- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120052057
作品紹介・あらすじ
きみはなぜ、まぶたを閉じて生きると決めたの――
共に生きながら、今は遠く離れてしまった「わたし」と「ぼく」。
小川洋子と堀江敏幸が仕掛ける、かつて夫婦だった男女の優しくも謎めいた悲劇とは。
感想・レビュー・書評
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小川洋子と堀江敏幸の二人が編んだ小説、なんて買わないわけにいかないでしょう(笑)
にも関わらず、恐らく二人が詰め込んだ、種々の仕掛けの幾つもを、呑気に読み飛ばして、零してしまっている自覚がある。
読んでいく中で、どうして「私」と「ぼく」はこんな風な手紙のやり取りをしているんだろう、と不思議に思っていた。
最後となる十三通めと十四通目で明らかになる出来事だけを、真実としていいのかな。
レビューで考察してくださる方、待ってます!
チェレンコフ光、パブロフの犬の頬の穴、五つ子の育成記録、たばこ屋さんのおばあさん、やぎさんゆうびんの循環……。
ねえ、二人は一体何のやり取りを?
と思いながら、そんな不思議なキーワードで繋がり合えることが羨ましかった。
自分の世界を作り上げている断片たちに、こんな風に関わり、寄り添ってくれる人は、そうそういないと思うから。
「わたし」が一通めを出したこと。
その思いは、十四通目の返信でどんな風に変わっただろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
小川洋子さんが奇数回を、堀江敏幸さんが偶数回を執筆、かつて夫婦だった二人の往復書簡。
目もくらむような美しい文体と次第に明かされる二人の過去や現在。
非常に洗練された美しい日本語のやり取りに初めはうっとりし、痺れるんだけど、次第に食傷気味になってきて、うんざりしかけた所でまたぐっと心を掴まれる、というような具合。
読み手にも一定以上の知性が求められ、そういう意味ではある種のスノッブな人たちの自尊心をくすぐるような作品だと思う。
聞いたことの無い、人や現象の名前もあったし拾いきれていないオマージュや比喩もきっといくつもあるんだと思う。
引用せず仄めかしているだけのものも多く、巻末の引用、参考文献だけにはとてもとどまらない。
多分、ある程度の設定の打ち合わせはあったとしても、本当に手紙のようにやり取りして作られて行ったのではないかと思える。
時々話が噛み合わなかったり、辻褄が合わないところがある。
それもまた楽しめれば良いのかと思う。
個人的な率直な感想としては、先手の小川さんが完全に上手で繰り出される数々の設定や知性に堀江さんがあたふたしながら負けじと応じているような印象でした。内容に関してあらかじめ打ち合わせがないと想像してですが。
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私と僕の往復書簡。私のパートを小川さん、僕のパートを堀江さんが書かれており、光を失った2人の手紙のやり取りが穏やかで美しかったのですが、途中から私が怒りを表す文章になり、不穏なやり取りに変化する。何故、私はずっとまぶたを閉じる事を決意したのだろうか。僕は何故目が見えないのだろうか。何故2人は離れ離れになったのだろうか。タイトルのあとは切手を、一枚貼るだけ、の意味を考えると2人は本当に手紙のやり取りをしていたのだろうか。文中の引用で、やぎさんゆうびんの歌詞が出てくる。それはお互いの手紙を読んでいない。しろやぎさんは私であり、くろやぎさんは僕で姪っ子は手紙を配達する人だとすると、やはりお互いの手紙を読んでいないのでは、と。アンネの日記の事も書かれているが、アンネの日記は架空の人物に手紙を宛てているので、私と僕のどちらかはもう存在していないのでは、とか勝手に想像してしまいました。文中の引用を全て理解していないとこの作品の全貌は理解できなでしょうし、何度読んでも結末は作家のお二人に聞いてみないと解らないと思いました。超難解で極上に美しい文章の一冊でした。
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2022.11再読。
寝る前に一通ずつ読んでいった。
タイプライターの音を聞きながら編み物をする場面の描写が好き。
