あの川のほとりで 下

  • 新潮社
4.19
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本棚登録 : 219
感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105191146

感想・レビュー・書評

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  • アーヴィングの小説は、とりあえず長い。読み始めると他の作品が手に取れず、困る。
    「少年が熊と間違えて殴り殺したのは父親の愛人だった!」上巻の帯に書かれた煽り言葉に辿り着くまでで、まるまる1章129ページ。
    ここから始まる逃避行の描き方が独特。
    10年や20年時間をワープして、その地点に至るまでの出来事を回想し、また次の時代へ跳ぶのが繰り返されていく。
    逃避行と避け難い悲劇の予感に対するスリルとテンションを保ちながらも、感傷とユーモアたっぷりの膨大なエピソードで“事故の起きがちな世の中”で失ったものを悼むという巧みな構成は、ラストに過去が現在に追いついてフィナーレを迎える。そのとき長じて作家となった主人公ダニエルが回想するのは、少年だったツイスティッド・リヴァー最期の夜-ピタリと原題の通り-なんて見事なエンディングだろう。

    大切な人をふと懐かしく想い出すときに浮かぶのは、ちょっとしたつまらないエピソードやくだらないジョークだったりしないだろうか。
    アーヴィングが奇想天外な物語の中で繰り返し描くのは、人生は突然の悲劇に溢れていても、その幕間には素敵な想い出の数々が詰まっているということだ。

    「ホテル・ニューハンプシャー」「オーウェンのために祈りを」「熊を放つ」(極私的なベスト3なので悪しからず)に及ばずとも、読み終わったあとに幸福な気持ちになれる素敵な物語だった。

  • 不慮の事故を発端に逃亡する父子。父子は名を変え、子は小説家へ。月日の流れの中で様々な回想が父子と友人の結び付きを明確にしていく。常に追われる父子の日常にはさらなる悲劇を予感。圧倒的なエンディングと仕掛けに唸る。

  • 最後まで読んで、モヤモヤが取れた。
    もしかすると、映像化した方がうまく伝わるかもなぁと思った。
    料理の描写がアメリカ小説としては最高(笑)

  • 初めて読む「巨匠」ジョン・アーヴィングの作品でした。そもそも祖母からの贈り物。本の帯通り、父と息子の逃避行物語です。新鮮だったのは主人公が従軍はしていないが、ベトナム戦争の時代を生き、また9.11のテロの時代も生き、その当時の主人公の主観が本に描かれていること。いままでのアメリカ文学にはなかった視点だと思いました。
    なかなか辛い人生を歩む主人公ですが、必ず誰かが主人公を支えていて、それは自分にもきっと当てはまるのだろうなと自然と思えてしまう、そんな素敵な作品でした。

  • アーヴィングの作品は3冊め。
    とんでもない悲劇が起こって、いろいろ損なわれる事があっても、人生が決定的にダメになる訳じゃない。必ず誰かが支えになってくれる。
    あと、作者本人と思しき主人公。
    何を読んでも結局同じかな~なんて思いつつ、どっぷりはまって読んでしまう。流れの早い曲がりくねった川に翻弄されるような読書でした。

  • 翻訳があまり上手でなかったので、読みにくかった。けど、ストーリーは素晴らしかった。英語で読めたらもっと楽しめたんだろうなと。
    「ときとして、人は我々の人生のなかにいとも簡単に落っこちてくるーまるで空から降ってくるかのように、あるいは天国から地上への直行便があるかのようにー同じようにとつぜんに、我々は人を失う、常に自分の人生の一部だと思っていた人を」
    この一説がこの小説のテーマでした。
    それからラスト。ネタバレになるかな?もう一回最初から読み直したくなるラストです。

  • ジョン・アーヴィングの本を読むのは初めて。
    上巻の最初、読み始めはなかなか物語の世界に入り込めなかったけれど、3分の1を過ぎたくらいからページを繰るてが速くなった。
    驚くほど人が死ぬ。
    でも本当は死はありふれたもの。
    大切な人を失った喪失感が見事に描写され、胸に迫る。
    失ったときの衝撃。そのあとに続く日々。
    埋めることできない悲しみを抱えながらも、新しい人と出会い、希望をつないでいく。
    もっと早くこの作家の本を読んでおけばよかった。
    自伝的な要素を含んでいるみたいて、今までの作品を読んでいたほうが楽しめるように思った。
    他の作品を読んでから、もう一度読み返したい。

  • 相変わらず登場人物はあっさり死ぬのだが,それぞれにちゃんと意味がある書き方,死に方をしている.アーヴィング節全開なのだが,強いてあげれば「未亡人の一年」が一番近いテイストかも.自伝的小説と銘打っているだけあり,恩師のカート・ヴォネガットが登場したり,アーヴィングの小説執筆のやり方(らしきもの)まで公開する出血大サービス.確かにこの方法でなければアーヴィングの小説は書けないと思うし,執筆に時間がかかるのもやむを得ない.
    しかし,アーヴィングが枯れてきているのが感じられる.「サーカスの息子」みたいな素っ頓狂な話もまた読みたいなあ.
    それからカバーを外すと,表紙には作中の登場地名を記した地図が載っているので,コレを見ながら読み進めると,話について行きやすくなると思いますよ.

  • 下巻ではドミニクの息子ダニーを中心に物語が進む。

    ジョーが二歳のときに道路の真ん中で死にそうになったことを題材に小説を書いていると、すでに成人になったジョーが恋人と雪崩事故に巻き込まれて死んでしまう。

    自分の体験をもとに物語を紡いでいくことは「事故の起こりがちな世の中」にとってすごく危険だと思う。

    ケッチャムの手が『第四の手』のエピソードを思い出したり、ジョーの死に方が『ガープの世界』に似ていたり、アーヴィング独特な世界観が盛りだくさんだった。

    解説でアーヴィングが癌で手術をし、再発率が30%だと書かれている。すごく心配。次作も来春に決定していて『In one person』というらしい。楽しみ♪

  • 下巻は上巻に続く第三章の途中、新たなドラマが展開する場面から始められる。

    ここから先は、特に時代を前後する回想シーンが多く挿入され、過去の出来事の整理に加え、作家となったコックの息子ダニエルの作品内容と共に、今後の展開への予感が強く示唆されていく。

    「事故が起こりがちな世の中だ」とコックのドミニクが呟くシーンがあるが、まさにそのとおり。1983年にヴァーモント州を離れ、故国アメリカを離れカナダのトロントへと向かうコックの父子。

    そして、物語の舞台はオンタリオ州の湖に浮かぶ小島を経て、元のニューハンプシャー州の山奥、コーアス郡へと向かう。

    最後に明かされていく、いくつかの真実と人の生死。最後まで読み手の心をとらえながらドラマを展開させていく手腕はさすが。物語を陰で動かしていくケッチャムという人物の存在が重要なモチーフとなっている。

    何よりもこの自伝的な作品の中で、アーヴィング自身が自身の創作手法を明かしているところが興味深い。作中の主人公の一人、アーヴィングの分身と思われる作家・ダニエルを通して、事実をフィクション化する方法について詳細に語っているのだ。

    メモの作り方、作中エピソードを書きとめる方法や、最終章の一文(結末)を見通してから物語を作り込んでいき、第一章にたどり着いていくといういったところなど創作秘話満載だ。昔からのアーヴィング・ファンにとっても、生い立ちからその女性遍歴、あるいは政治姿勢など、ゴシップ満載の内容で楽しめること請け合い。

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