戦後史の解放I 歴史認識とは何か: 日露戦争からアジア太平洋戦争まで (新潮選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037740

感想・レビュー・書評

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  • 最近、「歴史認識」に関する本を2冊読んだ。本書はその二冊目で、最初買うのに少しためらった。どういう立場の人なのか、読む価値があるのかを考えたからである。慶応の先生ということもためらった理由の一つだったかも知れない。しかし、それは杞憂だった。本書は、細谷さんの日本史と西洋史の研究成果がうまくマッチして、世界史の中で日本の近代史を見るという、とてもバランスのとれた記述になっている。日本は西洋列強に遅れて植民地競争に加わった。しかし、西洋では第一次世界大戦という大きな犠牲を踏まえ、新たな平和構築に乗り出していた。日本は最初、列強に遅れまいとしてがんばって国際法を学んだが、のちベルサイユ条約に参加したころから西洋の欺瞞性に気づき、新たな道を探ろうとした。しかし、西洋列強は欺瞞とエゴはあったとはいえ、それなりの戦争を避けるルールを探ろうとしており、日本はその流れとは逆の方向に進んでいった。アジア主義を唱え、西洋の植民地主義を批判するのはいいが、そこには朝鮮、台湾を植民地化していくことへの反省はなかった。1931年の満州事変は日本にとっては単に日中の問題のように思えたかもしれないが、それはそれまで築いてきた国際秩序を大きく崩すものであった。安部首相の答申機関であった北岡伸一氏らが、日本の侵略は満州事変から始まるというのと同趣旨の内容であろう。安部首相が日露戦争はアジアの植民地に希望を与えたと言う。それは一面の真理をものがたってはいる。しかし、そこには台湾、朝鮮を植民地化していく自らの姿は見えなかったのだろうか。また、日本がのちにアジアの解放を謳うようになるが、それもあくまで東南アジアの石油を確保するためで、マレーシアは最初その仲間に入れてもらえなかった。それはそこでの石油資源を自由に使うためには独立してもらっては困るからである。国と国との対立の中で、ソ連がドイツとくっついたり、イギリスとくっついたりと世界の首脳は頭を痛めたが、日本はほとんど脳がなかった。チャーチルなどは、反共主義でありながら、ドイツと戦うためにソ連とくっついたりした。日本と米英との戦争も、日本が仏領インドシナから撤退すれば経済封鎖にもあわなかったわけで、国際感覚のなさが目立つ。細谷さんは現在の日本のおかれている立場から、国会で論議中の安全保障法案には賛成のようだが、それは次巻ということのようだ。それにしても、これまでの歴史の総括として、とても読み応えのある本であった。

  • 20150830日経新聞、広告

  • 【目次】
    はじめに 003
    桑田佳祐の嘆き/高坂正堯の警告/戦後史の視野
    [011-016]

    序章 束縛された戦後史 
    1 村山談話の帰結 019
    歴史を見つめ直す/村山富市の決意/分裂する歴史認識/歴史問題の解決は可能か/歴史問題は国内から/敗戦を受け入れる困難
    2 歴史学を再考する 036
    歴史理論で観る世界/「実際に何が起こったか」/エヴァンズの反論/歴史学の黄昏/歴史に翻弄される政治/運動としての歴史
    3 戦後史を解放する 049
    イデオロギーによる束縛/反米史観と陰謀史観/堕落する歴史/「一九四五年」からの解放/世界の存在しない日本史/日本が存在しない世界史/戦後史の解放へ

    第1章 戦後史の源流 
    1 戦後史への視座 067
    戦後史をどのように語るか/大量殺戮の世紀
    2 平和主義の源流 073
    「近代の発明」/平和運動の胎動/ツヴァイクの不安/第一次世界大戦の衝撃/国際秩序の変革/吉野作造と原敬/牧野伸顕と伊東巳代治/「サイレント・パートナー」/人種平等という夢/人種差別撤廃をめぐる挫折/英米批判の系譜
    3 国際秩序の破壊者として 106
    戦争のない世界を目指して/国際公益と国益/国際人道法の衰退/国際思想の転換/権力政治と平和主義/若き天皇の不安/満州事変の勃発/平和の破壊/権力政治への回帰