2人が今どのような場所にいて、どのような状態なのか、最初に読んだ時と少し印象が変わったかもしれない。 -
交互に綴られる、「私」と「ぼく」の手紙からだんだんと浮き上がってくる二人の関係性、過去と現在が、うつくしく繊細な言葉にくるまれて綴られていく物語。小説というよりは、詩を読むような感覚で、丁寧にやさしくいとしく相手を思うやりとりが交わされていきます。それは時折難解で、とても遠まわしに感じられることもあるけれど、それだけの事情があったことが察せられてくると、距離をとった二人のあいだに、実は心理的な距離はないままだったことがわかってきます。そうしてきりきりと切なくさせられるのです。
…結局、その切なさのままひっそりと幕は閉じ、手紙の後の彼らがどうなってしまうのかはわかりません。けれど、相手を想いあう、それだけは変わらなかったことだけは強く信じられるので、少しでも安らかな日々を続けられたことを、祈るように思ったのでした。 -
元恋人たちの往復書簡というカタチで全14通で14篇でもある一冊。好きな作家さんたちだしー、と、さもしい私はほんの少しだけロマンティックを期待したのだけれど、分かりやすいロマンティックではなかった。
いいんです。
物語というより言葉が作り出す印象の中でやさしい儚さを味わえたからいいんです。
言葉や記憶や故事について交わしながら互いの気持ちも探り汲んで進んでいく。
まどみちおさんの詩が出て来るあたりから『わたし』は″痛み″を表出し『ぼく』は″なぜ″を加重させる。水を感じさせる言葉が多かったのに振り返るとなぜかドライ感。好き。 -
かつて一緒に暮らしていたが今は離れて暮らしている男女の、女性パート(奇数回)を小川洋子、男性パート(偶数回)を堀江敏幸が担当した書簡リレー小説。基本的にはかつて愛し合っていた二人が、なぜ別れることになったのかという理由を、往復する書簡の中で出会いから徐々に解き明かされていくような構成。
読んだ印象では、おそらく結末や細部を決めずにスタートし、書きながらそれぞれが新しい設定や過去を付け加えて相手に投げかけ、キャッチボールしながら作られていったのかなと。悪い言葉で言うと「行き当たりばったり」的なろことがあり、それがスリリングでもありつつ、場合によってはやや不自然というか、後出しで突然こんな設定投げつけられたら受けるほうは大変だろうな、と裏読みして物語に集中できなくなったりはしました。
まずいきなり女性側は、これからずっとまぶたを閉じていることにしました、と言い出し(つまり盲目と同じ状態)それが比喩なのか現実なのか(そんなこと可能なのか)謎なまま、それに応える男性の返事にも、実は男性も目が見えない人だったことが記されており、そもそも書簡体小説でそれはないだろうと(^_^;) ヘルパーさんに朗読してもらってます的な設定もご都合主義に思えてしまい…。書き手がお互い相手を驚かせようと突拍子もないことを言いあっているだけのようで。
内容的にも、小川洋子さん読者ならお馴染みアンネ・フランクやジョセフ・コーネルなど、その他引用も多く、あれもこれも詰め込みすぎて散らかりすぎ、かつある意味衒学的で、少々飽きてくる。
細部のひとつひとつは好みだけれど、トータルでは今ひとつ。実験的な試みではありました。 -
毎晩、1通ずつ丁寧に読みました。
これは小説のような何か物語ではないので、話の進展がないけれど、こんなに素敵な表現力の文通が存在していたら本当に素敵すぎて、きっと文学が好きな人はうっとりしてしまう本だと思います。
これは早くサラサラ読んでしまっても、あんまりピンと来ないかもしれない。
そのひとつひとつの文を、しっかりと味わいながら読み進めていきます。素敵な世界を覗かせてもらったような気持ちになりました。 -
小川洋子さん、堀江敏幸さん、お二人による往復書簡。今は一緒にいない夫婦の過去の生活や馴れ初め、亡くした子供のことなどに触れながら、今のお互いの暮らしぶりを綴る14通の手紙。難解な文章だけど美しい文に魅了されて読み進めていく。お互いを思いやりながらも心の奥底のわだかまりにお互いが承服出来ずにいる。これはどんなパートナーでも有ることでどこで折り合い、人生を歩んでいくか、なのだと思います。
各手紙に引用されている参考文献も興味深く素晴らしいです。
何回も読み返して美しい文章に触れ、共に生きる人を一生をかけて想っていきたいと思う本です。
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