通訳ダニエル・シュタイン(下) (新潮クレスト・ブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900786

作品紹介・あらすじ

ナチズムの東欧からパレスチナ問題のイスラエルへ-惜しみない愛と寛容の精神で、あらゆる人種と宗教の共存の理想のために闘った激動の生涯。実在のユダヤ人カトリック神父をモデルにし、21世紀を生きる勇気と希望を与える長篇小説。ボリシャヤ・クニーガ賞受賞、アレクサンドル・メーニ賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 宗教と国籍。民族と宗教。
    ユダヤ人でキリスト教徒、アラブ人でキリスト教徒であるということ。
    さらにキリスト教のなかでも、カトリック、プロテスタント、正教会…
    さらに正教会のなかでも、ギリシャ人とロシア人…
    さまざまな反目がある。
    言語にとどまらない架け橋としての「通訳」であったダニエル。彼の寛容さとユーモア。罪の意識。

    グラジナの死はかなしかった。リタの怒りと恐怖はどれだけのものだったのか…。


    時間が必要な作品だった。知識も足りていないし、読みとれていないところもあるが、読んでよかったとおもう。

  • 決して漫然と読んでいたことはないのに、かなりの時間と精神力を要した。でも今年1番の本になるかもしれない。N委が・・と具体的に言えない、それが知の遺産か。

    半ばフィクション、半ば実在の人物描写は無理解の溝への橋渡しをした人間の物語として語り継がれて行くだろう。この役者も大したエネルギーを要したと感服の極み。ポーランドの日常言葉遣いの訳出に骨が折れたとあるが。

    手紙・新聞記事・書簡・録音記録が情感より増えている。ドキュメント形式をプレゼンすることで多元主義的な社会において「その人物」が為した役割を任じて貰う様考えたのであろう。そして登場人物は更にフィールドを広げ、80歳を過ぎて にこやかにプロポーズするナフタリじいちゃん、ナチス将校、過去に流血の主人公となった末裔、42歳の初産でダウン症の子を出産する修道女やら多彩。

    実際は病死であったブラザーは書簡では自動車事故死として述べられているが死の後にその教義の在り様を激しく糾弾するキリスト教の修道会総長の手紙を見ても「穏やかな人柄そのままに、万人の賛意を得ていた」とは非常に考えにくい。だが歩みを進めた彼の業績は語り継がれて行くと信ずる。

    真理が一元的かつ主観が軸となっている事へのアンチテーゼとしての筆者の考えは功をなしている。

  • 2020年11月27日
    上下巻再読了。

    本書は年代順に書かれておらず、
    初読はそれでかなり苦労したので
    再読時はまずざっと目を通して
    年表を作ってから読み始めた。

    著者は1992年に実在のルフェイセンと会い
    魅了され、資料を読みインタビューを重ね
    イスラエルを何度も訪問したものの
    ノンフィクションではなく「半ばフィクションで
    半ば実在」という手法に切り替えた。

    このことについて、著者自身は、
    「この本は小説ではなくコラージュ」であり
    「自分の人生や他の人たちの人生から
    ハサミで断片を切り取り、「糊付けもせずに」
    (中略)日々の切れはしから成る生きた物語」
    を貼り合わせて作っている」(下巻P314より)
    とやや自嘲ぎみに語っている。

    主人公であるダニエル・シュタイン自身の
    語りは少なく、ほぼ彼と小学生との談話から
    過去が明かされる。彼を取り巻く人間の書簡や
    会話により彼やその語る人物の状況が描かれている。

    こういった手法のためか、ダニエルよりも
    周囲の人物のほうが生き生きとした人間として
    描かれている。その主な人物はエヴァとヒルダと
    いう二人の女性。エヴァは戦時中に共産党一筋の
    母親の元に生まれ孤児院に入れられる。一時母親に
    引き取られるものの母親が生きている間は
    母とはほぼ不仲であるが、年上の友人エステル
    により救われる。アンネフランクの本に影響を
    受けたドイツ人のヒルダはイスラエルに渡り、
    ダニエルの元で働くようになる。

