タラント (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (443ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120055010

感想・レビュー・書評

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  • とべ とべ たかく たかく
    言葉を持たないかのように思えた老人の思い。生きてしまった。何かしたいと思ってはいけない。生きるべきではなかった。でも義足でまた跳ぼうと思った。そこで幼い子どもと出会った。その子どもが清美に手紙を書き続けた。老人からは返事は来ない。老人はコロナ禍で仏様になった。まわりの家族、少女、それに連なるものに、とべ とべ たかく たかく と叫び笑う声を残して。
    ラオスには熱心な仏教徒が多く、徳を積むことで幸福な来世が得られると本当に信じている。そうすれば次に生まれた時、今よりずっと幸せになれる、って信じてるからそうしてるわけ。いいことしてるなんて言う意識もないんじゃないかな。お寺に小鳥を十羽とか入れた籠が売っていて、徳を積みたい人はそれを買って、それを空に放つんだけど、それってみんなそれが善だと信じてるから、偽善なんて思わないんだよね。就職活動に有利だからって理由でボランティアサークルに入ると、何か悪いことしてるみたいに言われるでしょ?打算的だって言われることもあるし。それを気にしてる人もいるし。だけど、来世で幸せになるために犬に親切にすることと、良いところに就職するために街の清掃をするのと、どう違うのかなってずっと考えてる。

  • かなり長編だったけど、するすると読めました。帯のキャッチコピーは「諦めた人生のその先へ。小さな手にも使命(タラント)が灯る」というもの。
    角田光代さんの本って、本当に文書上手いって感じしますよね。#対岸の彼女 とか、#坂の途中の家 とか、他にも色々読んできたけど、今回の作品も「たしかに普段こういう気持ちになる/こう感じることあるけど、それを上手く言葉に出来ない」ようなことを、全て的確に捉えて描写してるのがすごい。そして構成上、時代とか一人称の転換が多いんだけど、それが混乱を生まないのがすごい。
    一見、なに読まされてるのかわからないみたいな箇所もあるけど、それが嫌にならずにちゃんと付いていけるだけの筆力があって、かなり分厚めだったけどスルスルといけた。

  • よかった…!角田さんの作品、どんどん力強くなる。生きるってすげぇ。読み終わって、表表紙、裏表紙だけでなく背表紙までイラストを、眺めてじーんとする。

    戦争はやっぱりしてはいけない。そして自分を疑ったとしても自分のことは受け入れるしかない。

    安全な場所で美味しいものを食べる後ろめたさも、世界に痛みを感じても変える力を持たないことも、知らなければよかったと思うことも、そんなにわたしは頑張れないと思うことも、なぜ生き残ったのが自分なのかなぜ自分よりも生きた方が良さそうに思えるあの人ではないのかと思うことも。
    自分の想いすべてOK、そしてただわたしは、わたしの「タラント」によってわたしが力を入れてしまうことをやる、でよいのだ。

  • 二つの時間軸が交錯する、義足の走り高跳び選手のお話。自分に馴染みのないスポーツを題材にした物語はあまり読んでみようと思うことがない。でもこの本は面白かった。さすが角田光代さん、という感じ。

  • 主人公・みのりが様々な出来事や人と出会い成長し、考える物語。
    パラリンピックと紛争というテーマがとても良かった。
    だが、物語が1999年と2006年、そして現代が交差して同時に進行しているため個人的に読みづらかった。
    また改めてじっくりと読んでみたい。

  • やってみたいと思ったことが、他人から偽善に見えてもやらずに文句だけ言うより数倍マシでは?選択の結果を他人のせいにしてやり過ごす人生は不幸だと思うし…。もっと単純に、自分がやりたいかやりたくないか(やりたくなくてもやらなきゃいけないこともあるけど)で突き進むしかないよね…。
    あと、いくら他人に憧れたところでその人にはなれないのだから自分の人生、「持ってるものでやるしかない」んだよね、やっぱり。

  • 秀作。
    反戦争が根本なんだろうけど、理不尽な境遇、戦争で、病気で、脚を失った人が生きていく設定。
    おじいさんの、飛んでいくようだといったシーンが好き。雲一つない青空の様に感じた。全体的にどんより曇り空のようなストーリーなんで。
    時間軸、孫とおじいさんが交互に語る設定が良い。

  • 感覚と感情は違う。
    おなかがすいた。これは感覚。おながすいてかなしい。これが感情。
    戦争に行った人に残る戦争の傷跡。
    話の中心ではないが、ずっしり響く。


  • 表紙の装丁に目を引かれた。 青1色の中に 義足のアスリートが背面で高跳びのバーを飛び越えようとしている。表紙裏には、バックパックの3人の女性が 松葉杖の少年を見ている。
    お話は 障がいを持った人たちのことなのか?でもなかなかその部分に話がいかない。角田 さんらしくないと思ってネットで調べたら 読売新聞の連載小説と知り合点がいった。 この本の分厚さも。

    ストーリーは、一人称で書かれた部分と、誰か 別の人物が心を吐露する部分とあり、読み終えるとその意味がわかる。あぁそうだったのかと 読者を唸らせる。

    過去から現在へと社会的事件や災害をなぞりながら 装丁の絵に書かれた 確信へと近づいていく。 一歩一歩。

    キーワードは人が何か新しいことを始めようとする時の突き動かされるような「情動」。それが横糸として、そして そこに行き着くまでのその人なりの人生がたて糸として紡がれていく。しかし話を重くしないような配慮がされている。角田さんらしい。

    『たとえ失敗してもダメだったらその時はその時。急がずにゆっくりやってみればいいんじゃない』そのフレーズが心に残る。それでいいんだなと思える。このお話は作者が一粒ずつコツコツと 種をまいていくようなストーリーである。芽が出ることを希望として。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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