    第2章 破壊される平和 
    1 錦州から真珠湾へ 139
    空からの恐怖/方向感覚を失った日本/ノモンハン戦争の衝撃/独ソ不可侵条約/清沢洌の洞察/第二次大戦の幕開け/チャーチルの登場/近衛文麿の弱さ/「根のない花」としての外交政策/第二次世界大戦の転換点/「対英米戦を辞せず」/南部仏印進駐の決定/幣原喜重郎の警告/幻の図上演習/大西洋憲章/戦後世界の基本原理/民族自決と「アジア解放」/迷走する軍部/天皇の疑問/セクショナリズムという病理/コーデル・ハルとジョセフ・グルー/対英米戦の幕開け/過小評価されるアメリカ
    2 第二次世界大戦の諸相 210
    アジア太平洋での戦争/日本のアジア支配/グローバルな戦争/テヘランとカイロ/戦局の転換点/日本の戦争目的/東條英機の家族的秩序観/重光葵と「大東亜宣言」/脱植民地化へ向かうアジア
    3 戦争の終幕 235
    欧州戦線の終幕/国連創設への動き/国際連合の発足/国際組織による平和/孤立する日本/鈴木貫太郎の指導力/ポツダム首脳会談/ポツダム宣言/原爆投下の決断/アジア太平洋戦争の終結

    終章 国際主義の回復は可能か 267
    破壊と破滅/国際社会との齟齬/軍国主義批判の陥穽/国際主義の回復/世界の中の日本

    あとがき 277
    註 285
    関連年表  [309-314]

  • 多くの優れた研究者により蓄積されてきた個々の研究成果をもとに、世界史と日本史を統合、大きな流れの中で描く。非専門家によるイデオロギー的な歴史がベストセラーになり、国際的には通用しない論理ではなく。

    確かに、わかりやすいシンプルな悪者、もしくは正義、では不十分であることはわかるけれど、歴史的にきちんとしようとすると、あっちこっちが様々、深く知らず考えずに迷走って感じ。

  • 戦後史を20世紀の全体像の中に位置付け直し、再構築を試みた意欲作。「世界史」と「日本史」を統合し、国際的な平和、国際的な秩序を構築しようとする潮流の破壊者として戦前期日本の行動を捉える。

    日露戦争までは国際的な秩序の中に自らの行動を位置付け、それなりの国際的な信義を得ていた日本が第1次大戦以後の国際秩序構築の動きをなぜ見誤り、孤立していったのか。

    例えば、第1次大戦後の国際思潮の転換を牧野伸顕はしっかりと認識していたが政府の中では少数派であり、伊東巳代治のような旧来の「帝国主義」的な思想から脱却できなかった。ベルサイユ会議に同道した若き近衛文麿も「英米本位の平和主義を排す」としたことからもわかるように、国際的協調主義を理解できなかった。

    1930年代以降の日本の選択が逐一、国際情勢分析の甘さ、機会主義的な行動などによって位置付けられるのに対して、大英帝国の明確な理念に基づいて取られる政治・外交の強かさが際立つ。そして、日米開戦によって日本は益々進むべき方向を見失っていくのに対して、逆にそれによって戦争の勝利を確信したチャーチルの大局観!!

    著者は最後にこう述べる。「戦前の日本が、軍国主義という名前の孤立主義に陥ったとすれば、戦後の日本はむしろ平和主義という名前の孤立主義に陥っているというべきではないか。たとえば、平和主義と戦争放棄の理念を、1928年の不戦条約や、1945年の国連憲章二条四項を参照することなく、あたかも憲法九条のみに存在する日本固有の精神であるかのように錯覚し、ノーベル平和賞を要求することは、本書で見てきたような日本の歴史に少しでも思いをいたすならば、美しいふるまいとは言えないだろう。また、自国以外の安全保障にまったく関心を示さない利己的な姿勢は、下手をすれば国際主義の精神の否定と見られる恐れもある。」(273-4ページ)

    戦後70年の今、必読の一書であろう。

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著者プロフィール

慶應義塾大学法学部教授、東京財団政策研究所 研究主幹。
1971 年生まれ、慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学、博士(法学)。国際政治、イギリス外交史。主要著作:『外交による平和──アンソニー・イーデンと二十世紀の国際政治』(有斐閣、2005 年)、『迷走するイギリス── EU 離脱と欧州の危機』(慶應義塾大学出版会、2016 年)ほか。

「2024年 『民主主義は甦るのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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