    イスラエルではユダヤ人キリスト教徒や
    アラブ人が生きていくのは苦難を伴うことが
    上下巻を通して書かれていて、知らないことばかりで
    読み通すのは個人的にかなり大変でした。

    それでも、とても読み応えのある楽しい読書時間を
    過ごすことができました。

  • 上巻に記載。

  • 感想は上巻に。

  • [26][131019]<m市 書簡や書類、録音資料などのコラージュという体裁はとてもおもしろく、語り手一人一人のキャラクタやそれぞれの抱えている物語もいきいきと感じられて、上下巻にわたる長い話なのに飽きなかった。ただ、この手法によって浮かび上がってくるダニエル・シュタインの姿はちょっと平板だ。作中に彼に対して否定的な人物が出てこないわけではないが、その場合にはその語り手自体が読者にとって魅力的ではないことがほとんど。聖者の物語だとは言っても、というか、それだからこそ、その個性が強烈であればあるほど同時代に近くで生きたひとにとっては実際はた迷惑な部分があるのが事実だと思う。そしてその生臭い事実に生命力を与えられるのが物語の強みだと私は思うので、その部分が描かれていないこの話はフィクションとして見ると中途半端に感じられた。

  •  南ポーランドのユダヤ人の家に生まれたダニエル・シュタインは、17歳のときドイツ軍の侵攻から逃れるため、一家で北を目指すことに。やがて力尽きた両親に、弟と2人で生き延びるように説得されるが、その弟とも別れてしまう。
     その後ユダヤ人狩りにあい拘束され、何度もピンチに遭いながら、幸運にめぐまれ奇跡的に救われていくダニエル・シュタイン。やがて、ユダヤ人でありながらナチスの通訳としてゲシュタポで働き始めた彼は、ゲットー殲滅(せんめつ)作戦があることを知り、ユダヤ人たちを救いだそうとするが…。

     ユダヤ人でありながら、いろいろな好条件が重なって、ナチス側の通訳となったダニエル・シュタインの物語。フィクションですが、実在の人物をモデルとしているそうです。「通訳」とあるから、ホロコーストの話ばかりかと思っていたら、殆どはイスラエルに渡り、カトリックの「司祭」となった話が中心で、彼をめぐる人々の証言や、日記、書簡、記録などを、(作者に言わせれば)コラージュした構成になっています。断片的なものを、1つ1つ読み解くように読んでいくうちに、それぞれが伏線となり、物語が動き出し、ダニエルの人となりが鮮やかに浮かび上がってきます。
     宗教の問題や、イスラエルやパレスチナの問題は、勉強不足で理解がもどかしさを禁じえなかったけど、登場する夥しい人々の生き方には深く考えさせられたし、ダニエルの周囲の物語には、心がほっこりと温まる思いがしました。

  • 戦中から現代にかけての中東欧、イスラエルの歴史をヒューマンな視点で描いた傑作だと思います。

  • アイデンティティについて考えた。

  • やっと読めました。決して読みにくくはないのですが、長いし、内容が濃いのでとても時間がかかってしまいました。往復書簡や会話のテープを起こしたもの、手記などの形態をとりドキュメントを読むような感覚を覚えます。出てくる人々も、舞台も多岐にわたり名前も覚えにくくて混乱しつつもWWⅡを経て数奇な運命をたどったユダヤ人D.シュタインの生き様が、時にはユーモアも交えて描かれています。
    無知をさらすと、ユダヤ人=ユダヤ教信者と単純に思い込んでおり、そんな訳がないと気付かされました。日本人にはなじみにくいところがありますが、現在のイスラエル問題に通じる流れを知ることができます。
    親子、同国人間などでの無理解が存在するのと同時に、宗教や性別、人種を乗り越えた間で芽生える共感についても考えさせられます。人間として共感できる、ということが様々な障壁を崩す第一歩になるのでは?と思いました。そしてD.シュタインという人はそれが出来る人だったのだろうと思います。

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