を持つ人物として読み解こうと試みた大作。現代ロシアを考察する上で,欧米においては非常に高く評価されている作品でもあります。著者は,トランプ政権下で米NSCのロシア・欧州上級部長に任命されたフィオナ・ヒルとブルッキングス研究所のシニア・フェローを務めたクリフォード・G・ガディ。訳者は,濱野大道と千葉敏生。原題は,『Mr. Putin: Operative in the Kremlin』。

    非常に実証的かつ体系的にまとめられているプーチン大統領理解のための必読書といった感のある一冊でした。プーチン大統領を一刀両断的に捉えることなく,その複雑さを受け入れながら解説を進めていく筆に,真摯かつ高度な学究姿勢が伺えるかと。解説書的な記述ではないため,読んでいて面白い点も高評価のポイントです。

    〜本書の執筆を通してわかったのは,ウラジーミル・プーチンにとって大事なのは,情報が真実かどうかではなく,彼の言動を相手がどうとらえるかである,ということだ。プーチンにとって興味があるのは,特定の現実を伝えることよりも,その情報に対する周りの反応を確かめることなのだ。〜

    分厚いですがロシア入門書としても実は良いのかも☆5つ

  • プーチンのペルソナを国家主義者、歴史家、サバイバリスト、アウトサイダー、自由経済主義者、ケースオフィサーの組み合わせとして分析。筆者はプーチンを現実主義者としているが、今般のウクライナ侵略はペルソナの変化(パラノイア的歴史家)なのかもしれない。本文中の興味深い点は以下のとおり。
    ・プーチンにとって重要なのは情報が真実かどうかよりも周りの反応。
    ・プーチンは副市長時代の失敗により、天然資源の備蓄が不可欠で、民間企業は当てにならないことを学んだ。
    ・プーチンは96年、オリガルヒの掌握という明確な目的のもとに、アウトサイダーとしてモスクワに呼び寄せられた。
    ・ドレスデン勤務のために80年代後半のゴルバチョフ主導の楽観主義時代の経験がすっぽり抜けている。
    ・プーチンが大統領として優先したのはウクライナを迂回した欧州の新しいパイプラインを敷設すること。
    ・プーチンが米に否定的な感情を持ち脅威を認識するようになったのは2000年代。2006年にはパリクラブへの国際債務返済。2008年には「ウクライナは国家ですらない」とブッシュに言明。
    ・2011年の抗議デモは情報空間の力を甘くみすぎていた。
    ・56年にハンガリー介入や68年のプラハ介入を反露感情を引き起こした大きな過ちと認識。

  • 1985年にゴルバチョフが書記長となって1989年にベルリンの壁崩壊、エリツィンによる混乱の1990年代にソ連が崩壊し、2000年にプーチンがロシア大統領に。以来20年以上にわたってロシアを支配するプーチン(1952年生69歳)。その出自と足取りを追う。2014年のウクライナ危機を含む二段組500ページの詳細なプーチン解剖。

    第1部 工作員、現る

    第1部は2013年12月の原書初版部分であり、プーチンの出自とロシアの大統領として権力を握るまで、そしてその握り方をプーチンの多面性(6つの顔)から分析する。

    ①プーチンとは何者なのか?
    ②ボリス・エリツィンと動乱時代
    ③~⑧プーチンの6つの顔 国家主羲者・歴史家・サバイバリスト・アウトサイダー・自由経済主義者・ケース・オフィサー(工作員)
    ⑨プーチンが支配するシステム

    ゴルバチョフ時代とエリツィンの混乱時代を東ドイツ・ドレスデンでKGBの工作員として過ごし、いいタイミングでレニングラード(ペテルブルグ)に戻り、KGBの指令もあって市長の補佐から副市長へ。そこで身に付けた独特の資本主義観(インドのジュガールに近い)によりものごとの取りまとめ屋(ケース・オフィサー)の能力を買われクレムリンへ。エリツィンが裏取引で国有財産を払い下げたことでできた財閥(オリガルヒ)をコントロールし評価をあげたからなのか、ぎりぎりのところはわからないがなぜかエリツィンに選ばれて大統領補佐から2000年に大統領に。

    KGBらしく弱みをつかんで、あるいは一緒になって非合法なことをやり、それを相手の弱みとしてつかむことでコントロールするのが基本の手法のように書かれているが、いつでもそういうわけでもなさそう。エリツィンも弱みをつかまれていたのか。

    いかにも「ロシア的な国家愛」と「KGB的な人使いの手法」と「非欧米的なやったもん勝ち資本主義観」・・極端にまとめればそういうことになるのか。複雑すぎてレビューもしづらい。

    第2部 工作員、始動

    第2部は2014年のクリミア併合・ウクライナ危機(今となっては第一次ウクライナ危機か)勃発を受けて2015年2月に大幅増補された部分。

    ⑩ステークホルダーたちの反乱、⑪プーチンの世界、⑫プーチンの「アメリカ教育」、⑬ロシア、復活、⑭国外のエ作員、エピローグ

    2008年のグルジア戦争で欧米・NATOの弱腰を見抜くも、アラブの春のような強制的民主化(裏にアメリカがいるとプーチンは思っている)に危機の前兆をみたプーチンは2012年にいったんメドベージェフに譲った大統領に復帰。国内からは大きな非難を受けるがさまざまに強行し、2014年のソチ五輪開催で完全に既成事実化。オリンピック終了後わずか3カ月でクリミア進攻しロシア化。同時にウクライナ東部のロシア人居住地域に進攻。マレーシア機の撃墜もうやむやに。

    その8年後の今、2022年にまさに第二次ウクライナ危機で2月22日の今日、東部のドネツク、ルガンスクのロシア人支配地域の独立を一方的に承認。

    西側では善ととらえている諸外国の民主主義や自由市場を促進するという西側の政治体制の本質部分がプーチンの世界ではまったく善ではない。プーチンの作り上げた(あるいはロシア的な)閉鎖的なワンマン・ネットワークや経済の「みかじめ料」制度の上に成り立つロシアの政治体制にとって、民主主義や自由市場の促進は明らかに脅威だということ。そして、そんなロシアの有様をプーチン自身はロシアとしての正義だと認識しているということ(ここが、西側の人間にはわかりにくい)。そのロシア主義の先にグルジア戦争がありウクライナ危機がある。(習近平の中国もかなり似ている)

    プーチンが2000年に大統領になって22年・・・。ロシア人もうんざりしているのではないかという気がするが・・・。https://www.shinchosha.co.jp/book/507011/

    読了後、NHK BS世界のドキュメンタリーで放映されたO・ストーンによるプーチンへのインタビュー「オリバー・ストーン オン プーチン(前後編)」(録画)を再度視聴した。編集のせいもあるのだろうが、プーチンの受け答えのよどみなさは、この本の著者が主張する「プーチンは西側民主主義のことがわからない」というのはアメリカの研究者の一方的な見方かもなどとも思う。

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