刑吏の社会史: 中世ヨ-ロッパの庶民生活 (中公新書 518)
- 中央公論新社 (1978年10月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121005182
感想・レビュー・書評
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膨大な文献を元に中世欧州での"処刑"概念、刑吏の蔑視と賎視をさまざまな実例を元に、あっさりと描いた。1978年刊行、著者初期の代表作。感情を変にこめず、淡々と記述してゆくがゆえに、個々のエピソードが興味深く現れる。「罪は個人や状況が問題でなく、共同体秩序を乱した結果が問題である。よって情状酌量の発想なし」という部族法の概念。14世紀前に欧州で一般的だったという。不勉強で知らなかった。
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死刑について考えられる作品。一般的に言うと死刑は
威嚇/予防の為の刑であると考えられていた。
だが12~13世紀、つまり都市が発展するまでは、死刑は
儀式(神への生け贄)という側面を持っていた。
刑吏が蔑視されるようになったのも都市の成立〜発展に
かけてであり、宗教的側面を忘れつつも死に対する恐怖心が
残ったためであると筆者は述べている。
おもしろいのは刑吏が蔑視されながらも高収入を得つつしかも、医術に関しては最高レベルの知識をもっていたというのは何とも
皮肉な結果である。 -
フォン・アミラその他諸氏の分析の努力にもかかわらず、ある時代・空間に生活する人間集団に共有された単一の整合性ある「世界観」を再構成しようとする努力は、いつも失敗する運命にあるように思われる。いつの時代もひとは、良くも悪くももっと柔軟に、矛盾だらけの方法でもって世界を観ていたのであってみれば。
そのようなわけで終盤の刑吏賤視の起源をめぐる考察はよいけれど、前述の諸学説を紹介する際の著者(阿部)の無批判な態度にはちょっと残念な気持ちにさせられた。 -
ジョジョ第7部「スティール・ボール・ラン」のジャイロ・ツェペリの本職が首斬り役人ってことで、読んでみました。
ジャイロの父親グレゴリオは高潔、厳格で冷徹な執行人だったわけですが、そんなイメージの人物も実在したんですね。
ニュールンベルクの刑吏フランツ・シュミット。自らの職務に誇りを持ち、人間の首の太さと長さを常に意識していたようです。日記をずっとつけていたってところはグレゴリオとは違うところかな。 -
中世から近世にかけて賤民とされた刑吏について、何故彼らが差別されるに至ったかを処刑観の変遷とからめて概観する。異教時代の供犠としての性格を読み取れる神聖な儀式が、キリスト教的な王権論の影響、都市の成立、領邦国家やツンフトの形成の過程で国家権力の発現と見做されるに至るまで。また、都市における新しい人間関係の中で、犯罪を共同責任とする感性が変容したことも挙げる。日本におけるヨーロッパ中世社会史研究の嚆矢だが、現在の研究水準ならばより厳密なアプローチが可能かもしれない。参考文献表あり。
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久々に社会史の本を読む。中世民衆に光を当てた氏の研究の力を感じる。 20071123