脳が壊れた (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 139
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106106736

感想・レビュー・書評

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  • ルポライターの鈴木大介さんが自身が41歳で脳梗塞になり、後遺症として高次脳機能障害になりリハビリしたことを紹介された本です。

    ご自身の症状や「半側空間無視」「構音障害」等専門用語について、分かりやすく、ちょっと楽しく書かれていて、引き込まれて一気に最後まで読んでしまいました。

    体験から、保険やお金も大切だが実際問題として複数の「人の縁というネット」が必要というお話が印象的でした。

  • 介護の仕事をしていると、“半側空間無視”というフレーズに接することが多々ある。実際にそういった障害を持っている方がたに接するのだけれど、顕著に障害が出ている場面に出くわすことはなかった。

    著者は、脳梗塞を発症し、それに伴う後遺症が残ったのだけれど、ルポライターという職業柄、自分自身を取材し、“高次脳機能障害とはこういうことだよ”をわかりやすく読ませてくれる。
    今まで接してきた方々は、言葉で発信することはなかったけれど、こんな風に見えたり、感じたりしてきたのだろう。

    自分自身を取材するにあたって、リハビリへの熱意が尋常ではなかったようで、その甲斐あって(?)壊れた脳の機能を他の部分で補完できたのだろう。仕事にも復帰し、良い本を書いてくれた。

    介護・看護・リハビリに関わる方にはオススメの一冊。

  • 図書館で借りたけど買ってまた読みたい

  • 脳出血で後遺症が残り、見た目は普通なのだが内面的にはいろいろな障害が残った状態になった作者の、発症・回復・リハビリの過程と現在の困っていることなどを書いたセルフドキュメンタリー。脳の機能不全という観点では、脳で何か病気があった人ばかりではなく、もともと脳の個性として不全を抱えているような人の行動を理解するための示唆に富んでいる。みんながみんな、自分のように感じられたりするわけではないし、行動できるわけでもない。とても実感を持ってそのことが感じられる。

  • 倒れた後のこととか、心身の不具合など、本当に細やかに噛み砕いて書いてくださってて、とても参考になりました。
    これまで取材であった人たちのうまくいかなさも、比べて書いてある内容も、当事者ならではの視点で、新しく、すごくよかったです。

  • 最近、職場で高次脳機能障害になった人と知り合ったから読んでみた。
    体験をこんな風に書けるのすごいなぁ。

  • ★回復記に感じる「面倒な人」との共通点★漫画「ギャングース」を連載中に読んでいるとき、そういえば原作者が脳梗塞で、というのを見た気がした。40代で脳梗塞を発症し、その後の変化を体験記として記す。自分を対象としたルポで、あえて病気の深刻さを和らげようとしているのだろうが、筆致が柔らかく読みやすい。
     何よりも本書がただの回復記とは違うのは、筆者の専門が貧困で、そのときに出会ったやりとりができない人々の様子に自分を重ねることだろう。著者は赤ん坊に戻ったように感情の抑制が効かなくなる。取材相手のことをコミュ障の面倒くさい人だと思っていたが、自分が同じ状況に陥ってみて、そこには脳の問題もあったのではないかと分析する。発達障害は先天的なものかもしれないが、貧困のなかで育つと発達の凸凹をより悪化させるということなのか。もちろん脳梗塞は場所によって差は大きいだろうが。

