- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106106255
感想・レビュー・書評
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桶川ストーカー事件の犯人特定と埼玉県警上尾署の腐敗を暴いた『桶川ストーカー殺人事件 遺言』、足利事件の菅谷さんの冤罪を晴らし、さらには真犯人と思しき人物を追求する経緯を描いた『殺人犯はそこにいる 』。もし、そちらを読んでいないのであれば、ぜひ読んでほしい。この二件の日本の犯罪調査報道の金字塔とも言うべき取材を行ったジャーナリストのが著者の清水潔さん。本書は、この有名な二件も含めて自らの取材経験や調査報道に対する姿勢をまとめたものである。
本書に収められている事件は、先の二件の他に、函館ハイジャック事件、北朝鮮拉致事件、三億円事件、などの比較的有名な事件から、ほとんど誰も知ることのない無名の事件まで含まれる。しかし、そこに通底するのは、現場に当たり自ら裏を取るという姿勢だ。情報を鵜呑みにしないという自らへの戒めだ。
副題に「調査報道の裏側」とあるが、著者は自分の報道を「調査報道」とは意識していなかったという。それでも改めて、同じ報道と冠されていても、自分がやってきたことと、記者クラブなどを通してなされる「発表報道」との違いは著しいと認識したという。スクープには二種類あり、一つはいずれ世に出る情報をいち早く出すもの、もう一つは報道されなければ世に出ないもの、である。後者の類のスコープにこそ、報道記者という存在の意義が見出される。もしかしたら時間を掛けた取材はもともと思い違いで、取材にかけた時間と労力は結果として何も残らないかもしれない。また、いくら慎重を期したとしても、もしかしたら何か見落としていたり、騙されていたりして、間違った結論を導いているかもしれない。そういった大きなリスクがある中で調査報道をやり遂げるには、強い意志と使命感が必要だということがこの本を読むとわかる。著者は、その意志を抱き、行動力を持ち、かつその上で成功にも恵まれたと言える。その結果、本書にも記されている通り、冤罪再審理や公訴時効の撤廃などへも影響力を持つこととなった。現行の司法の状況では、ますます清水さんの持つ影響力が必要とされているような気がしている。
最後に著者は、雑誌記者時代に先輩記者から聞かされた「100取材して10を書け、10しかわからなければ1しか書くな」という言葉を紹介している。そこには、本書のタイトルにもなった「騙されてたまるか」という思いが込められている。それは清水さんの記者としての矜持であり、記者としての倫理がにじみでている言葉でもある。
調査報道ものといえば、もう一冊『真実 新聞が警察に跪いた日』も読んでほしい。こちらは苦い後味が残るが、そうであるがゆえにもっと読まれるべき本だと思う。
それにしても足利事件の真犯人の著者の確信は間違っているのだろうか。その真実が明らかになるのはいつなのだろうか。
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『桶川ストーカー殺人事件 遺言』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4101492212
『殺人犯はそこにいる:隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4104405027
『真実 新聞が警察に跪いた日』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4041013232詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この人こそ真のジャーナリストだろう。この本を読んで若いジャーナリストが育ってくれれば著者も本望だろう。
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「調査報道」と改めて言わなければならないのが今の日本のジャーナリズム? の現実なのでしょう。日本に生まれ住み、ネットなどない子どもの頃から新聞とテレビを情報源としてきた自分は今までに一体いくつの「嘘」をつかれてきたのでしょうか?