  • 私の周囲でも脳梗塞という話がちらほら聞こえてくるようになり、さすがに少し気になって手にした一冊。
    現役バリバリのルポライターが41歳の時に脳梗塞で倒れ、本書はそのセルフルポだ。
    脳が障害を起こすと何が起こるか。とても想像などできないのだが、そこはルポライター。この説明しづらい状況を何とか文字にしようと躍起になる。自分の左側が見られない症状を「全裸の義母」(=見たくないもの、見てはいけないものが自分の左側にある、の意)で表現するあたりは、まさに真骨頂。
    などと書くと、単なる明るい闘病記と聞こえるかもしれないが、さにあらず。著者は、高次機能障害で人の顔を正面から見ることができなくなり、感情が暴走し、注意力が散漫になるのだが、これに強い既視感を覚える。それは、これまで自身が取材してきた中で出会った情緒障害者たち、貧困に陥った女子たちがとった行動と同じではないかと。そこで著者は、自分のこれまでの取材の浅さに気づき、同時に脳梗塞を発症するに至った要因は、自身の性格や思想、それに基づく行動にあったと結論する。ここに至って、本書は闘病記の域を超え、人生の再生物語へと昇華した。
    そう考えると、第8章以降のかなり個人的な話の記述、特に著者の妻に関するくだりが大きな意味を持ってくる。かなりユニークな人物であることは、この本の前半部分でも垣間見れるが、その理由が同章で明らかになる。彼女は若年期に精神障害を患った経験があるうえ、結婚後に脳腫瘍の摘出手術を経験しているのだ。言ってみれば、彼が取材対象としていて、既視感を覚えた人物たちの先人であり、かつ、脳の病の先人でもあったのだ。脳梗塞で倒れ、リハビリを続ける著者にとって、これほど強いサポーターがいるだろうか。再生物語は始まったばかりだ。

  • 著者の貧困に関する記事は東洋経済オンラインで読んでいたが、同連載のほかの二人の執筆者にはない感触、なんというか、暖かい目線みたいなものをいつも感じていた。その記事の一つに、自身の脳梗塞からの帰還と後遺症と、貧困にある人々(取材対象)の昨日不全状態との関連性を書いたものがあり、今までにない視点にハッとさせられた。そこで買ったのがこの本。
    大変に面白かった。自分自身を取材し、状況から心境まで細かく書きつけるのはさすがプロ、しかも奥さん(発達障害気味でいろいろ苦労した方)のチカさんが書いた手記も載っており、併せて読んで涙腺が緩んでしまった。
    自分がなぜ脳梗塞になったのか、までしっかり考えているあたりが素晴らしい。

    鈴木さんに残された後遺症は「高次機能障害」。脳神経外科に行くと、この一見障害には見えないけど深刻な障害である高次機能障害に関するお知らせなどが貼ってある。外から見たら普通だけど、生きてる本人には大変辛い。
    ライターなので取材して書いていかないと生活に困るわけで、鈴木さんのリハビリに対する努力は大変なものである。手を使うこと、考えること、書くこと、感情失禁のコントロールなど、全てにおいて一生懸命である。またそれを支える奥さんもひたすら献身。愛を感じる。リハビリを通してお互いを認め合っていく夫婦の物語とも読める。
    涙なしでは読めない本だが、自身の状態の説明などがユーモア交えて語られており、不謹慎ではあるが笑っちゃうことも多々あった。この絶妙なバランスはやはりライターとして腕だと思う。今までインタビューしてきた人々と同じような問題を抱えたことを「僥倖」と言い切り、とことん書き切る心構えはさすがとしか言いようがない。

  • 脳梗塞で、高次脳機能障害を起こしたルポライターの方が書かれた本。高次脳機能障害が軽度なので、そしてルポライターなので、自分の状況を言語化することができる。そして、その症状が、これまで取材対象としてきた、社会からこぼれ落ちた貧困層の若者の症状と酷似していることに気がついた…という、貴重な内容。
    自分自身も家族も、いつ脳梗塞や他の脳障害になるとも知れず、このような情報は大切!長く入院して、失語症で意思疎通ができなくなっていた母も、こういう状況だったのかもしれない、と思うと、もっと早く知っておきたかった…と思う。

著者プロフィール

1973年千葉県生まれ。文筆業。子どもや女性、若者の貧困問題をテーマにした取材活動をし、代表作として『最貧困女子』(幻冬社新書)などのあるルポライターだったが、2015年、41歳のときに脳梗塞を発症し高次脳機能障害が残る。当事者としての自身を取材した闘病記『脳が壊れた』『脳は回復する』(ともに新潮新書)が話題に。他にも、夫婦での障害受容を描いた『されど愛しきお妻様』(講談社)『発達系女子とモラハラ男』(漫画いのうえさきこ。晶文社)、当事者視点からの実践的な援助ガイドを試みた『「脳コワさん」支援ガイド』(日本医学ジャーナリスト協会賞受賞。医学書院)、当事者と臨床心理士との対話を記録した『不自由な脳』(山口加代子氏との共著。金剛出版)などの著書がある。

「2021年 『壊れた脳と生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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