一つ一つのエピソードを、その背景を、もっと深く知りたいと思いました。「桶川ストーカー殺人事件」と「足利事件」についてはそれぞれ著書を読み、憤りましたが、他の事件についても「真実」を知りたいと思わされる筆力です。
一番最後の太平洋戦争のエピソード。非常にドラマチックで胸が締め付けられる思いがしますが、同時に、今の日本が向かっている方向を暗示しているようで、怖いです。反省したはずのマスコミが政権の意向に沿う報道を繰り返し、批判されても修正しないのは危機的状況です。
受け手のリテラシーが問われています。 -
150811読了
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桶川ストーカー事件の犯人を警察よりも先に特定した清水潔さんのこれまでの取材ぶりを簡潔にまとめた本。桶川の事件や足利事件といった有名な事件の取材に加え、日本からブラジルへ逃亡した日系人犯罪者のもとを訪ねたり、拉致事件や太平洋戦争の特攻隊に関しての取材など。実に幅広く、そして食い込んで取材していることがわかった。彼の古巣である新潮社のフォーカスは実に厳しいところなので、そこに鍛えられたからこその取材姿勢なんだろうけど、実にすごい。
一方、記者クラブに入ってないからとはいえ、常に組織に属していたからこその取材活動だという点では彼すべての功績かというとそうではない。
殺人についての時効が15年と区切られていることに彼は憤っていたようだが、それについては複雑。というのも時効があるからこそ、話してくれる「加害者」もいると思うのだ。 -
<目次>
はじめに
第1章 騙されてたまるか~強殺犯ブラジル追跡
第2章 歪められた真実~桶川ストーカー殺人事件
第3章 調査報道というスタイル
第4章 おかしいものは、おかしい~冤罪・足利事件
第5章 調査報道はなぜ必要か
第6章 現場は思考を超越する~函館ハイジャック事 件
第7章 「小さな声」を聞け~群馬パソコンデータ消 失事件
第8章 ”裏取り”が生命線~”三億円事件犯”取材
第9章 謎を解く~北朝鮮拉致事件
第10章 誰がために時効はあるのか~野に放たれる殺 人犯
第11章 直当たり~北海道図書館職員殺人事件
第12章 命すら奪った発表報道~太平洋戦争
おわりに
<内容>
わりと淡々と描かれている。桶川ストーカー事件を暴いた記者の本。第5章で著者が言う通り、現在の取材は「当局の発表」が鵜呑みにされる。マスコミの問題、警察の問題、それを疑わない我々の問題、いろいろとあると思うが、現政権はそこをうまくコントロールし、マスコミを支配している。まるで戦時中のようだ。こうした土臭い取材が今後とも必要とされるだろう。
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ジャーナリスト必読の書。
現場を何よりも重んじる著者の姿勢に共感します。
桶川ストーカー殺人事件で、警察よりも先に犯人にたどり着いたのは著者でした。
被害者の友人の話からストーカーの存在に気づき、地を這うような取材で真相に迫るのです。
一方でマスコミは警察発表を鵜呑みにしてウソの情報を垂れ流していきます。
いわく、〈被害者は風俗嬢〉〈ブランド依存だった〉などと。
しかし、後にとんでもない事実があきらかになります。
警察が初動を誤ったうえに、あろうことか、生前の被害者側から出された、ストーカーに対する「告訴状」を「被害届」に改竄していたのです。
それを糊塗するために、マスコミを故意にミスリードしていたというのが実態でした。
著者の執拗な調査報道がなければ、今もなお真相は闇のままだった可能性があります。
これでは亡くなった被害者は浮かばれますまい。
著者は、警察発表のような「大きな声」ではなく、このような亡くなった被害者の「小さな声」に耳を傾けることを信条としているそうです。
著者のようなジャーナリストが一人でも二人でも増えれば、社会も変わっていくでしょう。
本当はもっと書きたいことがありましたが、すみません、仕事に行かねばなりません。 -
「桶川ストーカー殺人事件」や「冤罪・足利事件」で著者の調査報道の凄さを知ってはいたが、他にも素晴らしい活動をしているのを知って感動した。
真実をとことん追求する調査報道の矜持は、実はどんな仕事であれ持っていなければならないものだ。
組織に屈することなく、小さな声に耳を傾け、おかしいものはおかしいと言い続けなければならない。
勇気をもらった一冊である。 -
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」「殺人犯はそこにいる」を含めて著者の取材過程を紹介し、調査報道の必要性を訴えた本。新書なので前2作に比べれば、軽く読めるが、読みながら「桶川…」と「殺人犯…」を思い出し、またもや警察への怒りがメラメラと燃え上がってくる。思い出し怒りである。忙しい人はこれ読むだけでも、2作の概要は分かるだろう。足利事件の遺族が検察官に対して「ごめんなさいが言えなくてどうするの」と叱る場面はやっぱり感動的であり、痛快だ。
著者は現役の記者や記者志望の若者に対して、発表報道に頼ることを戒める。現場に行き、足で稼ぐ取材の重要さを痛感させられる。